王女アメリダの記憶

四季

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中編

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 しばらく周囲を散策していると、塔の前にたどり着く。

 その正体は分からなかったが、好奇心を刺激された僕は、その塔を登り始める。型にはまった教育ばかり受けてきた僕は、冒険者になったみたいで楽しくて、塔を登り続けた。止める者はいなかったし、塔内部は石製の螺旋階段が設置されていたので、何も知らない僕でも簡単に登ることができたのだ。

 足を動かし続け、やがて最上階へたどり着く。

 そこで、初めて彼女を目にした。

 その彼女というのが、アメリダである。

 最上階だけは他の階と違って広間のようになっていて、壁のすべての面に大きな窓が備え付けられている。

 その窓際に、彼女はいた。

 赤、青、黄、黒、白。色とりどりの絵の具がところどころについた木製の椅子に座り、窓の外を遠い目で見つめるアメリダ。

 彼女は薔薇みたいだった。

 灰と金が混ざったような不思議な色みの髪は、真っ直ぐ伸びていて、背中側の長さは腰に届きそうなほど。髪と同じ色の睫毛は長く、翡翠のような瞳なのもあって、一瞬人間ではないのではないかと思ってしまった。また、肌は、怪しさを感じてしまうくらい白く滑らかだ。

 そんな彼女は、いきなりやって来た僕を見ても取り乱さず、穏やかに微笑みかけてくる。

「……君は?」

 僕は半ば無意識のうちにそう質問していた。
 しかし、彼女はよく分からないというような顔をして、言葉では何も答えなかった。

 その時の僕は「言葉を習っていないのかな?」と思っていたが、今思えば、彼女には僕の国の言葉があまり理解できていなかったのだろう。僕の国と彼女の国では常用している言語が微妙に違っているから。
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