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前編
しおりを挟むとある国の王子であったドサイクは整った容姿の持ち主であったが女性にあまり興味がなく、それゆえ結婚適齢期を過ぎても独り身であった。
変わり者のドサイク、誰もがそう呼ぶ。
しかし彼はそのことを気にしてはいなかった。
かつて親の意向で一人の女性と無理矢理婚約させられた彼は、女性から「ちっとも構ってくれない!」と責められ、しまいには婚約破棄された。
以降彼は女性というものへの興味をさらに薄れさせたのだった。
「愛してもいない人と結婚するなんて馬鹿みたいだ、そんなことに付き合ってはいられない」
それが彼の口癖。
友人は多くいて、定期的に喋る相手もいるのだが、将来を誓い合う相手だけはいまだに見つからない――候補すらも。
◆
その少女アスカルは小さな村で生まれた。
幼い頃から植物に没頭、それを探すために勝手に一人で森へ入って怒られることが日常茶飯事だったほど。
彼女はとにかく勇敢だった。
魔物すらも素手で倒してしまいほどの力を誰から学んだでもないのに勝手に身につけていたのだ。
そんな彼女にも十九歳の時婚約者ができる。
しかし婚約者は彼女を嫌った。
「お前みたいなお淑やかじゃない女、大嫌いだ」
そうしてやがて婚約は破棄となった。
しかしアスカルは折れるでも捻じ曲がるでもなく、ただ真っ直ぐに己の望む道を歩み出す。
植物の研究、それを続けると。
そのために生きる道を選ぶと。
そう決めた彼女の瞳に絶望はなかった。
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