5 / 17
5話「与えられた部屋で」
しおりを挟む「ここだよ! ここに住んでね!」
一枚の扉の前に到着するとスレオは敢えて高く明るめの声でそう告げた。
「はい。……ありがとうございます」
彼がその木製の扉を開けて中を見せると、レイビアは控えめな調子で静かに礼を述べる。
ただ、その表情は、まだほぐれきってはいなかった――まるで彼女の心を映し出す鏡であるかのようだ。
「必要なものがあったら何でも言ってね!」
「迷惑では」
「まさか! 迷惑じゃないよ、だいじょーぶ! じゃ、ボクはここで!」
「さようなら」
「うん! また後で」
スレオが去ると、レイビアは一人静かに部屋の中へと入っていく。
狭い通路がありその左右にはクローゼットと扉。扉を開ければ手洗い場やシャワー室があった。簡素なものではあるが最低限生活するために必要なものは揃っている。また、見た感じ手入れが行き届いており、衛生的にもある程度問題なく使用できそうな設備。一方反対側にあるクローゼットはというと、横に開くような扉をがらりと開けば内部はそこそこ広く、数着であればすんなり収まりそうな容量はあった。
通路を奥へ進めばある程度広さのある部屋に出る。
そこが主な客室。
高貴さを感じさせるデザインのダブルベッド、木製のテーブルとイス――そしてテーブルの真横には地球儀のような謎の置物があった。
「何これ……」
置物に関してはレイビアの頭では何に使うものか察せなかった。
後で誰かに聞いてみよう、そう思うレイビアであった。
――それから少しして。
「失礼いたします」
一人の女性が部屋を訪ねてきた。
メイドのような服をまとった三十代くらいに見える女性だ。
その手にはお盆、そしてその上には何やら書かれている紙と共にフルーツが乗っている。
「はい、何でしょうか」
「こちらアドラスト様より贈り物です」
「え……?」
「ああ失礼しました、アドラスト様と申しますのは陛下です」
「あ、魔王の方ですね」
「そうです」
お盆ごと贈り物をずいと差し出され、圧に戸惑うレイビア。
「結構です、そのようなものは……」
「拒否権はありません」
「ええっ」
「お受け取りください」
「……は、はい、分かりました」
一瞬は受け取らないでおこうと思ったレイビアだったが、女性の圧に負け、仕方なく受け取ることにした――いや、そうするしかなかったのだ。
「ではこれにて。失礼いたします」
女性が去っていく、その背に。
「あ、あの!」
レイビアは声をかける。
淡々とした雰囲気をまとった女性を引き留めるのにはかなりの勇気が必要だった。が、それでもレイビアは声をかけた。なぜなら聞いておきたいことがあったからだ。
「何でしょうか」
女性は振り返り口を小さく動かす。
「室内にある置物のことなのですが」
「置物? ああ、はい、地球儀に似たあれのことですね」
「はい……!」
「それについて何か?」
「あれは一体何なのでしょうか? ……その、使い方が分からないのです。よければ教えていただけませんか」
レイビアが頼めば、女性は頷いた。
「承知しました、説明します」
0
あなたにおすすめの小説
「君は悪役令嬢だ」と離婚されたけど、追放先で伝説の力をゲット!最強の女王になって国を建てたら、後悔した元夫が求婚してきました
黒崎隼人
ファンタジー
「君は悪役令嬢だ」――冷酷な皇太子だった夫から一方的に離婚を告げられ、すべての地位と財産を奪われたアリシア。悪役の汚名を着せられ、魔物がはびこる辺境の地へ追放された彼女が見つけたのは、古代文明の遺跡と自らが「失われた王家の末裔」であるという衝撃の真実だった。
古代魔法の力に覚醒し、心優しき領民たちと共に荒れ地を切り拓くアリシア。
一方、彼女を陥れた偽りの聖女の陰謀に気づき始めた元夫は、後悔と焦燥に駆られていく。
追放された令嬢が運命に抗い、最強の女王へと成り上がる。
愛と裏切り、そして再生の痛快逆転ファンタジー、ここに開幕!
婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します
けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」
婚約者として五年間尽くしたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。
他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。
だが、彼らは知らなかった――。
ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。
そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。
「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」
逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。
「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」
ブチギレるお兄様。
貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!?
「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!?
果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか?
「私の未来は、私が決めます!」
皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。
「価値がない」と言われた私、隣国では国宝扱いです
ゆっこ
恋愛
「――リディア・フェンリル。お前との婚約は、今日をもって破棄する」
高らかに響いた声は、私の心を一瞬で凍らせた。
王城の大広間。煌びやかなシャンデリアの下で、私は静かに頭を垂れていた。
婚約者である王太子エドモンド殿下が、冷たい眼差しで私を見下ろしている。
「……理由を、お聞かせいただけますか」
「理由など、簡単なことだ。お前には“何の価値もない”からだ」
【 完結 】「婚約破棄」されましたので、恥ずかしいから帰っても良いですか?
しずもり
恋愛
ミレーヌはガルド国のシルフィード公爵令嬢で、この国の第一王子アルフリートの婚約者だ。いや、もう元婚約者なのかも知れない。
王立学園の卒業パーティーが始まる寸前で『婚約破棄』を宣言されてしまったからだ。アルフリートの隣にはピンクの髪の美少女を寄り添わせて、宣言されたその言葉にミレーヌが悲しむ事は無かった。それよりも彼女の心を占めていた感情はー。
恥ずかしい。恥ずかしい。恥ずかしい!!
ミレーヌは恥ずかしかった。今すぐにでも気を失いたかった。
この国で、学園で、知っていなければならない、知っている筈のアレを、第一王子たちはいつ気付くのか。
孤軍奮闘のミレーヌと愉快な王子とお馬鹿さんたちのちょっと変わった断罪劇です。
なんちゃって異世界のお話です。
時代考証など皆無の緩い設定で、殆どを現代風の口調、言葉で書いています。
HOT2位 &人気ランキング 3位になりました。(2/24)
数ある作品の中で興味を持って下さりありがとうございました。
*国の名前をオレーヌからガルドに変更しました。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
[完結中編]蔑ろにされた王妃様〜25歳の王妃は王と決別し、幸せになる〜
コマメコノカ@女性向け・児童文学・絵本
恋愛
王妃として国のトップに君臨している元侯爵令嬢であるユーミア王妃(25)は夫で王であるバルコニー王(25)が、愛人のミセス(21)に入り浸り、王としての仕事を放置し遊んでいることに辟易していた。
そして、ある日ユーミアは、彼と決別することを決意する。
【完結】婚約者取り替えっこしてあげる。子爵令息より王太子の方がいいでしょ?
との
恋愛
「取り替えっこしようね」
またいつもの妹の我儘がはじまりました。
自分勝手な妹にも家族の横暴にも、もう我慢の限界!
逃げ出した先で素敵な出会いを経験しました。
幸せ掴みます。
筋肉ムキムキのオネエ様から一言・・。
「可愛いは正義なの!」
ーーーーーー
ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。
完結迄予約投稿済み
R15は念の為・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる