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一章 スタートライン
冒険者組合での一幕
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俺達は家を出た後馬車を借り、ガタガタの田舎道を二時間半ほど行くと高い壁に包まれた城が見えてきた。
壁は高さは100mくらいだろうか。それよりも大きい城は200mほど。
「あ、見えましたよ! あれが村から一番近い街、エルフィムです。 ここはアリスティア伯爵の領地なので商業関係が発達しています」
エリスは鼻歌混じりで説明してくれる。
貴族か。この世界は階級社会なのかな?
「・・・にしても高い壁だな。あそこまで高くする必要あるか?」
「ええ。空を飛ぶ魔物もいますし、侵入を防ぐためですね」
魔物ねぇ・・・。狂暴な動物を魔物と呼ぶわけではないと思うし、そういう区分の生き物がいるという訳か、やっぱり異世界だな。
逆に言うとこの世界には戦闘機や爆撃機の様なものは無いのかもしれない。あったとしたらここまで大きな壁は造らない。造った所で無駄に終わるだけなのだから。
「あの・・・」
「ん?」
エリスが気まずそうに訪ねてきた。
「やっぱり名前決めません? このまま名無しさんというのもあれなので・・・」
確かにそうだな。
「わかった。じゃあ何がいいかな・・・」
二人であれこれ考えて約三分。
「あ! 『レクト』なんてどうですか?」
ふむ。悪くはない。
「いいけど、どうしてその名前に?」
「この近くにはレクトという花が咲いているんです。その花言葉は『未知』。私にとっての未知は貴方ですし、貴方にとってはこの世界は未知の世界。という感じなのですが・・・」
めちゃめちゃええやん
「ありがとう。これからはレクトって名乗るよ」
「はい! よろしくお願いします、レクトさん!」
そうして、俺達は笑顔で握手を交わした。
~~~~~~~~~~~~~~~
城壁の麓には鎧を着た騎士風の人達がいて、簡単な荷物検査が行われたが、何事もなく(拳銃は若干奇妙な目で見ていたが)街に入ることができた。
街は煉瓦の家々が並び、相当な数の人がいる。中央には純白の城が堂々と聳え立っている。
俺達は専用の駐馬車場に馬を置き、服や食料を買った。そして今は商店街を散策している。
「にしてもこのメンチカツ美味しいな。何の肉だ? ・・・あむ」
「フェルト・ファンゴですよ。毛がとても上質なので、基本は毛を採取して治癒魔法をかけるのですが・・・メンチカツにするのはめずらしいですね。・・・はむぅ」
フェルト・ファンゴ? 見た目が分からないけど名前はゴツい感じたな。 ・・・あむ
「そう言えば異世界出身なのにどうして言語通じるんですか?」
・・・確かに。先程服屋や八百屋、魚屋等の色々な所でに行ったのだが文字も何故か頭に浮かんでくるし、言葉も何故か通じている。
「まあ俺もよく分からないけど別に良いんじゃないか? 実際、おかげで助かっているし」
「それもそうですね。 ・・・あ! あそこのクレープ屋さん行っていいですか? あそこのクレープ美味しいので!」
「ああ。構わないよ。むしろ俺も行きたい」
俺達はクレープを買い、食べながら次の目的地を目指す。
「なぁ。次はどこに行くんだ?」
エリスはニコニコしている。というより、エリスは基本たのしそうだ。
「 はむぅ・・・。んっ・・・。次は冒険者組合です。レクトさんの情報や、有事の際に戦えるようにしておかないといけませんからね」
「ん? 有事の際?」
「ええ。レクトさんの世界ではどのようや法律か分かりませんが、この国ではちゃんと冒険者組合に名前をのせている人でなければ戦ってはいけないことになっています。レクトさんが戦えるかは分かりませんが、もしものためです」
エリスは『ドヤァ!』という表情をしている。
「ついでに魔法適性も調べてもらいましょう。レクトさんもどんな魔法が使えるか楽しみではないですか?」
もし使えるなら戦闘向けの方がいいかもな。何かあったら困るからな。
にしても、魔法ねぇ・・・。本当にファンタジーな異世界か・・・。
今日何度目か分からない同じような思いが胸の中を駆け巡る。
もし魔法が使えないとしても、俺はコイツでなんとかしてやるさ。
そんな思いで、俺は腰にあるベレッタを優しく撫でた。多分なんとかなるだろうとも思いながら。
~~~~~~~~~~~~~~~
冒険者組合は俺が想像していたよりとても大きかった。形は白い煉瓦の館で二階建て。正面には大きな鉄の扉があり、金で縁取りがしてある。
