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13話 徐々に縮まる
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リンツが倒れた一件以後、私は、ほぼ毎日彼と話すようになった。
風邪が治るまでは私が彼の部屋へ通っていたが、風邪が治ってからは彼の方が私の部屋まで来てくれるようになった。
私たちの会話の話題は、大体、どうでもいいようなこと。食べ物や色などの好き嫌い、楽しかった思い出、実は面倒だと思っていた習慣なんかだ。王子王女という意味では共通点の多い私たちだが、生まれ育った国が違うため、共通していない点もたくさんある。それだけに、リンツと話すことは楽しかった。
知らなかったことを知る。
気づいていなかったことに気づく。
それはとても刺激的なことで、特に何をするでもない私の毎日に、彩りを添えてくれていた。
私はまだ二十歳の若者で、リンツは数十も年上。そういう意味では、意識の違いなんかも色々とある私と彼。
けれど、根っこの部分はどこか似ている。
二人で過ごす時間が増えるにつれ、そう感じることも増えていった。
そんなある日。
夕暮れ時、私の部屋で二人で話をしていると、リンツが唐突に言った。
「そうだ! キャシィさんに言うことがあったんだった!」
私はベッドに、リンツはソファに。それぞれ好きなところに座って話していたため、わりと離れてはいたのだが、いきなり大きい声を発されたのには驚いた。
子どもではないのだから、唐突に大声を出すのは遠慮していただきたいものだ。
「言うこと? 何ですか?」
「実は、誘いがあるのだよ」
「夕食か何かですか?」
「いやいや! それは今さら誘うことではなくないかね!?」
……確かに。
そういえば、夕食は数日前から既に一緒に食べていたわね。
「では、食事以外のことですか」
「そう!」
リンツの発言には勢いがある。どんな短い文章であっても、それを述べる時、彼は生き生きしているのだ。また、声にも張りがある。
「実は、その……」
「何でしょう」
「遊園地に行かないかね? ということなのだが……」
日頃はマイペースかつ明るいところが目立つリンツ。しかし、今は気まずそうな顔をしている。
「どう……かな? 一緒に。楽しいと思うがね」
「遊園地ですか」
「そうそう。もし良かったら、一緒に行かないかな?」
遊園地。
その言葉を知らないわけではない。
確か、人々が遊ぶために行く場所だと聞いた記憶がある。娯楽用の乗り物があったり、軽食を販売する店があったりする、ということも、聞いたことがある。
けれど、行ってみたことはない。
というより、私が生まれ育った国にはあまりなかったのだ。
楽しいところなのだろうな、ということを漠然と想像することはできても、実際に行ったことがないため詳しいところまでは分からない。
「あの……その遊園地という場所には、例えば、どんなものが? 行ったことがないので、気になります」
「まさか! キャシィさんは遊園地に行ったことがないのかね!?」
凄く驚かれてしまった……。
「はい。リンツさんはよく行かれるのですか?」
「もちろん!」
「どなたかと?」
「もちろん一人だとも!」
一人はさすがに寂し……いや、それは偏見だ。
楽しいところへ一人で行ってはならない、なんて決まりはないのだから、一人で遊園地だってアリだろう。
「気分を変えたい時にだね、変装してこっそり行くのだよ。こっそり、がポイント。王子としてではなく、一国民として楽しむのがコツなんだ」
リンツは楽しそうに語る。
「小さな子どものいる家族連れやいちゃついている恋人同士が多いからね、少し居場所がない感じはするが……でも! 僕は! そのくらいでは挫けない!」
とんでもない勢いで話し続けるリンツの瞳は、恐ろしいほど輝いている。
白髪混じりの髪も、深く刻まれたほうれい線も、老いを感じさせる。そこは何も変わっていない。
なのに今のリンツが若々しく見えるのは、きっと、話したいことを話せているからなのだろう。
「一人でも乗り物に乗るし、お店にも並ぶんだよ!」
妙に自慢げだ。
どう返せばいいのか、悩んでしまう。
「……凄いですね」
「あ! 君、少し引いているね!?」
「え、そんなことないですよ」
「うぅっ! イタイおじさんを見るような目で僕を見ないでくれ!」
片手で目もとを押さえ、急に演技風な言い方をするリンツ。
彼の言動は非常に個性的だ。私の脳では、かなり予想できない。
「……なんてね」
「え」
「まぁそれは冗談だけどね?」
冗談だったのか、と、密かに戸惑ってしまった。
リンツの不思議なセンスに馴染むには、もうしばらく時間が必要かもしれない。
