王女アメリダの記憶

四季

文字の大きさ
1 / 3

前編

しおりを挟む
 隣国の王女、アメリダ。

 彼女は体が弱いために、生まれてまもなく東の塔に移され、一人の女性に育てられた。だから、そこから出てくることはあまりない。噂で聞くには、今でも、国民の前どころか両親の前にさえ姿を現さないらしい。

 だが、隣国の王と王妃の間には、彼女の他にも王子と王女が一人ずつある。

 恐らく——ではあるが、王位はそのどちらかが継ぐのだろう。

 何もなければ王子が。
 王子の身に何かあれば王女が。

 それゆえ、王からしてみれば、アメリダは、気にかけるに足らない娘。そういうことなのだろう。でなくては、いくら体が弱いとしても、生まれたばかりの娘を城から遠く離れた東の塔なんかに移すはずがない。


 今日は、そんな不遇な彼女の姿を初めて見た日のことを話そう。



 あれは僕がまだ十四五だった頃。

 国王である父親について、僕は隣国へ行った。

 僕の国から隣国の城まではかなりの遠く、一日で着くような距離ではなくて。そのため、途中で一泊することになっていた。

 僕と父親、そして幾人かの護衛が宿泊したのは、国境を越えてすぐ——隣国の東の橋に位置する宿屋。
 二階建てで、教会のような厳かな雰囲気さえ漂う、かなり立派な宿屋だった。

 父親が護衛たちと会議をしている間、僕は退屈で。あくびが止まらず、涙が溢れ、このままではどうしようもないというような状態になっていたため、僕はこっそり宿から抜け出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄、別れた二人の結末

四季
恋愛
学園一優秀と言われていたエレナ・アイベルン。 その婚約者であったアソンダソン。 婚約していた二人だが、正式に結ばれることはなく、まったく別の道を歩むこととなる……。

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

頑張らない政略結婚

ひろか
恋愛
「これは政略結婚だ。私は君を愛することはないし、触れる気もない」 結婚式の直前、夫となるセルシオ様からの言葉です。 好きにしろと、君も愛人をつくれと。君も、もって言いましたわ。 ええ、好きにしますわ、私も愛する人を想い続けますわ! 五話完結、毎日更新

攻略対象の王子様は放置されました

蛇娥リコ
恋愛
……前回と違う。 お茶会で公爵令嬢の不在に、前回と前世を思い出した王子様。 今回の公爵令嬢は、どうも婚約を避けたい様子だ。 小説家になろうにも投稿してます。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

幼馴染以上、婚約者未満の王子と侯爵令嬢の関係

紫月 由良
恋愛
第二王子エインの婚約者は、貴族には珍しい赤茶色の髪を持つ侯爵令嬢のディアドラ。だが彼女の冷たい瞳と無口な性格が気に入らず、エインは婚約者の義兄フィオンとともに彼女を疎んじていた。そんな中、ディアドラが学院内で留学してきた男子学生たちと親しくしているという噂が広まる。注意しに行ったエインは彼女の見知らぬ一面に心を乱された。しかし婚約者の異母兄妹たちの思惑が問題を引き起こして……。 顔と頭が良く性格が悪い男の失恋ストーリー。 ※流血シーンがあります。(各話の前書きに注意書き+次話前書きにあらすじがあるので、飛ばし読み可能です)

愛のバランス

凛子
恋愛
愛情は注ぎっぱなしだと無くなっちゃうんだよ。

三回目の人生も「君を愛することはない」と言われたので、今度は私も拒否します

冬野月子
恋愛
「君を愛することは、決してない」 結婚式を挙げたその夜、夫は私にそう告げた。 私には過去二回、別の人生を生きた記憶がある。 そうして毎回同じように言われてきた。 逃げた一回目、我慢した二回目。いずれも上手くいかなかった。 だから今回は。

処理中です...