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3話「掃除屋の到着」
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第一の嫌な記憶が婚約してから三週間経過した頃。第二の嫌な記憶は、それからさらに二週間ほどが経過した、婚約から一ヶ月と少し経った頃のものである。
その頃、結婚前ではあるが、私はジジの家に住んでいた。彼が仕事でいない間も私はそこで過ごしていた。そんな昼下がり、一人の見知らぬ女性がやって来た。その金髪美女は、私を見るなり大笑い。その時は何が起きたのかまったくもって理解できなかった。が、少しして、彼女の目的が判明した。彼女は私に嫌がらせをしに来たのだ。
金髪美女の第一声は「えー! 何この子、ちょー貧相じゃーん!」である。
酷い、酷過ぎる。
これにはさすがに引かざるを得なかった。
ここまで馬鹿みたいだと怒りすら湧いてこない。むしろ気の毒に思えてくるくらいだ。そして、このような人を大事にしているジジのことも、さらに嫌いになった。
そんなことを思い返していた時。
「失礼しまーっす!」
妙に元気な声が聞こえ、扉が勢いよく開く。
「掃除屋でーっす! ……って、アレ? リリアンさん?」
「お久しぶりです」
掃除屋は知り合いだ。
男性にしては伸ばし気味な赤茶の髪をうなじの辺りで一つに束ねた青年、彼の名はフルービル。
昔聞いた話によれば、彼は捨て子だったらしい。捨て置かれているのを発見した掃除屋の店主が広い育て上げたそうだ。やがて大きくなった彼は掃除屋に就職。そうして今に至る。
「ありゃ? リリアンさん、確か、婚約者のところに行かれたんじゃ?」
「婚約は既に破棄されました」
落ち着いて告げると、フルービルは顎が外れそうなくらい口を大きく開けた。
「ええっ! こ、婚約を!? 破棄ッ!?」
声が大きい、声が。
こんなことを言っては失礼かもしれないが、耳が潰れるかと思った。
「でもいいんです。私、こうしてのんびり暮らす方が性に合ってます」
こちらは何も罪を犯していないのに婚約破棄されるなんて、という思いも、まったくないわけではない。でも、きっと、こうなった方が良かったのだ。あんな風にごちゃごちゃ言われながら生きていくのは私には無理。
「えぇー。婚約者見る目ないなぁー」
「いつもお世辞ありがとうございます」
「いやいや、お世辞じゃないですって! 本音ですって!」
それらしいことを言って喜ばそうとしたって、そうはいかない。
私はそこまで単純ではない。
「そういう話はもう終わりにして、掃除をお願いします」
「承知でーっす! 掃除しまーっす!」
フルービルは異様に高いテンションで返事をし、早速掃除に取り掛かる。
上着のポケットから雑巾を取り出して、慣れた手つきで棚の上を拭き始めた。信じられないくらいスピーディーな拭き方。もはや芸術、と言っても過言ではないような、凄い拭き掃除術だ。
「手伝えることはありますか?」
「ないでーっす!」
「……それは少し失礼ですね」
「ええっ。失礼? そう受け取りますー?」
失礼な部分はあるかもしれない。でも、ジジといるよりかは、フルービルといる方が穏やかでいられる。なぜかというと、フルービルの発言には湿っぽい嫌みがないからだ。彼の言葉選びは単純明解、そういうところがありがたい。たとえ、少し失礼であったとしても。
その頃、結婚前ではあるが、私はジジの家に住んでいた。彼が仕事でいない間も私はそこで過ごしていた。そんな昼下がり、一人の見知らぬ女性がやって来た。その金髪美女は、私を見るなり大笑い。その時は何が起きたのかまったくもって理解できなかった。が、少しして、彼女の目的が判明した。彼女は私に嫌がらせをしに来たのだ。
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酷い、酷過ぎる。
これにはさすがに引かざるを得なかった。
ここまで馬鹿みたいだと怒りすら湧いてこない。むしろ気の毒に思えてくるくらいだ。そして、このような人を大事にしているジジのことも、さらに嫌いになった。
そんなことを思い返していた時。
「失礼しまーっす!」
妙に元気な声が聞こえ、扉が勢いよく開く。
「掃除屋でーっす! ……って、アレ? リリアンさん?」
「お久しぶりです」
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昔聞いた話によれば、彼は捨て子だったらしい。捨て置かれているのを発見した掃除屋の店主が広い育て上げたそうだ。やがて大きくなった彼は掃除屋に就職。そうして今に至る。
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「婚約は既に破棄されました」
落ち着いて告げると、フルービルは顎が外れそうなくらい口を大きく開けた。
「ええっ! こ、婚約を!? 破棄ッ!?」
声が大きい、声が。
こんなことを言っては失礼かもしれないが、耳が潰れるかと思った。
「でもいいんです。私、こうしてのんびり暮らす方が性に合ってます」
こちらは何も罪を犯していないのに婚約破棄されるなんて、という思いも、まったくないわけではない。でも、きっと、こうなった方が良かったのだ。あんな風にごちゃごちゃ言われながら生きていくのは私には無理。
「えぇー。婚約者見る目ないなぁー」
「いつもお世辞ありがとうございます」
「いやいや、お世辞じゃないですって! 本音ですって!」
それらしいことを言って喜ばそうとしたって、そうはいかない。
私はそこまで単純ではない。
「そういう話はもう終わりにして、掃除をお願いします」
「承知でーっす! 掃除しまーっす!」
フルービルは異様に高いテンションで返事をし、早速掃除に取り掛かる。
上着のポケットから雑巾を取り出して、慣れた手つきで棚の上を拭き始めた。信じられないくらいスピーディーな拭き方。もはや芸術、と言っても過言ではないような、凄い拭き掃除術だ。
「手伝えることはありますか?」
「ないでーっす!」
「……それは少し失礼ですね」
「ええっ。失礼? そう受け取りますー?」
失礼な部分はあるかもしれない。でも、ジジといるよりかは、フルービルといる方が穏やかでいられる。なぜかというと、フルービルの発言には湿っぽい嫌みがないからだ。彼の言葉選びは単純明解、そういうところがありがたい。たとえ、少し失礼であったとしても。
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