弱小転移者の戦旅譚

ぶなしめじ

文字の大きさ
22 / 29
一章 スタートライン

追憶の片鱗

しおりを挟む

 私は強者として生まれてきたとは思っていない。

 ただ、流れるように。そして、微かな野心と共に生きてきた。

 だが、私はあの一件で確信へと変わったのだよ。

 第一次世界大戦末期。かの忌々しいマスタードガスを食らって視力が落ち、その治療の最中だ。


 このドイツを救う事こそ私の使命だと。

 
 だから1919年11月。我が国が降伏したと聞いた時は発狂しそうになったよ。

 次の日。私の視力は完全回復していた。

 それは何故だが分からなかったが、そんな事はどうでもよかった。

 今度こそは私がこの弱いドイツを変えてみせる。

 だから私は国際社会主義ドイツ労働者党を形成した。

 そして私は失敗した。

 1度目はミュンヘン一揆、2度目は第二次世界大戦。

 世界を変えるチャンスが目の前にあったはずだったのだが、結局同じ結果になってしまった。


 私が救おうとしたドイツは私のせいで地に落ちたのだ。これ程情けないことは無いさ。

 だから、死ぬ間際、私は妻と誓ったよ。

 次こそは間違えはしないと。

 だが、結局間違えてしまった。この世界では全てのやり方を間違えてしまったのだよ。

 そうして気がついたのさ。結局私がしては同じ事を繰り返すだけだと・・・。


 ~~~~~~~~~~~~~~~


 ・・・なるほどな。
 弾丸を額に打ち込んだ後、アムネルから不思議な念が送られてきた。
 
 第二次世界大戦時にドイツを引っ張ってきた男の後悔の念。救おうとしてその想いがねじ曲がった結果、結局何も変えられなかった。

 「そういう事か? ヒトラー」
 「・・・そうさ。だから私の目的は誰かに託すべきだった。そして、今その誰かは私の前にいるのだよ」

 「俺か? 俺はそんな一国を救うなんて無理だぞ?」
 ヒトラーは少しずつ目を閉じながら笑う。
 「違うさ。君に継いで欲しいのは『この世界の攻略法』。その鍵さ」

 ちょっと話が大きくなってきたぞ?
「攻略法? なんだそれは?」
「・・・実際は不明だが、その不明を明かせるかもしれない鍵は私が持っている。・・・無理にとは言わないさ。君には断る権利があるよ」

 こいつも悪い事をしてきたけど、自分のしたい事、しなきゃいけないと思った事をやって来たんだな。それでも自分には全てが足りないと分かって、俺に託そうとしているんだよな。

 「受け取るよ。どんな人であれ、それはその人なりの生きる意味だったんだ。受け取らなきゃな」
 「・・・感謝するよ」
 ヒトラーは俺に手を差し伸べた。だから俺も手を重ねた。

 すると、その手の中に光の粒子が集まり、やがて銀色のペンダントを形成する。
 「これが攻略の鍵だよ。大事にしてくれよ」
 「ああ。分かってる」

 俺はそう言うと、ヒトラーは目を閉じたまま薄く笑った。
 「それじゃ、私はこれでこの世界とはお別れさせて貰うよ」
 「そうか。・・・あ、そうだ」

 まだ言わなければいかない事があったな。
 「・・・どうしたのかな?」
 「生まれ変わったら、もう間違えた道に進むなよ」
 「分かった。レクトくんとの約束だね」

 こうして、超級種の大悪魔アムネルは息を引き取った。


~~~~~~~~~~~~~~~


 あの激闘から2週間程。エルフィムの街は元通りとなっていた。人々はいつも通り生活しているし、爺さんが焦土にした街の鱗片もない。

 そんな街を俺とエリスはデート気分で歩く。・・・いや、デートなんてした事ないけどな。
 「いやあ。あの時のレクトさんは本当にカッコよかったですよ。普通に惚れちゃいましたからね」

 エリスはメンチカツを食べながら俺を煽ててくる。
 そんなにカッコイイこと言ったかな?
 「・・・それっぽい事言っただけだろ、別にカッコつけて言ったわけじゃない」

 「それが出来るからこそのレクトさんだと思いますよ」
 「・・・そうかね」
 「そうですよ」
 少し会話すると分かってくるが、やはり大分距離が縮まったと思う。・・・感だが。

 「そう言えば、アムネルが持っていたペンダントはどうしました?」
 「ん? あれはアディルに渡したぞ。アディル曰く自分の特殊技能スキルが解析向けなんだとか」
 特殊技能スキルについてはよく分からない部分が多いからな。そこら辺も後でエリスに聞いてみるか。

 「あ、そうだレクトさん。言わなければいけない事がありました」
 「ん?」
 「・・・あー。・・・うー。」
 そう言って切り出したエリスだが、中々話そうとしない。

 「・・・今回は私の願いを叶えてくれてありがとうございました。お陰で父さんの努力も報われました」
 「いや、別にいいよ。俺がしたくて協力しただけだしな」
 
 「それでも、ですよ。私は本当に感謝してるんです」
 「・・・ああ。分かったよ。分かったからさ、今はもう少しこの街を楽しもうぜ」
 俺の流しにエリスは呆れたように笑った。
 
 「もう。・・・分かりましたよ」
 そしてエリスは俺の前へと出る。
 俺へと向き直ったエリスは万遍の笑みを浮かべた。


 「それじゃあ、私と2人で一緒に散策しましょうか!」


 その笑顔は以前の復讐の裏側の笑顔では無く、心の底からの、嬉しさが溢れ出ている笑顔だった。


~~~~~~~~~~~~~~~


 その日の夜。エール・ゼルヴィン領城では一人の老人が資料を見て計画を立てていた。
 「ふむ。なるほど。このペースで行けばあと半年で行けるじゃろうな」

 「おや。どうしましたかゼルヴィン卿?」
 「・・・この声はセクトルス卿じゃな? こんな時間に人の家へと無断で入り込むのはマナーがなっていないと思うのじゃが?」
 入り口の近くには黒いドレスを着たエリスが何食わぬ表情で立っていた。
 そんな中、バジステラはあくまで冷静に事を収めるつもりだ。

 しかし、ここに居るのは魔法師序列でも上位の存在。仕掛けるのなら確定で穏便に済ますことは出来ない。
 「いえいえ。今回の件についてのお礼の言葉を頂かなくてはいけませんからね」

 バジステラは本気でとぼける。が、それは演技だ。
 「とぼけなくてもいいですよ。何故、私が敵拠点を壊さなかったのか、知ってるはずですからね」

 「ほう。本当に分からないのう」
 エリスは本気でため息をつく。
 「説明してあげましょうか? 何故貴方が王家への反逆を目論んでいることが露見しているのかを」

 突如、バジステラの目付きが変わる。優しい老人から残忍な暗殺者の目へと。
 「今回、ゼルヴィン卿は私の目的へ協力して下さいました。ですからそのお礼として・・・」

 「異世界の技術じゃろ? お陰で未知の技術が手に入ったからの」
 「ええ。その分のお礼の言葉を頂かなくてはいけませんからね」

 だが、バジステラはそのエリスの言葉を嘘だと見抜き、本当は何をしに来たのかを看破する。
 「違うじゃろ? お主が欲しいのは『安全』じゃな?」

 そんな言葉にエリスは目を丸くする。
 「おや? バレましたか。今後の私達へ危害を加えないという事の言質を取りに来ました。それだけですよ」
 「ホッホッ。それなら無駄足じゃったな。今後、ワシが危害を加える事は無いじゃろ」

 「それならいいです。・・・あ、忘れてました」
 「なんじゃ?」
 バジステラが面倒くさそうにエリスへと向き直る。

 「〈指定転移〉ポインターテレポーテーションの道具を忘れてしまいましたので〈転移門〉ゲートをだして下さい・・・。場所はアディルさんの工房で」
バジステラははあ、と深いため息をついた。

 「ほい。それじゃあの」
 こうして、エリスは〈転移門〉ゲートの中へと消えていく。

 「頭がキレるのか、少し抜けてるのか。よく分からないのう」
 バジステラは本気でそう思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

{完結保証}規格外の最強皇子、自由に生きて無双する〜どこへ行っても、後世まで語られる偉業を残していく、常識外れの皇子〜

Saioonji
ファンタジー
母に殴られ、命を奪われた――そのはずだった。 だが目を覚ました先は、白く豪奢な王城の一室。 赤子の身体、仕えるメイド、そして“皇子”という立場。 前世では愛されず、名前すら価値を持たなかった少年が、 今度は世界の中心に生まれ落ちてしまった。 記憶を失ったふりをしながら、 静かに、冷静に、この世界を観察する皇子。 しかし彼の中には、すでに常識外れの思考と力が芽生えていた。 ――これは復讐でも、救済でもない。 自由を求めただけの少年が、 やがて国を、歴史を、価値観そのものを揺るがしていく物語。 最強であることすら、彼にとってはただの前提条件だった。 重複投稿作品です 小説家になろうとカクヨムにも投稿しています。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福無双。〜メシ作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。 転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。 - 週間最高ランキング:総合297位 - ゲス要素があります。 - この話はフィクションです。

処理中です...