年上王子が呑気過ぎる。

四季

文字の大きさ
14 / 53

14話 不安はあるけど

しおりを挟む
 リンツから遊園地へ行こうと誘われた。
 ついこの前知り合ったばかりとはいえ、私たちは夫婦なのだ。そう考えると、断らない方が良い気がする。

 しかし、二人で出掛けることに不安もある。

 もちろん、リンツのことを信頼していないわけではない。けれど私は、幼い頃から、出掛ける時には必ず警護の者と一緒だった。王女だけに、もし何か事件に巻き込まれたら、ということだったのだろう。

 その頃に戻りたいと思っているわけではないけれど、警護なしで出掛けることには少々抵抗がある。

「本当に二人で行くのですか?」
「そうだとも。何か問題があるかね」
「いえ。ただ、警護なしというところが少し不安で」

 私は思いきって打ち明けた。
 隠していても何の意味もないと思ったからだ。

「あぁ、そういうことかね」
「はい。小さい頃からずっと、外出時には警護ありだったので、なしというのは不安なんです」

 はっきりそう言うと、リンツは軽く握った拳を彼自身の口へと接近させる。考え事をしているような動作だ。

 ——静寂。

 静かすぎるというのも気まずいので何か話そうと思ったのだが、ぱっと思いつくことがなく、言葉を発することはできなかった。

 そういえば、いつもリンツがよく喋ってくれていた。私が自然に言葉を発することができていたのは、多分、彼がたくさん話してくれていたからだったのだと思う。

 一人そんなことを考えていると、しばらく考え込んでいるようだったリンツが口を開いた。

「大丈夫だよ!」

 意外と明るい声だ。

「警護なしで出掛けることに慣れていないから不安、という君の気持ちは分かるよ。でも、一人で出掛けるわけじゃない。僕も一緒。だから大丈夫だと思うよ」
「そうでしょうか……」
「うむ! 問題なし!」

 リンツはきっぱりと述べる。

「事件なんてきっと起こらないよ。それに、万が一何かあったら、その時は僕がちゃんと護るから!」

 彼は都合のいいことばかり。おかしな話になっている、と、正直思う。

 だってそうじゃない?
 リンツだって王子なんだから、私を護って傷ついたりしたらどうするつもりなのよ。

「誰かに言って、一緒に来ていただくことにしましょうか」
「えぇ! それはないない! それは駄目!」

 胸の前辺りで両手をぱたぱたと動かしながら、首を左右に振るリンツ。
 その動作からは、焦りが伝わってくる。

「二人なことに意味があるのだよ!?」
「え、そうだったのですか」
「まさか気づいていなかったのかね!?」

 しわが多く刻まれたリンツの顔面に、驚きの色が広がってゆく。

「はい。よく分かっていなかったかもしれません」
「おぉ……」
「理解しきれていなくてすみません」
「あ、いや! 気にしなくていいよ! 僕としては、君を責めたりするつもりはないからね」

 さすがに、三人で、ということを許してはくれないようだ。

 最初から「二人で」と誘われていたのだから、まぁ、当たり前といえば当たり前なのだが……。

「で、どうかね? 二人で遊園地へ行く気にはなってくれたかな」
「まだ少し迷っています……」
「そんな! キャシィさんは、メリーゴーランドとか水に浮く乗り物とかには興味がないのかね!?」

 いや、興味がないとは言っていない。
 興味ならば、むしろ、ありすぎるくらいだ。何ならすべて体験してみたい、というくらいの気持ちである。

「お菓子もいっぱい買えるのだよ!?」

 うっ……。

 リンツは上手いところを突いてくる。
 お菓子がいっぱい、なんて言われてしまったら、もう絶対に行きたいではないか。

 これはもう、私の負けだ。

「分かりました。行きましょう」

 不安が消えることはないけれど、絶対に嫌だと言い続けるほどのこともない。
 そのため私は、彼の誘いに乗ることに決めた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界の花嫁?お断りします。

