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episode.18 恋をする魔の者たち
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トニカの自分が魔の者であると明かす言葉を聞き、皆の視線が一気に彼女へ向けられる。トニカは非常に気まずそうにしていたし、そのミトンをはめた手は微かに震えているようだった。よほど緊張しているらしく、両肩を内へ引き寄せるようにして小さくなっている。
「魔の者……そうですか」
「ぇ……ぉ、お、おどろか、ない……?」
「はい。私は知っています、魔の者にも色々いるのだと。恐ろしい者だけではないのだと」
するとトニカは一度大きく目を開いた。
目もとが一気に潤む。
それから数秒間があって、急に、彼女はその瞳から大粒の涙をこぼした。
「ぅ、ぁ……ぅぅっ……」
「トニカさん!?」
「こ、の……まち、で、ぁ……みんな……っ、まの、もの……の、こと、わる、く……ぃ、う、もん……にく、んで、っ、てっ……」
とぎれとぎれで何を言っているのか聞き取りづらい。
けれども漠然とは分かる。
「落ち着いて、落ち着いてください」
「とに、か……ぁ、ま、だ……しられて、ない、から……うけい、ぇて……もら、えて、るだけ……」
きっと不安なのだろう、彼女は――その正体を知られることが。
「大丈夫ですよ、トニカさんは人間に見えます」
「……ぁ、りがと……ぅ、っ……」
「それに、もしも魔の者とばれたって大丈夫ですよ。トニカさんの優しい心が伝わればきっと」
「いや!」
「え。あ、ああ、そうですよねすみません」
「……ぁ……ごめ、ん、なさ……か、かえる……また、あと、で」
その後、食事を運んできてくれた明るいアオイに、トニカについて少し話を聞いてみた。
特に意味はないかとも思ったけれど、収穫はあった。
――トニカとアオイの出会い。
アオイが言うには、トニカはこの街の端辺りで魔の者に襲われていたそう。そんな時、そこにたまたま通りかかったアオイが、取り敢えずトニカを連れて逃げたらしい。で、それ以来、トニカはここにいついているのだそう。アオイの話によれば、トニカは帰る場所はないと言っているらしい。
……脱走してきたパターンだろうか。
何となく見えてきた気がする。
しかしアオイはまだ重大なことを知らない、トニカが人間ではないということを。
でも、恐らく、いつかはそのことに気づく――その時彼がどんな風に反応するのか、その点だけは少々心配ではある。
トニカが傷つくようなことだけにはならないよう祈りたい。
◆
ソレアがアオイと話していたちょうどその頃、一階で荷物の陰に隠れて座っていたトニカの前にルナが現れる。
「トニカちゃん? ちょっといいかしら?」
「ぁ……」
「アタシとお話しない?」
「ぅ、ぁ……あの……」
「ああもう勘違いしないで、アタシ、べつに虐める気なんてないから」
「……は、い」
ルナは許可も得ずトニカの真横に座る。
「アンタ、アオイって人のこと好きなんでしょ?」
「ぇ……」
トニカの顔が熟れたりんごのように色づく。
「分かりやすいわねぇ~」
「……は、ず、かしい」
「面白い人よね! 何だか陽気そうな人!」
「ま、ぇ……たす、けて……もら、って……それ、で……」
ルナは笑顔でトニカの片手を握る。
「アンタ可愛いんだから大丈夫よ! 自信持ちなさい!」
励まされ、戸惑うトニカ。
「ぁの……どうして……とに、か、まのもの……ぁ、か、いぶつ、なのに……っぅ、して……やさ、しく、して……くれ、るの……?」
それに対して、ルナはそっと答える。
「アタシも同じだからよ」
その瞳はどこか遠いところを捉えていた。
「い、っしょ……ちが、ぅ……」
「これは秘密よ? 実はね、アタシも魔の者なの」
「ぇ……」
「アタシはアタシの愛する者のために離脱してきたわ。だけど、きっともうこの恋は叶わない――そんな気がする。でも、それでも、後悔なんて一つもないわ。アタシはやりたいことをやってるだけだから」
「……いっしょ!」
「そうね。でも、アンタの恋には未来があるでしょう?」
トニカは寂しそうに首を横に振る。
「……まのもの、ひとと、なかよく……なれない、きっと」
けれどもルナもまたそれを否定する。
「大丈夫! なれるわよ。だってアンタ可愛いもの」
至近距離で見つめ合う二人。
「……ゆ、ぅき、ない」
「自信持ちなさい!」
それから少しして、トニカは小さく頷いた。
その数秒後。
「あれ? トニカちゃんやん。どうしたん? こんなとこで」
ソレアと別れたアオイが一階へやって来たのだった。
「おはなし……して、た」
「あ、そうやったん? すみませんねぇ、邪魔してしもて」
ルナは「いえいえ、お邪魔しました」と笑顔で発して立ち上がり、部屋へ戻るべく歩き出す。
「また座ってたん?」
「……うん」
「それであのお姉さんと喋ってたん?」
「……やさ、しいの」
◆
アオイとの話を終えて戻ってきたら、客室の扉の前で同じように帰ってきた様子のルナとばったり出くわした。
