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一章 スタートライン
追憶の片鱗
しおりを挟む私は強者として生まれてきたとは思っていない。
ただ、流れるように。そして、微かな野心と共に生きてきた。
だが、私はあの一件で確信へと変わったのだよ。
第一次世界大戦末期。かの忌々しいマスタードガスを食らって視力が落ち、その治療の最中だ。
このドイツを救う事こそ私の使命だと。
だから1919年11月。我が国が降伏したと聞いた時は発狂しそうになったよ。
次の日。私の視力は完全回復していた。
それは何故だが分からなかったが、そんな事はどうでもよかった。
今度こそは私がこの弱いドイツを変えてみせる。
だから私は国際社会主義ドイツ労働者党を形成した。
そして私は失敗した。
1度目はミュンヘン一揆、2度目は第二次世界大戦。
世界を変えるチャンスが目の前にあったはずだったのだが、結局同じ結果になってしまった。
私が救おうとしたドイツは私のせいで地に落ちたのだ。これ程情けないことは無いさ。
だから、死ぬ間際、私は妻と誓ったよ。
次こそは間違えはしないと。
だが、結局間違えてしまった。この世界では全てのやり方を間違えてしまったのだよ。
そうして気がついたのさ。結局私がしては同じ事を繰り返すだけだと・・・。
~~~~~~~~~~~~~~~
・・・なるほどな。
弾丸を額に打ち込んだ後、アムネルから不思議な念が送られてきた。
第二次世界大戦時にドイツを引っ張ってきた男の後悔の念。救おうとしてその想いがねじ曲がった結果、結局何も変えられなかった。
「そういう事か? ヒトラー」
「・・・そうさ。だから私の目的は誰かに託すべきだった。そして、今その誰かは私の前にいるのだよ」
「俺か? 俺はそんな一国を救うなんて無理だぞ?」
ヒトラーは少しずつ目を閉じながら笑う。
「違うさ。君に継いで欲しいのは『この世界の攻略法』。その鍵さ」
ちょっと話が大きくなってきたぞ?
「攻略法? なんだそれは?」
「・・・実際は不明だが、その不明を明かせるかもしれない鍵は私が持っている。・・・無理にとは言わないさ。君には断る権利があるよ」
こいつも悪い事をしてきたけど、自分のしたい事、しなきゃいけないと思った事をやって来たんだな。それでも自分には全てが足りないと分かって、俺に託そうとしているんだよな。
「受け取るよ。どんな人であれ、それはその人なりの生きる意味だったんだ。受け取らなきゃな」
「・・・感謝するよ」
ヒトラーは俺に手を差し伸べた。だから俺も手を重ねた。
すると、その手の中に光の粒子が集まり、やがて銀色のペンダントを形成する。
「これが攻略の鍵だよ。大事にしてくれよ」
「ああ。分かってる」
俺はそう言うと、ヒトラーは目を閉じたまま薄く笑った。
「それじゃ、私はこれでこの世界とはお別れさせて貰うよ」
「そうか。・・・あ、そうだ」
まだ言わなければいかない事があったな。
「・・・どうしたのかな?」
「生まれ変わったら、もう間違えた道に進むなよ」
「分かった。レクトくんとの約束だね」
こうして、超級種の大悪魔アムネルは息を引き取った。
~~~~~~~~~~~~~~~
あの激闘から2週間程。エルフィムの街は元通りとなっていた。人々はいつも通り生活しているし、爺さんが焦土にした街の鱗片もない。
そんな街を俺とエリスはデート気分で歩く。・・・いや、デートなんてした事ないけどな。
「いやあ。あの時のレクトさんは本当にカッコよかったですよ。普通に惚れちゃいましたからね」
エリスはメンチカツを食べながら俺を煽ててくる。
そんなにカッコイイこと言ったかな?