そして、その扉を潜っている大柄のフルプレートを着た戦士(ヘルムを被っているので、男女かわからない。多分男)や露出度の高い服を着た女性など、いかにもファンタジー人達が多数。
「ささ、中に入りましょ」
なかなか入るの厳しいなぁ。
俺は扉を開き、中に入る。
「ほう・・・」
中は市役所や郵便局に似た作りになっている。ただ、窓口の数が尋常ではない。薬草採取や護衛任務、魔物退治などがあり、魔物退治一つでも小型から大型、変異種など、色々ある。どうやら依頼によって部署が違うらしい。中央には螺旋階段と掲示板。二階にはテーブルや椅子、料理屋がある。
俺達はまっすぐ冒険者登録の窓口に進んだ。
「いらっしゃいませ。ご用件は冒険者登録でよろしいですか?」
窓口のお姉さんはマニュアル通りのようにハキハキと話す。窓口があると楽そうだ。
「その前にベルキューアさんを呼んで頂けますか?」
「カストルス卿ですか? ということは・・・、セクトルス卿ですね。畏まりました。すぐにお呼びします。」
役員のお姉さんは奥に入っていく。
「ベルキューアさん?」
「あー。レクトさん知らないんですよね。・・・まず、この国では魔法を使える人間を魔法師と言います」
まあ魔法があるんだから使える人間に名前があるわな。
「そして、この国は強い魔法師にはランキングをつけてるんです。それが魔法師序列。ベルキューア・カストルスさんは、アイクレルト王国の魔法師序列5位で、『魔法剣師』と呼ばれています。幅広い魔法を扱っている彼女ならレクトさんがこの世界に来た原因もわかるかもしれないとおもったのでよびました」
この世界に原因か。確かにわからないのは困るかもしれない。
「まあ、私の知り合いの中で一番近く、一番魔法師序列が高いという理由もありますが」
そんな会話をしていると、奥から小柄で白いフードを被った女の子がやって来た。腰に剣を収めており、赤髪で少し目付きが鋭い。だが、それでも可愛さはある。
正直この世界には顔面偏差値が高い人間が多い。エリスやベルキューアさん、それに組合内を見回しても相当美形な人がいる。前の世界では、自分はよくも悪くも中間だと思いたかったが、ここでは下の上だろう。
「待たせたなエリス!今回はどうした?」
ベルキューアさんは『にぱっ』と笑う。
「お久しぶりですね! ベルキューアさん! 実は・・・」
エリスは経緯を詳しく話すと、マジマジと俺の事を見つめてくる。・・・なんだよ、照れるじゃんか。
「なるほどな。で、そのにいちゃんがレクトか」
「よろしくお願いします」
「おう! 説明があったとは思うが、一応。俺がアイクレルト王国魔法師序列第5位のベルキューア・カストルスだ! 敬語も要らないし、俺の事を呼ぶときは『ベル』でいいぜ」
なるほど。女なのに一人称は『俺』なのか。
「よろしく。早速だけど、俺がこの世界に来た理由ってわかるか?」
「いや~。多分転移魔法だと思うんだけど、俺は転移系統の魔法は一つしか習得していないからあまりよくわからん! だが、異世界から転移させるなんて並大抵の魔法師の技量じゃあできねぇからな。他の奴に聞いても同じかもな」
ガハハ、とベルは笑う。
転移魔法か。好きなように簡単に移動できるのは便利だな。
「そういや、エリスはどうなんだよ。エリスの技量なら転移系統の一つや二つあるんじゃねーの?」
「残念ながら転移系統はないんですよ。私の戦い方とは違うので。それに代用も効きますから」
「あれ? エリス戦えるの? 以外だな」
「エリスは結構強いぜ、そういうにい兄ちゃんはどうなんだよ?」
なんか身長と口調のギャップがすごいな。
「まあ前の世界のレベルだと護身術程度なら、ていう感じかな」
「ほうほう。なるほどなるほど。よし、ためしに計ってみるか」
そう言ってベルは不思議な機械をとりだした。魔法陣の描かれた手をかざす場所と、半透明のタッチパネルが浮いているものだ。
「これは体内の最大魔力量と適性魔法が分かる機械だ。魔力は魔法を使うために必要な体内の気体のことだ。そして最大魔力量は自分の体の中にどのくらい魔力を溜め込めるか、適性魔法は自分の習得しやすい魔法の系統、というものだぜ」
この世界なりの身体測定みたいなものか。
「あ、一回500マルクな」
「金とるのかよ」
マルクとはこの世界のお金だ。さっき商店街を見回してみたが大体100マルク=1ドル、位だ。
「俺は金持ってないんだよ」
「私が払いますよ」
「すまない・・・」
女性にお金を払わせるのは男としてどうかと思う。自分の事だけど!
