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33話 夜の丘へ
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髪を整え、出歩いても問題ないワンピースに着替え、ケープを羽織る。それらをすべて済ませるのに、三十分はかからなかった。それでも男性に比べればかかっている方なのだろう。けれど、私にしては早く頑張った部類なのである。
「お待たせしました! 行きましょうか」
支度を終えてそう言うと、室内で待ってくれていたリンツは明るく返してくる。
「おぉ! 意外と早かったね!」
意外と、とは失礼ね。
いや、だがそれも事実。文句を言えるような立場ではない。
「では行こうか」
「はい」
こうして、私とリンツは歩き出す。
私たちは夫婦。でも、まだ夫婦らしくはなれていない。他人にそう言えば「年が離れているから仕方ない」なんて言われそうだが、そういう現実的なことが理由なわけではなく。本当の理由は、まだ心がそこへ至っていないから。それだけのことである。
私とリンツは城の裏口へ向かう。そして、そこからこっそり抜け出した。騒ぎを起こさないよう気をつけ、慎重に、である。
そうして外へ出た私たちは、人通りがあまりない道を歩く。
暗い道は不気味だ。それに加えて人も少ないから、なお気味が悪い。
だが、その不気味さが、私とリンツの距離を縮めてくれた。
歩くことしばらく。
私たちは丘に到着した。
地面は舗装されておらず、土からは雑草が無造作に生えていた。恐らく手入れされていないのだろう、結構な高さまで伸びている草もある。一番高さがあるものでは、私の膝より上くらいまで伸びているものもあった。
「こんなところで食事を?」
「もう少しあっちへ行こうか」
雑草を踏みながら、私たちは歩いていく。
踏み潰された葉や茎の香りが、辺りを包んでいた。
またしばらく歩いた。
すると、少し開けたところへ出た。
それまでは道の両脇に木々が生い茂っていたのだが、ここの周辺にはあまり木がない。さらに、地面から生えている雑草の量も少ない。一本も生えていないわけではないが、少しは手入れされている感じだ。
「この辺りは雑草が少ないですね」
「そうだね。この辺にしようか」
「でも……どうしてこの辺りは草が少ないのでしょう?」
「ここら辺はちょくちょく手入れしているからだよ」
リンツはカゴからシートを取り出し、広げて、慣れた手つきで地面に敷く。そして彼は、シートへゆっくりと上がった。
「なるほど。手入れしてあるから綺麗なのですね」
「そうそう」
「それなら納得です」
「納得していただけたなら良かった。さ、キャシィさんも上がってきたまえ」
外で地面に座るということには、少々抵抗がある。経験して育ってはいないからだ。
それゆえなかなか座れずにいる私を見てか、リンツは質問してきた。
「キャシィさん? 嫌なのかね?」
「い、いえ」
私は一応そう答えた。
だが、外で地面に座るという行為は正直苦手だ。
なので、地面に座り込む勇気がなかなか出ない。
「キャシィさん。嫌なら無理しなくてもいいのだよ?」
「い、いえっ……」
嫌がっていることがばれたら困る!
そう思い、私は慌ててシートの方へ一歩を踏み出し——何かにつまづいてしまった。
「きゃ!」
特別な大きな石があったわけではない。恐らく、ほんの少しの雑草につまづいてしまったのだと思う。
言うなれば、つまづいた一番の原因は足下の悪さではないのだ。足下に危険な物があったから、というわけではなく、慌てて急な行動をしたからなのである。
「キャシィさん!」
「リン……」
言い終わるより早く、私はリンツに体を支えられた。
「大丈夫かね!?」
リンツが咄嗟に動いてくれたおかげで、私は転ばずに済んだ。
「あ、はい……」
まだ胸がドキドキしている。
転んでしまう! と思った瞬間の緊張が残っているのだろう。
「平気かね!?」
「は、はい! 平気です!」
暫し、沈黙。
その静寂の後、私は頭を下げながら言う。
「あ……ありがとうございます。助かりました」
「お待たせしました! 行きましょうか」
支度を終えてそう言うと、室内で待ってくれていたリンツは明るく返してくる。
「おぉ! 意外と早かったね!」
意外と、とは失礼ね。
いや、だがそれも事実。文句を言えるような立場ではない。
「では行こうか」
「はい」
こうして、私とリンツは歩き出す。
私たちは夫婦。でも、まだ夫婦らしくはなれていない。他人にそう言えば「年が離れているから仕方ない」なんて言われそうだが、そういう現実的なことが理由なわけではなく。本当の理由は、まだ心がそこへ至っていないから。それだけのことである。
私とリンツは城の裏口へ向かう。そして、そこからこっそり抜け出した。騒ぎを起こさないよう気をつけ、慎重に、である。
そうして外へ出た私たちは、人通りがあまりない道を歩く。
暗い道は不気味だ。それに加えて人も少ないから、なお気味が悪い。
だが、その不気味さが、私とリンツの距離を縮めてくれた。
歩くことしばらく。
私たちは丘に到着した。
地面は舗装されておらず、土からは雑草が無造作に生えていた。恐らく手入れされていないのだろう、結構な高さまで伸びている草もある。一番高さがあるものでは、私の膝より上くらいまで伸びているものもあった。
「こんなところで食事を?」
「もう少しあっちへ行こうか」
雑草を踏みながら、私たちは歩いていく。
踏み潰された葉や茎の香りが、辺りを包んでいた。
またしばらく歩いた。
すると、少し開けたところへ出た。
それまでは道の両脇に木々が生い茂っていたのだが、ここの周辺にはあまり木がない。さらに、地面から生えている雑草の量も少ない。一本も生えていないわけではないが、少しは手入れされている感じだ。
「この辺りは雑草が少ないですね」
「そうだね。この辺にしようか」
「でも……どうしてこの辺りは草が少ないのでしょう?」
「ここら辺はちょくちょく手入れしているからだよ」
リンツはカゴからシートを取り出し、広げて、慣れた手つきで地面に敷く。そして彼は、シートへゆっくりと上がった。
「なるほど。手入れしてあるから綺麗なのですね」
「そうそう」
「それなら納得です」
「納得していただけたなら良かった。さ、キャシィさんも上がってきたまえ」
外で地面に座るということには、少々抵抗がある。経験して育ってはいないからだ。
それゆえなかなか座れずにいる私を見てか、リンツは質問してきた。
「キャシィさん? 嫌なのかね?」
「い、いえ」
私は一応そう答えた。
だが、外で地面に座るという行為は正直苦手だ。
なので、地面に座り込む勇気がなかなか出ない。
「キャシィさん。嫌なら無理しなくてもいいのだよ?」
「い、いえっ……」
嫌がっていることがばれたら困る!
そう思い、私は慌ててシートの方へ一歩を踏み出し——何かにつまづいてしまった。
「きゃ!」
特別な大きな石があったわけではない。恐らく、ほんの少しの雑草につまづいてしまったのだと思う。
言うなれば、つまづいた一番の原因は足下の悪さではないのだ。足下に危険な物があったから、というわけではなく、慌てて急な行動をしたからなのである。
「キャシィさん!」
「リン……」
言い終わるより早く、私はリンツに体を支えられた。
「大丈夫かね!?」
リンツが咄嗟に動いてくれたおかげで、私は転ばずに済んだ。
「あ、はい……」
まだ胸がドキドキしている。
転んでしまう! と思った瞬間の緊張が残っているのだろう。
「平気かね!?」
「は、はい! 平気です!」
暫し、沈黙。
その静寂の後、私は頭を下げながら言う。
「あ……ありがとうございます。助かりました」
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