3 / 3
後編
しおりを挟む
ただ、僕が友好的であることは彼女も気づいていたようで、彼女も僕に友好的に振る舞ってくれた。
彼女は椅子から立ち上がり、駆け寄ってくる。
近くで見ると、彼女の輝きは想像を絶するものだった。
もちろん、彼女の美しさに気づいていなかったわけではない。人形のような、人間離れした麗しさを持つ女性だということは、一目見た瞬間から分かっていた。
ただ、離れて見るのと近くで見るのとでは、迫力が違う。
栗色に白を多く混ぜたような地味な色のワンピースに、赤茶の毛糸で編まれたショール。そんな控えめな色遣いの服装にもかかわらずここまで華やかなのは、彼女の魅力ゆえと言えよう。
僕は彼女に手を引かれ。
それからしばらく、二人の時を過ごした。
彼女は何も知らない僕にいくつもの絵画を見せてくれた。
僕が手で絵画と彼女自身を交互に示して確認すると、彼女はコクコク頷いていた。
どうやら、彼女が描いたものらしい。
アメリダの絵。
それは多分、彼女がみる夢。
ある絵画には、美しい草原が描かれていた。
風に揺られる、まだ若い草。空気感に満ちた青い空。地平線を見つめる、白いワンピースの可憐な少女。
絵画の中の少女は、背中だけが見え、顔は描かれていない。
だからこそ、僕は想像した。
どのような顔立ちだろう?
どのような表情だろう?
——そんな風に。
その後、僕は彼女と別れ、塔を後にした。
別れしな、一応「またね!」と言っておいたのだが、その言葉が彼女に届いていたかは分からない。
これが、僕とアメリダの出会い。
その邂逅は僕の心に得体の知れない感情を残した。
二人で過ごした時を思い出すたび、胸が温かくなる。鳥が飛び立つ瞬間のような高揚。しかしそれだけではなく、どことなく息苦しくなるような感覚もあって。
以降、彼女と遊んだことはない。会ったこともない。
それなのに、なぜだろう。
ほんの僅かなあの時間が、今でも鮮明に蘇ることがある。
東の塔へ追いやられた、不遇な王女アメリダ。もしかしたら僕は、彼女の素朴ながら美しい容姿と心に、あの日からずっと惹かれ続けているのかもしれない。
真相は不明だが。
ただ、またいつか会えたらいいなと思う。
再び会った時には、彼女の国の言葉を理解して、ちゃんと言葉を交わしたい。
彼女の言葉を聞いて、こちらからも話を振って。
そんな風にして、また彼女と幸せな時間を過ごせたとしたら、きっとそれは嘘のように素晴らしいことだろう。
◆終わり◆
彼女は椅子から立ち上がり、駆け寄ってくる。
近くで見ると、彼女の輝きは想像を絶するものだった。
もちろん、彼女の美しさに気づいていなかったわけではない。人形のような、人間離れした麗しさを持つ女性だということは、一目見た瞬間から分かっていた。
ただ、離れて見るのと近くで見るのとでは、迫力が違う。
栗色に白を多く混ぜたような地味な色のワンピースに、赤茶の毛糸で編まれたショール。そんな控えめな色遣いの服装にもかかわらずここまで華やかなのは、彼女の魅力ゆえと言えよう。
僕は彼女に手を引かれ。
それからしばらく、二人の時を過ごした。
彼女は何も知らない僕にいくつもの絵画を見せてくれた。
僕が手で絵画と彼女自身を交互に示して確認すると、彼女はコクコク頷いていた。
どうやら、彼女が描いたものらしい。
アメリダの絵。
それは多分、彼女がみる夢。
ある絵画には、美しい草原が描かれていた。
風に揺られる、まだ若い草。空気感に満ちた青い空。地平線を見つめる、白いワンピースの可憐な少女。
絵画の中の少女は、背中だけが見え、顔は描かれていない。
だからこそ、僕は想像した。
どのような顔立ちだろう?
どのような表情だろう?
——そんな風に。
その後、僕は彼女と別れ、塔を後にした。
別れしな、一応「またね!」と言っておいたのだが、その言葉が彼女に届いていたかは分からない。
これが、僕とアメリダの出会い。
その邂逅は僕の心に得体の知れない感情を残した。
二人で過ごした時を思い出すたび、胸が温かくなる。鳥が飛び立つ瞬間のような高揚。しかしそれだけではなく、どことなく息苦しくなるような感覚もあって。
以降、彼女と遊んだことはない。会ったこともない。
それなのに、なぜだろう。
ほんの僅かなあの時間が、今でも鮮明に蘇ることがある。
東の塔へ追いやられた、不遇な王女アメリダ。もしかしたら僕は、彼女の素朴ながら美しい容姿と心に、あの日からずっと惹かれ続けているのかもしれない。
真相は不明だが。
ただ、またいつか会えたらいいなと思う。
再び会った時には、彼女の国の言葉を理解して、ちゃんと言葉を交わしたい。
彼女の言葉を聞いて、こちらからも話を振って。
そんな風にして、また彼女と幸せな時間を過ごせたとしたら、きっとそれは嘘のように素晴らしいことだろう。
◆終わり◆
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
婚約破棄、別れた二人の結末
四季
恋愛
学園一優秀と言われていたエレナ・アイベルン。
その婚約者であったアソンダソン。
婚約していた二人だが、正式に結ばれることはなく、まったく別の道を歩むこととなる……。
行き場を失った恋の終わらせ方
当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」
自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。
避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。
しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……
恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。
※他のサイトにも重複投稿しています。
頑張らない政略結婚
ひろか
恋愛
「これは政略結婚だ。私は君を愛することはないし、触れる気もない」
結婚式の直前、夫となるセルシオ様からの言葉です。
好きにしろと、君も愛人をつくれと。君も、もって言いましたわ。
ええ、好きにしますわ、私も愛する人を想い続けますわ!
五話完結、毎日更新
攻略対象の王子様は放置されました
蛇娥リコ
恋愛
……前回と違う。
お茶会で公爵令嬢の不在に、前回と前世を思い出した王子様。
今回の公爵令嬢は、どうも婚約を避けたい様子だ。
小説家になろうにも投稿してます。
幼馴染以上、婚約者未満の王子と侯爵令嬢の関係
紫月 由良
恋愛
第二王子エインの婚約者は、貴族には珍しい赤茶色の髪を持つ侯爵令嬢のディアドラ。だが彼女の冷たい瞳と無口な性格が気に入らず、エインは婚約者の義兄フィオンとともに彼女を疎んじていた。そんな中、ディアドラが学院内で留学してきた男子学生たちと親しくしているという噂が広まる。注意しに行ったエインは彼女の見知らぬ一面に心を乱された。しかし婚約者の異母兄妹たちの思惑が問題を引き起こして……。
顔と頭が良く性格が悪い男の失恋ストーリー。
※流血シーンがあります。(各話の前書きに注意書き+次話前書きにあらすじがあるので、飛ばし読み可能です)
三回目の人生も「君を愛することはない」と言われたので、今度は私も拒否します
冬野月子
恋愛
「君を愛することは、決してない」
結婚式を挙げたその夜、夫は私にそう告げた。
私には過去二回、別の人生を生きた記憶がある。
そうして毎回同じように言われてきた。
逃げた一回目、我慢した二回目。いずれも上手くいかなかった。
だから今回は。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる