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前編
しおりを挟む「聞いて! お姉様! あたくし、大金持ちのウルへ様との婚約が決まりましたの!」
その日、妹リリは、嬉しそうに駆けてきた。
「ウルへ様? ……あぁ、確か、前に言っていた」
「そうですわ! 馬鹿でもさすがにそれは覚えていらしたのね!」
「聞き覚えがあるわ」
「うふふ! お姉様、残念でしたわね!」
「え? どういうこと?」
「妹のあたくしに先を越されるなんて、女として最大の屈辱――ですわよね?」
リリはことあるごとに煽ろうとしてくる。
少々厄介だ。
しかも自分が満足するまで延々とついてくるからなおさら鬱陶しくややこしい。
「リリが幸せになれるなら嬉しいわよ」
「あーらあらあらぎーぜーん。ま、我慢しているのは偉いですわね? でも今、心の中は穏やかでないのでしょう?」
「まさか。そんなことないわよ」
「またまたー。嘘ですわね、ばれてますわよー」
まぁ確かに鬱陶しい人と離れられるという嬉しさはある。そういう意味では心の揺れもないとは言えないのかもしれない。でも、彼女が期待しているような心の揺れは、正直あまりない。
「リリ、幸せになってね」
「ま、礼を言っておきますわ。ありがとうお姉様」
◆
妹リリが婚約することになったという自慢を耳にした日から一週間。
私は彼女が婚約者に切り捨てられたことを知った。
彼女はあんなに張りきって喜んでいたのに一体何があったのだろう、と思っていたのだが――どうやら、婚約破棄された理由は、リリの言葉に偽りがあったというものだったようだ。
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