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14話 不安はあるけど
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リンツから遊園地へ行こうと誘われた。
ついこの前知り合ったばかりとはいえ、私たちは夫婦なのだ。そう考えると、断らない方が良い気がする。
しかし、二人で出掛けることに不安もある。
もちろん、リンツのことを信頼していないわけではない。けれど私は、幼い頃から、出掛ける時には必ず警護の者と一緒だった。王女だけに、もし何か事件に巻き込まれたら、ということだったのだろう。
その頃に戻りたいと思っているわけではないけれど、警護なしで出掛けることには少々抵抗がある。
「本当に二人で行くのですか?」
「そうだとも。何か問題があるかね」
「いえ。ただ、警護なしというところが少し不安で」
私は思いきって打ち明けた。
隠していても何の意味もないと思ったからだ。
「あぁ、そういうことかね」
「はい。小さい頃からずっと、外出時には警護ありだったので、なしというのは不安なんです」
はっきりそう言うと、リンツは軽く握った拳を彼自身の口へと接近させる。考え事をしているような動作だ。
——静寂。
静かすぎるというのも気まずいので何か話そうと思ったのだが、ぱっと思いつくことがなく、言葉を発することはできなかった。
そういえば、いつもリンツがよく喋ってくれていた。私が自然に言葉を発することができていたのは、多分、彼がたくさん話してくれていたからだったのだと思う。
一人そんなことを考えていると、しばらく考え込んでいるようだったリンツが口を開いた。
「大丈夫だよ!」
意外と明るい声だ。
「警護なしで出掛けることに慣れていないから不安、という君の気持ちは分かるよ。でも、一人で出掛けるわけじゃない。僕も一緒。だから大丈夫だと思うよ」
「そうでしょうか……」
「うむ! 問題なし!」
リンツはきっぱりと述べる。
「事件なんてきっと起こらないよ。それに、万が一何かあったら、その時は僕がちゃんと護るから!」
彼は都合のいいことばかり。おかしな話になっている、と、正直思う。
だってそうじゃない?
リンツだって王子なんだから、私を護って傷ついたりしたらどうするつもりなのよ。
「誰かに言って、一緒に来ていただくことにしましょうか」
「えぇ! それはないない! それは駄目!」
胸の前辺りで両手をぱたぱたと動かしながら、首を左右に振るリンツ。
その動作からは、焦りが伝わってくる。
「二人なことに意味があるのだよ!?」
「え、そうだったのですか」
「まさか気づいていなかったのかね!?」
しわが多く刻まれたリンツの顔面に、驚きの色が広がってゆく。
「はい。よく分かっていなかったかもしれません」
「おぉ……」
「理解しきれていなくてすみません」
「あ、いや! 気にしなくていいよ! 僕としては、君を責めたりするつもりはないからね」
さすがに、三人で、ということを許してはくれないようだ。
最初から「二人で」と誘われていたのだから、まぁ、当たり前といえば当たり前なのだが……。
「で、どうかね? 二人で遊園地へ行く気にはなってくれたかな」
「まだ少し迷っています……」
「そんな! キャシィさんは、メリーゴーランドとか水に浮く乗り物とかには興味がないのかね!?」
いや、興味がないとは言っていない。
興味ならば、むしろ、ありすぎるくらいだ。何ならすべて体験してみたい、というくらいの気持ちである。
「お菓子もいっぱい買えるのだよ!?」
うっ……。
リンツは上手いところを突いてくる。
お菓子がいっぱい、なんて言われてしまったら、もう絶対に行きたいではないか。
これはもう、私の負けだ。
「分かりました。行きましょう」
不安が消えることはないけれど、絶対に嫌だと言い続けるほどのこともない。
そのため私は、彼の誘いに乗ることに決めた。
ついこの前知り合ったばかりとはいえ、私たちは夫婦なのだ。そう考えると、断らない方が良い気がする。
しかし、二人で出掛けることに不安もある。
もちろん、リンツのことを信頼していないわけではない。けれど私は、幼い頃から、出掛ける時には必ず警護の者と一緒だった。王女だけに、もし何か事件に巻き込まれたら、ということだったのだろう。
その頃に戻りたいと思っているわけではないけれど、警護なしで出掛けることには少々抵抗がある。
「本当に二人で行くのですか?」
「そうだとも。何か問題があるかね」
「いえ。ただ、警護なしというところが少し不安で」
私は思いきって打ち明けた。
隠していても何の意味もないと思ったからだ。
「あぁ、そういうことかね」
「はい。小さい頃からずっと、外出時には警護ありだったので、なしというのは不安なんです」
はっきりそう言うと、リンツは軽く握った拳を彼自身の口へと接近させる。考え事をしているような動作だ。
——静寂。
静かすぎるというのも気まずいので何か話そうと思ったのだが、ぱっと思いつくことがなく、言葉を発することはできなかった。
そういえば、いつもリンツがよく喋ってくれていた。私が自然に言葉を発することができていたのは、多分、彼がたくさん話してくれていたからだったのだと思う。
一人そんなことを考えていると、しばらく考え込んでいるようだったリンツが口を開いた。
「大丈夫だよ!」
意外と明るい声だ。
「警護なしで出掛けることに慣れていないから不安、という君の気持ちは分かるよ。でも、一人で出掛けるわけじゃない。僕も一緒。だから大丈夫だと思うよ」
「そうでしょうか……」
「うむ! 問題なし!」
リンツはきっぱりと述べる。
「事件なんてきっと起こらないよ。それに、万が一何かあったら、その時は僕がちゃんと護るから!」
彼は都合のいいことばかり。おかしな話になっている、と、正直思う。
だってそうじゃない?
リンツだって王子なんだから、私を護って傷ついたりしたらどうするつもりなのよ。
「誰かに言って、一緒に来ていただくことにしましょうか」
「えぇ! それはないない! それは駄目!」
胸の前辺りで両手をぱたぱたと動かしながら、首を左右に振るリンツ。
その動作からは、焦りが伝わってくる。
「二人なことに意味があるのだよ!?」
「え、そうだったのですか」
「まさか気づいていなかったのかね!?」
しわが多く刻まれたリンツの顔面に、驚きの色が広がってゆく。
「はい。よく分かっていなかったかもしれません」
「おぉ……」
「理解しきれていなくてすみません」
「あ、いや! 気にしなくていいよ! 僕としては、君を責めたりするつもりはないからね」
さすがに、三人で、ということを許してはくれないようだ。
最初から「二人で」と誘われていたのだから、まぁ、当たり前といえば当たり前なのだが……。
「で、どうかね? 二人で遊園地へ行く気にはなってくれたかな」
「まだ少し迷っています……」
「そんな! キャシィさんは、メリーゴーランドとか水に浮く乗り物とかには興味がないのかね!?」
いや、興味がないとは言っていない。
興味ならば、むしろ、ありすぎるくらいだ。何ならすべて体験してみたい、というくらいの気持ちである。
「お菓子もいっぱい買えるのだよ!?」
うっ……。
リンツは上手いところを突いてくる。
お菓子がいっぱい、なんて言われてしまったら、もう絶対に行きたいではないか。
これはもう、私の負けだ。
「分かりました。行きましょう」
不安が消えることはないけれど、絶対に嫌だと言い続けるほどのこともない。
そのため私は、彼の誘いに乗ることに決めた。
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