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6話「事情は命の数だけ」
しおりを挟む結論から言えば、それは美しい情景を部屋に映し出すための機械であった。
つまり娯楽用の道具である。
「ここを操作するのです、そうすれば映し出す映像を切り替えることができます」
「そうだったのですね……!」
「はい。たとえば、紅葉であればこう、星空であればここをこうして」
「色々な映像を楽しめるということですか」
「そうですね」
「凄い……こんなものがあるなんて……」
操作方法を習いながらレイビアは感心していた。
その間だけは嫌な記憶も忘れていたほど。
これまでに触れたことのない未知の道具を目の前にして、彼女の心は子どもの頃を潤いを取り戻しているかのようであった。
「……レイビア様は意外と可愛らしい方なのですね」
純粋な子どものような目になっていたレイビアを見て、女性はそっと呟くように述べた。
「え」
「失礼でしたら謝ります。ただ、とても綺麗な目をなさっているな、と」
「そんな……そんなことないですよ」
ただ女性が相手だと意外と警戒せず関われているということは事実であった。
それは本人も自覚しているところである。
「本当に、その、純粋に……この道具が凄いと思っていただけで」
「綺麗な心の持ち主なのですね」
女性は微かに笑みを浮かべる。
「娘を思い出します」
その笑みはどこか切なげで。
「え……」
「私事ですみません。……昔、娘がいたのですよ」
レイビアは一瞬で彼女の心の中を僅かながら垣間見た気がした。
「娘さんが? ……いた?」
「ええ、もう過去のことです」
「娘さんの身に……何かあったのですか?」
「そうです。亡くなりました、人間の手によって」
己もまた人間で、しかし、今はどうしても魔物側に味方したくなってしまうレイビアである。
人間によって亡くなった娘。
理由がどうあれ心を傾けてしまう。
「外出中はぐれまして、娘は人里へ迷い込んだのです。そしてそこで魔物として捕まり……我々はどうにか解放してほしいと頼んだのです、が、解放してはもらえませんでした。そしてそのまま……散々弄ばれた果てに殺められてしまったのです」
レイビアはすぐには何も言えなかった。
しかし、数十秒ほど経過して、ようやく口を開くことができた。
「……憎いですか、私も」
問えば、女性は暫し迷ったように黙った。
けれども。
「いいえ。人間は人間でも、貴女は関係ありません」
やがて真っ直ぐにそう答えた。
「ではこの辺で、失礼します」
「あ、はい。ありがとうございました。使い方が分かって助かりました」
やがて女性は室内から出ていく。
「ちなみに私はアムネリアと申します」
「レイビアです」
「存じ上げておりますよ」
「……そうでしたね」
別れしな、二人は握手を交わした。
そこにはある種の友情のようなものが確かに存在している。
「ではまたいずれ」
「はい」
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