「いえいえ。ここに連れてきたのは私ですから」
エリスがお金を払い、俺は魔法陣に手を置いた。
すると、魔法陣が緑、黄色、赤の順に光った。人工的な光ではなく、もっと別の、神聖な光だ。やがて光は止み、タッチパネルに文字が表示された。
ベルはパネルを覗く。すると唖然とした表情を見せた。
「おい、にいちゃん・・・。どうやって生きてきた?」
「え?」
いや、普通に軍人やってましたけど?
「はっきり言うと・・・物凄く弱い」
え?
「まず、最大魔力量が平均の4分の1。まずこの時点で、量に関して言えばそこら辺の虫でも持ってるレベルだ」
俺=虫、ですか・・・。なかなか傷つくな・・・
「次に適性魔法がない。通常、一つや二つあるはずなんだがにいちゃんにはないんだ。つまり一つ魔法を覚えるのに相当な時間がかかる」
・・・。
「あと、体外に魔力を出す機能が体にないから、この世界じゃ生きにくいかもな」
・・・。
「本当に珍しい方ですね。あ・・・、レクトさんが死んだ目をしていますよ」
「そっとしといてあげな・・・」
~~~~~~~~~~~~~~~
「おいにいちゃん。手続き終わったぜ」
「・・・え?」
時計を見るとあれから30分もたっていた。いや、しょうがないでしょ。異世界に来て魔法使えないって言われたら、だれだって死にたくなるはず。
「気持ちは分からなくはないからさ、元気出せよ。ほら冒険者登録完了だ」
そう言って一枚の金属プレートを渡してきた。レクトという文字と、冒険者ナンバーという項目に1453329、滞在場所という項目にはエルフィムと書かれてある。
「いわゆる身分証明書だ。これの再発行は6000マルクかかるからな。大事にしろよ」
以外に高いな。
「ああ。今日はありがとう」
「ありがとうございました」
俺とエリスは礼を言った。が、ベルはまだ終わっていないようだった。
「ちょっと待て。にいちゃん手を出しな」
ベルは神妙な顔をしてそう言ってきた。
よくわからないが、まあ良くしてくれているから心配は無いだろう。
するとベルはいきなり右手を揉み始めた。
「ふぇぇ!?」
奇声をあげるがやむ気配がない。
そして数分後・・・
「よし! オッケーだ。体の調子はどうだ?」
どうって言われても・・・ ん?
「体が軽い?」
何故かさっきより体が軽くなっている。そして何かが体を流れるような感覚・・・。まさか。
「これが魔力か?」
「おっ! 手応えありか! 多分そうだ。さっきの4倍は動けるはずだ。見た感じ魔力が流れていなかったから、ちょっとやってみたらうまくいったぜ!」
「本当にありがとう。また来るよ」
「おう! 今度は飯を食わせろよ。にいちゃんのおごりな!」
会ったときと同じによう、にぱっと笑ったベル。
俺はそんなベルに手を振りながら冒険者組合を後にした。
壁は高さは100mくらいだろうか。それよりも大きい城は200mほど。
「あ、見えましたよ! あれが村から一番近い街、エルフィムです。 ここはアリスティア伯爵の領地なので商業関係が発達しています」
エリスは鼻歌混じりで説明してくれる。
貴族か。この世界は階級社会なのかな?
「・・・にしても高い壁だな。あそこまで高くする必要あるか?」
「ええ。空を飛ぶ魔物もいますし、侵入を防ぐためですね」
魔物ねぇ・・・。狂暴な動物を魔物と呼ぶわけではないと思うし、そういう区分の生き物がいるという訳か、やっぱり異世界だな。
逆に言うとこの世界には戦闘機や爆撃機の様なものは無いのかもしれない。あったとしたらここまで大きな壁は造らない。造った所で無駄に終わるだけなのだから。
「あの・・・」
「ん?」
エリスが気まずそうに訪ねてきた。
「やっぱり名前決めません? このまま名無しさんというのもあれなので・・・」
確かにそうだな。
「わかった。じゃあ何がいいかな・・・」
二人であれこれ考えて約三分。
「あ! 『レクト』なんてどうですか?」
ふむ。悪くはない。
「いいけど、どうしてその名前に?」
「この近くにはレクトという花が咲いているんです。その花言葉は『未知』。私にとっての未知は貴方ですし、貴方にとってはこの世界は未知の世界。という感じなのですが・・・」
めちゃめちゃええやん
「ありがとう。これからはレクトって名乗るよ」
「はい! よろしくお願いします、レクトさん!」
そうして、俺達は笑顔で握手を交わした。
~~~~~~~~~~~~~~~
城壁の麓には鎧を着た騎士風の人達がいて、簡単な荷物検査が行われたが、何事もなく(拳銃は若干奇妙な目で見ていたが)街に入ることができた。
街は煉瓦の家々が並び、相当な数の人がいる。中央には純白の城が堂々と聳え立っている。
俺達は専用の駐馬車場に馬を置き、服や食料を買った。そして今は商店街を散策している。
「にしてもこのメンチカツ美味しいな。何の肉だ? ・・・あむ」
「フェルト・ファンゴですよ。毛がとても上質なので、基本は毛を採取して治癒魔法をかけるのですが・・・メンチカツにするのはめずらしいですね。・・・はむぅ」
フェルト・ファンゴ? 見た目が分からないけど名前はゴツい感じたな。 ・・・あむ
「そう言えば異世界出身なのにどうして言語通じるんですか?」
・・・確かに。先程服屋や八百屋、魚屋等の色々な所でに行ったのだが文字も何故か頭に浮かんでくるし、言葉も何故か通じている。
「まあ俺もよく分からないけど別に良いんじゃないか? 実際、おかげで助かっているし」
「それもそうですね。 ・・・あ! あそこのクレープ屋さん行っていいですか? あそこのクレープ美味しいので!」
「ああ。構わないよ。むしろ俺も行きたい」
俺達はクレープを買い、食べながら次の目的地を目指す。
「なぁ。次はどこに行くんだ?」
エリスはニコニコしている。というより、エリスは基本たのしそうだ。
「 はむぅ・・・。んっ・・・。次は冒険者組合です。レクトさんの情報や、有事の際に戦えるようにしておかないといけませんからね」
「ん? 有事の際?」
「ええ。レクトさんの世界ではどのようや法律か分かりませんが、この国ではちゃんと冒険者組合に名前をのせている人でなければ戦ってはいけないことになっています。レクトさんが戦えるかは分かりませんが、もしものためです」
エリスは『ドヤァ!』という表情をしている。
「ついでに魔法適性も調べてもらいましょう。レクトさんもどんな魔法が使えるか楽しみではないですか?」
もし使えるなら戦闘向けの方がいいかもな。何かあったら困るからな。
にしても、魔法ねぇ・・・。本当にファンタジーな異世界か・・・。
今日何度目か分からない同じような思いが胸の中を駆け巡る。
もし魔法が使えないとしても、俺はコイツでなんとかしてやるさ。
そんな思いで、俺は腰にあるベレッタを優しく撫でた。多分なんとかなるだろうとも思いながら。
~~~~~~~~~~~~~~~
冒険者組合は俺が想像していたよりとても大きかった。形は白い煉瓦の館で二階建て。正面には大きな鉄の扉があり、金で縁取りがしてある。
そして、その扉を潜っている大柄のフルプレートを着た戦士(ヘルムを被っているので、男女かわからない。多分男)や露出度の高い服を着た女性など、いかにもファンタジー人達が多数。
「ささ、中に入りましょ」
なかなか入るの厳しいなぁ。
俺は扉を開き、中に入る。
「ほう・・・」
中は市役所や郵便局に似た作りになっている。ただ、窓口の数が尋常ではない。薬草採取や護衛任務、魔物退治などがあり、魔物退治一つでも小型から大型、変異種など、色々ある。どうやら依頼によって部署が違うらしい。中央には螺旋階段と掲示板。二階にはテーブルや椅子、料理屋がある。
俺達はまっすぐ冒険者登録の窓口に進んだ。
「いらっしゃいませ。ご用件は冒険者登録でよろしいですか?」
窓口のお姉さんはマニュアル通りのようにハキハキと話す。窓口があると楽そうだ。
「その前にベルキューアさんを呼んで頂けますか?」
「カストルス卿ですか? ということは・・・、セクトルス卿ですね。畏まりました。すぐにお呼びします。」
役員のお姉さんは奥に入っていく。
「ベルキューアさん?」
「あー。レクトさん知らないんですよね。・・・まず、この国では魔法を使える人間を魔法師と言います」
まあ魔法があるんだから使える人間に名前があるわな。
「そして、この国は強い魔法師にはランキングをつけてるんです。それが魔法師序列。ベルキューア・カストルスさんは、アイクレルト王国の魔法師序列5位で、『魔法剣師』と呼ばれています。幅広い魔法を扱っている彼女ならレクトさんがこの世界に来た原因もわかるかもしれないとおもったのでよびました」
この世界に原因か。確かにわからないのは困るかもしれない。
「まあ、私の知り合いの中で一番近く、一番魔法師序列が高いという理由もありますが」
そんな会話をしていると、奥から小柄で白いフードを被った女の子がやって来た。腰に剣を収めており、赤髪で少し目付きが鋭い。だが、それでも可愛さはある。
正直この世界には顔面偏差値が高い人間が多い。エリスやベルキューアさん、それに組合内を見回しても相当美形な人がいる。前の世界では、自分はよくも悪くも中間だと思いたかったが、ここでは下の上だろう。
「待たせたなエリス!今回はどうした?」
ベルキューアさんは『にぱっ』と笑う。
「お久しぶりですね! ベルキューアさん! 実は・・・」
エリスは経緯を詳しく話すと、マジマジと俺の事を見つめてくる。・・・なんだよ、照れるじゃんか。
「なるほどな。で、そのにいちゃんがレクトか」
「よろしくお願いします」
「おう! 説明があったとは思うが、一応。俺がアイクレルト王国魔法師序列第5位のベルキューア・カストルスだ! 敬語も要らないし、俺の事を呼ぶときは『ベル』でいいぜ」
なるほど。女なのに一人称は『俺』なのか。
「よろしく。早速だけど、俺がこの世界に来た理由ってわかるか?」
「いや~。多分転移魔法だと思うんだけど、俺は転移系統の魔法は一つしか習得していないからあまりよくわからん! だが、異世界から転移させるなんて並大抵の魔法師の技量じゃあできねぇからな。他の奴に聞いても同じかもな」
ガハハ、とベルは笑う。
転移魔法か。好きなように簡単に移動できるのは便利だな。
「そういや、エリスはどうなんだよ。エリスの技量なら転移系統の一つや二つあるんじゃねーの?」
「残念ながら転移系統はないんですよ。私の戦い方とは違うので。それに代用も効きますから」
「あれ? エリス戦えるの? 以外だな」
「エリスは結構強いぜ、そういうにい兄ちゃんはどうなんだよ?」
なんか身長と口調のギャップがすごいな。
「まあ前の世界のレベルだと護身術程度なら、ていう感じかな」
「ほうほう。なるほどなるほど。よし、ためしに計ってみるか」
そう言ってベルは不思議な機械をとりだした。魔法陣の描かれた手をかざす場所と、半透明のタッチパネルが浮いているものだ。
「これは体内の最大魔力量と適性魔法が分かる機械だ。魔力は魔法を使うために必要な体内の気体のことだ。そして最大魔力量は自分の体の中にどのくらい魔力を溜め込めるか、適性魔法は自分の習得しやすい魔法の系統、というものだぜ」
この世界なりの身体測定みたいなものか。
「あ、一回500マルクな」
「金とるのかよ」
マルクとはこの世界のお金だ。さっき商店街を見回してみたが大体100マルク=1ドル、位だ。
「俺は金持ってないんだよ」
「私が払いますよ」
「すまない・・・」
女性にお金を払わせるのは男としてどうかと思う。自分の事だけど!
「いえいえ。ここに連れてきたのは私ですから」
エリスがお金を払い、俺は魔法陣に手を置いた。
すると、魔法陣が緑、黄色、赤の順に光った。人工的な光ではなく、もっと別の、神聖な光だ。やがて光は止み、タッチパネルに文字が表示された。
ベルはパネルを覗く。すると唖然とした表情を見せた。
「おい、にいちゃん・・・。どうやって生きてきた?」
「え?」
いや、普通に軍人やってましたけど?
「はっきり言うと・・・物凄く弱い」
え?
「まず、最大魔力量が平均の4分の1。まずこの時点で、量に関して言えばそこら辺の虫でも持ってるレベルだ」
俺=虫、ですか・・・。なかなか傷つくな・・・
「次に適性魔法がない。通常、一つや二つあるはずなんだがにいちゃんにはないんだ。つまり一つ魔法を覚えるのに相当な時間がかかる」
・・・。
「あと、体外に魔力を出す機能が体にないから、この世界じゃ生きにくいかもな」
・・・。
「本当に珍しい方ですね。あ・・・、レクトさんが死んだ目をしていますよ」
「そっとしといてあげな・・・」
~~~~~~~~~~~~~~~
「おいにいちゃん。手続き終わったぜ」
「・・・え?」
時計を見るとあれから30分もたっていた。いや、しょうがないでしょ。異世界に来て魔法使えないって言われたら、だれだって死にたくなるはず。
「気持ちは分からなくはないからさ、元気出せよ。ほら冒険者登録完了だ」
そう言って一枚の金属プレートを渡してきた。レクトという文字と、冒険者ナンバーという項目に1453329、滞在場所という項目にはエルフィムと書かれてある。
「いわゆる身分証明書だ。これの再発行は6000マルクかかるからな。大事にしろよ」
以外に高いな。
「ああ。今日はありがとう」
「ありがとうございました」
俺とエリスは礼を言った。が、ベルはまだ終わっていないようだった。
「ちょっと待て。にいちゃん手を出しな」
ベルは神妙な顔をしてそう言ってきた。
よくわからないが、まあ良くしてくれているから心配は無いだろう。
するとベルはいきなり右手を揉み始めた。
「ふぇぇ!?」
奇声をあげるがやむ気配がない。
そして数分後・・・
「よし! オッケーだ。体の調子はどうだ?」
どうって言われても・・・ ん?
「体が軽い?」
何故かさっきより体が軽くなっている。そして何かが体を流れるような感覚・・・。まさか。
「これが魔力か?」
「おっ! 手応えありか! 多分そうだ。さっきの4倍は動けるはずだ。見た感じ魔力が流れていなかったから、ちょっとやってみたらうまくいったぜ!」
「本当にありがとう。また来るよ」
「おう! 今度は飯を食わせろよ。にいちゃんのおごりな!」
会ったときと同じによう、にぱっと笑ったベル。
俺はそんなベルに手を振りながら冒険者組合を後にした。
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