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15話 いつでもそう思っている
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二日後にリンツと遊園地へ出掛ける約束をした、翌朝。
目を覚まし、寝巻きを脱いでワンピースに着替えていると、部屋の隅で静かに待機していたローザが、唐突に話しかけてきた。
「明日、リンツ王子とお出掛けになるそうですね」
「え!?」
ローザの口からその話題が出るとは夢にも思っていなかったため、かなり驚き、変な声を出してしまった。
「遊園地へ行かれるとか。ぜひ楽しんで下さいね」
「どうしてそのことを?」
「リンツ王子から伺いました」
彼女の述べる言葉を耳にし、私は、正直驚いた。が、ローザには秘密にしなくて良いのだと思うと、少々心が軽くなった気もした。誰にも知られてはならない、という緊張感から逃れられたからだろう。
「そうだったのですね」
「はい。なので、お出掛けなさる用のお召し物もご用意致しました」
——気が利きすぎ!
思わず叫びたい衝動に駆られたが、いきなり大声を出すのもみっともないので、叫ぶことは我慢した。
しかし、ローザはなんて優秀なのだろう。
彼女のように、優しく穏やかで、しかも色々と配慮のある侍女は、なかなか見かけない。アックス王国で暮らしていた頃も周囲に侍女はいたけれど、彼女ほど素晴らしい者はいなかったように思う。
「もうお持ちしておきましょうか?」
ローザが笑顔で質問してきたため、私はこくりと頷いた。
明日持ってきてもらうのでもまったく問題ないのだが、どのような服なのか気になってしまうから、頷いたのである。
「承知しました。では持って参りますね」
「あ、今でなくても大丈夫ですよ!」
すぐに、と頼むのは申し訳ない気がしたからそう言ったのだが、ローザは「いえいえ」と笑った。
「お気遣いなく。それでは、持って参ります」
ローザには感謝しかない。
他国から来た人間である私を温かく迎え入れてくれた。こちらからの色々な頼みにも、嫌な顔をまったくせずに対応してくれた。そして、余計なことばかり考えて悩んでいた私の背を、そっと押してくれた。
返せるものを何も持っていない私に、こんなにも親切にしてくれるなんて。
ありがとう。
いつでも、そう思っている。
それからしばらくして、ローザが服を持ってきてくれた。
彼女はかごを持っている。
「お待たせしてしまい、失礼しました。お召し物、持って参りましたよ」
「ローザさん! ありがとうございます」
「いえいえ。普通の国民に見えるよう、あまり派手ではないものをご用意しております」
床へそっとかごを置くと、その中から、一枚のワンピースを取り出す。
全体が柿色で、やや赤みを帯びた小さな花がたくさん描かれている、大人しめなデザインのワンピースだ。生地も、日頃城内で着るドレスとは違って、やや薄そうである。暑い時期に着たら、きっと涼しいだろう。
「こちらになります」
「落ち着いた雰囲気ですね!」
やや地味めの色、長めの丈。
とにかく大人っぽいワンピースだ。
だが、かっこ悪さはないし、おしゃれな感じが伝わってくる。大人のおしゃれ、という言葉が相応しいだろうか——とにかく、魅力のあるワンピースであることに変わりはない。
「こちらのお召し物で問題ないでしょうか?」
「はい。とても素敵だと思います」
ただ、私がそれを着こなせるのかどうかというところだけが、やや不安である。
「あの……少しいいでしょうか」
「どうかなさいましたか?」
「そのワンピース、一度着てみても構いませんか」
一度着てみて、ちゃんと着られるか確かめてみたい。
そんな思いがあったのだ。
「もちろん構いませんよ。お手伝いしましょうか?」
「あ……できれば、お願いします」
ということで、私は、ローザに手伝ってもらいつつ着替えてみた。
完全に着替え終えてから、鏡に映った自分の姿を確認してみる。
……うん。
やはり、大人っぽいワンピースを着たからといって大人っぽくはなれていなかった。そこは予想通りである。けれど、まったく駄目、という感じでもなかった。それなりに様になってはいるような気がする。
これなら、着ていけないことはないだろう。
鏡の中の自分を確認してから、ローザの方へ体を向ける。
「どうですか? ローザさん」
一応確認しておく。
自分の感覚だけでは心もとないから。
「変ではない……ですよね?」
すると彼女はにっこり笑い。
「もちろんです。とてもよく似合っていらっしゃいますよ」
そんな風に言ってくれた。
目を覚まし、寝巻きを脱いでワンピースに着替えていると、部屋の隅で静かに待機していたローザが、唐突に話しかけてきた。
「明日、リンツ王子とお出掛けになるそうですね」
「え!?」
ローザの口からその話題が出るとは夢にも思っていなかったため、かなり驚き、変な声を出してしまった。
「遊園地へ行かれるとか。ぜひ楽しんで下さいね」
「どうしてそのことを?」
「リンツ王子から伺いました」
彼女の述べる言葉を耳にし、私は、正直驚いた。が、ローザには秘密にしなくて良いのだと思うと、少々心が軽くなった気もした。誰にも知られてはならない、という緊張感から逃れられたからだろう。
「そうだったのですね」
「はい。なので、お出掛けなさる用のお召し物もご用意致しました」
——気が利きすぎ!
思わず叫びたい衝動に駆られたが、いきなり大声を出すのもみっともないので、叫ぶことは我慢した。
しかし、ローザはなんて優秀なのだろう。
彼女のように、優しく穏やかで、しかも色々と配慮のある侍女は、なかなか見かけない。アックス王国で暮らしていた頃も周囲に侍女はいたけれど、彼女ほど素晴らしい者はいなかったように思う。
「もうお持ちしておきましょうか?」
ローザが笑顔で質問してきたため、私はこくりと頷いた。
明日持ってきてもらうのでもまったく問題ないのだが、どのような服なのか気になってしまうから、頷いたのである。
「承知しました。では持って参りますね」
「あ、今でなくても大丈夫ですよ!」
すぐに、と頼むのは申し訳ない気がしたからそう言ったのだが、ローザは「いえいえ」と笑った。
「お気遣いなく。それでは、持って参ります」
ローザには感謝しかない。
他国から来た人間である私を温かく迎え入れてくれた。こちらからの色々な頼みにも、嫌な顔をまったくせずに対応してくれた。そして、余計なことばかり考えて悩んでいた私の背を、そっと押してくれた。
返せるものを何も持っていない私に、こんなにも親切にしてくれるなんて。
ありがとう。
いつでも、そう思っている。
それからしばらくして、ローザが服を持ってきてくれた。
彼女はかごを持っている。
「お待たせしてしまい、失礼しました。お召し物、持って参りましたよ」
「ローザさん! ありがとうございます」
「いえいえ。普通の国民に見えるよう、あまり派手ではないものをご用意しております」
床へそっとかごを置くと、その中から、一枚のワンピースを取り出す。
全体が柿色で、やや赤みを帯びた小さな花がたくさん描かれている、大人しめなデザインのワンピースだ。生地も、日頃城内で着るドレスとは違って、やや薄そうである。暑い時期に着たら、きっと涼しいだろう。
「こちらになります」
「落ち着いた雰囲気ですね!」
やや地味めの色、長めの丈。
とにかく大人っぽいワンピースだ。
だが、かっこ悪さはないし、おしゃれな感じが伝わってくる。大人のおしゃれ、という言葉が相応しいだろうか——とにかく、魅力のあるワンピースであることに変わりはない。
「こちらのお召し物で問題ないでしょうか?」
「はい。とても素敵だと思います」
ただ、私がそれを着こなせるのかどうかというところだけが、やや不安である。
「あの……少しいいでしょうか」
「どうかなさいましたか?」
「そのワンピース、一度着てみても構いませんか」
一度着てみて、ちゃんと着られるか確かめてみたい。
そんな思いがあったのだ。
「もちろん構いませんよ。お手伝いしましょうか?」
「あ……できれば、お願いします」
ということで、私は、ローザに手伝ってもらいつつ着替えてみた。
完全に着替え終えてから、鏡に映った自分の姿を確認してみる。
……うん。
やはり、大人っぽいワンピースを着たからといって大人っぽくはなれていなかった。そこは予想通りである。けれど、まったく駄目、という感じでもなかった。それなりに様になってはいるような気がする。
これなら、着ていけないことはないだろう。
鏡の中の自分を確認してから、ローザの方へ体を向ける。
「どうですか? ローザさん」
一応確認しておく。
自分の感覚だけでは心もとないから。
「変ではない……ですよね?」
すると彼女はにっこり笑い。
「もちろんです。とてもよく似合っていらっしゃいますよ」
そんな風に言ってくれた。
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