momo6
恋愛
三十路を過ぎたOL 椿(つばき)は帰宅後、地震に見舞われる。気付いたら異世界にいた。 そこで出逢った王子に求婚を申し込まれましたけど、 知らない人と結婚なんてお断りです。 貞操の危機を感じ、逃げ出した先に居たのは妖精王ですって? 甘ったるい愛を囁いてもダメです。 異世界に来たなら、この世界を楽しむのが先です!! 恋愛よりも衣食住。これが大事です! お金が無くては生活出来ません!働いて稼いで、美味しい物を食べるんです(๑>◡<๑) ・・・えっ?全部ある? 働かなくてもいい? ーーー惑わされません!甘い誘惑には罠が付き物です! ***** 目に止めていただき、ありがとうございます(〃ω〃) 未熟な所もありますが 楽しんで頂けたから幸いです。

転生した女性騎士は隣国の王太子に愛される!?

恋愛
仕事帰りの夜道で交通事故で死亡。転生先で家族に愛されながらも武術を極めながら育って行った。ある日突然の出会いから隣国の王太子に見染められ、溺愛されることに……

婚約破棄したら食べられました(物理)

かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。 婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。 そんな日々が日常と化していたある日 リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる グロは無し

公爵令嬢は嫁き遅れていらっしゃる

夏菜しの
恋愛
 十七歳の時、生涯初めての恋をした。  燃え上がるような想いに胸を焦がされ、彼だけを見つめて、彼だけを追った。  しかし意中の相手は、別の女を選びわたしに振り向く事は無かった。  あれから六回目の夜会シーズンが始まろうとしている。  気になる男性も居ないまま、気づけば、崖っぷち。  コンコン。  今日もお父様がお見合い写真を手にやってくる。  さてと、どうしようかしら? ※姉妹作品の『攻略対象ですがルートに入ってきませんでした』の別の話になります。

愛する人は、貴方だけ

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
下町で暮らすケイトは母と二人暮らし。ところが母は病に倒れ、ついに亡くなってしまう。亡くなる直前に母はケイトの父親がアークライト公爵だと告白した。 天涯孤独になったケイトの元にアークライト公爵家から使者がやって来て、ケイトは公爵家に引き取られた。 公爵家には三歳年上のブライアンがいた。跡継ぎがいないため遠縁から引き取られたというブライアン。彼はケイトに冷たい態度を取る。 平民上がりゆえに令嬢たちからは無視されているがケイトは気にしない。最初は冷たかったブライアン、第二王子アーサー、公爵令嬢ミレーヌ、幼馴染カイルとの交友を深めていく。 やがて戦争の足音が聞こえ、若者の青春を奪っていく。ケイトも無関係ではいられなかった……。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

今宵、薔薇の園で

天海月
恋愛
早世した母の代わりに妹たちの世話に励み、婚期を逃しかけていた伯爵家の長女・シャーロットは、これが最後のチャンスだと思い、唐突に持ち込まれた気の進まない婚約話を承諾する。 しかし、一か月も経たないうちに、その話は先方からの一方的な申し出によって破談になってしまう。 彼女は藁にもすがる思いで、幼馴染の公爵アルバート・グレアムに相談を持ち掛けるが、新たな婚約者候補として紹介されたのは彼の弟のキースだった。 キースは長年、シャーロットに思いを寄せていたが、遠慮して距離を縮めることが出来ないでいた。 そんな弟を見かねた兄が一計を図ったのだった。 彼女はキースのことを弟のようにしか思っていなかったが、次第に彼の情熱に絆されていく・・・。

傷物令嬢は騎士に夢をみるのを諦めました

みん
恋愛
伯爵家の長女シルフィーは、5歳の時に魔力暴走を起こし、その時の記憶を失ってしまっていた。そして、そのせいで魔力も殆ど無くなってしまい、その時についてしまった傷痕が体に残ってしまった。その為、領地に済む祖父母と叔母と一緒に療養を兼ねてそのまま領地で過ごす事にしたのだが…。 ゆるっと設定なので、温かい気持ちで読んでもらえると幸いです。

処理中です...