「・・・それっぽい事言っただけだろ、別にカッコつけて言ったわけじゃない」
「それが出来るからこそのレクトさんだと思いますよ」
「・・・そうかね」
「そうですよ」
少し会話すると分かってくるが、やはり大分距離が縮まったと思う。・・・感だが。
「そう言えば、アムネルが持っていたペンダントはどうしました?」
「ん? あれはアディルに渡したぞ。アディル曰く自分の特殊技能が解析向けなんだとか」
特殊技能についてはよく分からない部分が多いからな。そこら辺も後でエリスに聞いてみるか。
「あ、そうだレクトさん。言わなければいけない事がありました」
「ん?」
「・・・あー。・・・うー。」
そう言って切り出したエリスだが、中々話そうとしない。
「・・・今回は私の願いを叶えてくれてありがとうございました。お陰で父さんの努力も報われました」
「いや、別にいいよ。俺がしたくて協力しただけだしな」
「それでも、ですよ。私は本当に感謝してるんです」
「・・・ああ。分かったよ。分かったからさ、今はもう少しこの街を楽しもうぜ」
俺の流しにエリスは呆れたように笑った。
「もう。・・・分かりましたよ」
そしてエリスは俺の前へと出る。
俺へと向き直ったエリスは万遍の笑みを浮かべた。
「それじゃあ、私と2人で一緒に散策しましょうか!」
その笑顔は以前の復讐の裏側の笑顔では無く、心の底からの、嬉しさが溢れ出ている笑顔だった。
~~~~~~~~~~~~~~~
その日の夜。エール・ゼルヴィン領城では一人の老人が資料を見て計画を立てていた。
「ふむ。なるほど。このペースで行けばあと半年で行けるじゃろうな」
「おや。どうしましたかゼルヴィン卿?」
「・・・この声はセクトルス卿じゃな? こんな時間に人の家へと無断で入り込むのはマナーがなっていないと思うのじゃが?」
入り口の近くには黒いドレスを着たエリスが何食わぬ表情で立っていた。
そんな中、バジステラはあくまで冷静に事を収めるつもりだ。
しかし、ここに居るのは魔法師序列でも上位の存在。仕掛けるのなら確定で穏便に済ますことは出来ない。
「いえいえ。今回の件についてのお礼の言葉を頂かなくてはいけませんからね」
バジステラは本気でとぼける。が、それは演技だ。
「とぼけなくてもいいですよ。何故、私が敵拠点を壊さなかったのか、知ってるはずですからね」
「ほう。本当に分からないのう」
エリスは本気でため息をつく。
「説明してあげましょうか? 何故貴方が王家への反逆を目論んでいることが露見しているのかを」
突如、バジステラの目付きが変わる。優しい老人から残忍な暗殺者の目へと。
「今回、ゼルヴィン卿は私の目的へ協力して下さいました。ですからそのお礼として・・・」
「異世界の技術じゃろ? お陰で未知の技術が手に入ったからの」
「ええ。その分のお礼の言葉を頂かなくてはいけませんからね」
だが、バジステラはそのエリスの言葉を嘘だと見抜き、本当は何をしに来たのかを看破する。
「違うじゃろ? お主が欲しいのは『安全』じゃな?」
そんな言葉にエリスは目を丸くする。
「おや? バレましたか。今後の私達へ危害を加えないという事の言質を取りに来ました。それだけですよ」
「ホッホッ。それなら無駄足じゃったな。今後、ワシが危害を加える事は無いじゃろ」
「それならいいです。・・・あ、忘れてました」
「なんじゃ?」
バジステラが面倒くさそうにエリスへと向き直る。
「〈指定転移〉の道具を忘れてしまいましたので〈転移門〉をだして下さい・・・。場所はアディルさんの工房で」
バジステラははあ、と深いため息をついた。
「ほい。それじゃあの」
こうして、エリスは〈転移門〉の中へと消えていく。
「頭がキレるのか、少し抜けてるのか。よく分からないのう」
バジステラは本気でそう思った。
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