王女アメリダの記憶

四季

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前編

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 隣国の王女、アメリダ。

 彼女は体が弱いために、生まれてまもなく東の塔に移され、一人の女性に育てられた。だから、そこから出てくることはあまりない。噂で聞くには、今でも、国民の前どころか両親の前にさえ姿を現さないらしい。

 だが、隣国の王と王妃の間には、彼女の他にも王子と王女が一人ずつある。

 恐らく——ではあるが、王位はそのどちらかが継ぐのだろう。

 何もなければ王子が。
 王子の身に何かあれば王女が。

 それゆえ、王からしてみれば、アメリダは、気にかけるに足らない娘。そういうことなのだろう。でなくては、いくら体が弱いとしても、生まれたばかりの娘を城から遠く離れた東の塔なんかに移すはずがない。


 今日は、そんな不遇な彼女の姿を初めて見た日のことを話そう。



 あれは僕がまだ十四五だった頃。

 国王である父親について、僕は隣国へ行った。

 僕の国から隣国の城まではかなりの遠く、一日で着くような距離ではなくて。そのため、途中で一泊することになっていた。

 僕と父親、そして幾人かの護衛が宿泊したのは、国境を越えてすぐ——隣国の東の橋に位置する宿屋。
 二階建てで、教会のような厳かな雰囲気さえ漂う、かなり立派な宿屋だった。

 父親が護衛たちと会議をしている間、僕は退屈で。あくびが止まらず、涙が溢れ、このままではどうしようもないというような状態になっていたため、僕はこっそり宿から抜け出した。
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