「とにかく、遊園地に二人で行こうではないか! 一人で楽しいのだから、二人ならもっと楽しいに違いない!」
風邪が治るまでは私が彼の部屋へ通っていたが、風邪が治ってからは彼の方が私の部屋まで来てくれるようになった。
私たちの会話の話題は、大体、どうでもいいようなこと。食べ物や色などの好き嫌い、楽しかった思い出、実は面倒だと思っていた習慣なんかだ。王子王女という意味では共通点の多い私たちだが、生まれ育った国が違うため、共通していない点もたくさんある。それだけに、リンツと話すことは楽しかった。
知らなかったことを知る。
気づいていなかったことに気づく。
それはとても刺激的なことで、特に何をするでもない私の毎日に、彩りを添えてくれていた。
私はまだ二十歳の若者で、リンツは数十も年上。そういう意味では、意識の違いなんかも色々とある私と彼。
けれど、根っこの部分はどこか似ている。
二人で過ごす時間が増えるにつれ、そう感じることも増えていった。
そんなある日。
夕暮れ時、私の部屋で二人で話をしていると、リンツが唐突に言った。
「そうだ! キャシィさんに言うことがあったんだった!」
私はベッドに、リンツはソファに。それぞれ好きなところに座って話していたため、わりと離れてはいたのだが、いきなり大きい声を発されたのには驚いた。
子どもではないのだから、唐突に大声を出すのは遠慮していただきたいものだ。
「言うこと? 何ですか?」
「実は、誘いがあるのだよ」
「夕食か何かですか?」
「いやいや! それは今さら誘うことではなくないかね!?」
……確かに。
そういえば、夕食は数日前から既に一緒に食べていたわね。
「では、食事以外のことですか」
「そう!」
リンツの発言には勢いがある。どんな短い文章であっても、それを述べる時、彼は生き生きしているのだ。また、声にも張りがある。
「実は、その……」
「何でしょう」
「遊園地に行かないかね? ということなのだが……」
日頃はマイペースかつ明るいところが目立つリンツ。しかし、今は気まずそうな顔をしている。
「どう……かな? 一緒に。楽しいと思うがね」
「遊園地ですか」
「そうそう。もし良かったら、一緒に行かないかな?」
遊園地。
その言葉を知らないわけではない。
確か、人々が遊ぶために行く場所だと聞いた記憶がある。娯楽用の乗り物があったり、軽食を販売する店があったりする、ということも、聞いたことがある。
けれど、行ってみたことはない。
というより、私が生まれ育った国にはあまりなかったのだ。
楽しいところなのだろうな、ということを漠然と想像することはできても、実際に行ったことがないため詳しいところまでは分からない。
「あの……その遊園地という場所には、例えば、どんなものが? 行ったことがないので、気になります」
「まさか! キャシィさんは遊園地に行ったことがないのかね!?」
凄く驚かれてしまった……。
「はい。リンツさんはよく行かれるのですか?」
「もちろん!」
「どなたかと?」
「もちろん一人だとも!」
一人はさすがに寂し……いや、それは偏見だ。
楽しいところへ一人で行ってはならない、なんて決まりはないのだから、一人で遊園地だってアリだろう。
「気分を変えたい時にだね、変装してこっそり行くのだよ。こっそり、がポイント。王子としてではなく、一国民として楽しむのがコツなんだ」
リンツは楽しそうに語る。
「小さな子どものいる家族連れやいちゃついている恋人同士が多いからね、少し居場所がない感じはするが……でも! 僕は! そのくらいでは挫けない!」
とんでもない勢いで話し続けるリンツの瞳は、恐ろしいほど輝いている。
白髪混じりの髪も、深く刻まれたほうれい線も、老いを感じさせる。そこは何も変わっていない。
なのに今のリンツが若々しく見えるのは、きっと、話したいことを話せているからなのだろう。
「一人でも乗り物に乗るし、お店にも並ぶんだよ!」
妙に自慢げだ。
どう返せばいいのか、悩んでしまう。
「……凄いですね」
「あ! 君、少し引いているね!?」
「え、そんなことないですよ」
「うぅっ! イタイおじさんを見るような目で僕を見ないでくれ!」
片手で目もとを押さえ、急に演技風な言い方をするリンツ。
彼の言動は非常に個性的だ。私の脳では、かなり予想できない。
「……なんてね」
「え」
「まぁそれは冗談だけどね?」
冗談だったのか、と、密かに戸惑ってしまった。
リンツの不思議なセンスに馴染むには、もうしばらく時間が必要かもしれない。
「とにかく、遊園地に二人で行こうではないか! 一人で楽しいのだから、二人ならもっと楽しいに違いない!」
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