「あれ? ルナさん、どこか行っていたのですか」
「ええ、ちょっとね」
ほぼ同時に部屋へ入る。
「……ああ、戻ったんだ」
ノワールは一人床に座っていた。
「ああ~っ、ノワ様! 床に座っていらっしゃる~!? ベッドにお座りください~っ!」
「騒がしいよ、ルナ」
「へ?」
「……静かにして」
「ええ! もちろん! ノワ様の命令であれば従いますわ~っ!」
抱きつこうとしてかわされるルナだった。
「ノワールさん、何も床に座らなくてもと思うのだけど」
「……慣れてるんだ、この方が」
「けど、せっかく良いベッドがあるのに……惜しいわ」
「どこに座ろうが勝手でしょ」
「ま、そうですね。ノワールさん、元々床好きですしね」
思えば、彼は避難所でもあの家でもよく床に座っていた。
彼にとってはそれが自然なことなのだろう。
「魔の者……そうですか」
「ぇ……ぉ、お、おどろか、ない……?」
「はい。私は知っています、魔の者にも色々いるのだと。恐ろしい者だけではないのだと」
するとトニカは一度大きく目を開いた。
目もとが一気に潤む。
それから数秒間があって、急に、彼女はその瞳から大粒の涙をこぼした。
「ぅ、ぁ……ぅぅっ……」
「トニカさん!?」
「こ、の……まち、で、ぁ……みんな……っ、まの、もの……の、こと、わる、く……ぃ、う、もん……にく、んで、っ、てっ……」
とぎれとぎれで何を言っているのか聞き取りづらい。
けれども漠然とは分かる。
「落ち着いて、落ち着いてください」
「とに、か……ぁ、ま、だ……しられて、ない、から……うけい、ぇて……もら、えて、るだけ……」
きっと不安なのだろう、彼女は――その正体を知られることが。
「大丈夫ですよ、トニカさんは人間に見えます」
「……ぁ、りがと……ぅ、っ……」
「それに、もしも魔の者とばれたって大丈夫ですよ。トニカさんの優しい心が伝わればきっと」
「いや!」
「え。あ、ああ、そうですよねすみません」
「……ぁ……ごめ、ん、なさ……か、かえる……また、あと、で」
その後、食事を運んできてくれた明るいアオイに、トニカについて少し話を聞いてみた。
特に意味はないかとも思ったけれど、収穫はあった。
――トニカとアオイの出会い。
アオイが言うには、トニカはこの街の端辺りで魔の者に襲われていたそう。そんな時、そこにたまたま通りかかったアオイが、取り敢えずトニカを連れて逃げたらしい。で、それ以来、トニカはここにいついているのだそう。アオイの話によれば、トニカは帰る場所はないと言っているらしい。
……脱走してきたパターンだろうか。
何となく見えてきた気がする。
しかしアオイはまだ重大なことを知らない、トニカが人間ではないということを。
でも、恐らく、いつかはそのことに気づく――その時彼がどんな風に反応するのか、その点だけは少々心配ではある。
トニカが傷つくようなことだけにはならないよう祈りたい。
◆
ソレアがアオイと話していたちょうどその頃、一階で荷物の陰に隠れて座っていたトニカの前にルナが現れる。
「トニカちゃん? ちょっといいかしら?」
「ぁ……」
「アタシとお話しない?」
「ぅ、ぁ……あの……」
「ああもう勘違いしないで、アタシ、べつに虐める気なんてないから」
「……は、い」
ルナは許可も得ずトニカの真横に座る。
「アンタ、アオイって人のこと好きなんでしょ?」
「ぇ……」
トニカの顔が熟れたりんごのように色づく。
「分かりやすいわねぇ~」
「……は、ず、かしい」
「面白い人よね! 何だか陽気そうな人!」
「ま、ぇ……たす、けて……もら、って……それ、で……」
ルナは笑顔でトニカの片手を握る。
「アンタ可愛いんだから大丈夫よ! 自信持ちなさい!」
励まされ、戸惑うトニカ。
「ぁの……どうして……とに、か、まのもの……ぁ、か、いぶつ、なのに……っぅ、して……やさ、しく、して……くれ、るの……?」
それに対して、ルナはそっと答える。
「アタシも同じだからよ」
その瞳はどこか遠いところを捉えていた。
「い、っしょ……ちが、ぅ……」
「これは秘密よ? 実はね、アタシも魔の者なの」
「ぇ……」
「アタシはアタシの愛する者のために離脱してきたわ。だけど、きっともうこの恋は叶わない――そんな気がする。でも、それでも、後悔なんて一つもないわ。アタシはやりたいことをやってるだけだから」
「……いっしょ!」
「そうね。でも、アンタの恋には未来があるでしょう?」
トニカは寂しそうに首を横に振る。
「……まのもの、ひとと、なかよく……なれない、きっと」
けれどもルナもまたそれを否定する。
「大丈夫! なれるわよ。だってアンタ可愛いもの」
至近距離で見つめ合う二人。
「……ゆ、ぅき、ない」
「自信持ちなさい!」
それから少しして、トニカは小さく頷いた。
その数秒後。
「あれ? トニカちゃんやん。どうしたん? こんなとこで」
ソレアと別れたアオイが一階へやって来たのだった。
「おはなし……して、た」
「あ、そうやったん? すみませんねぇ、邪魔してしもて」
ルナは「いえいえ、お邪魔しました」と笑顔で発して立ち上がり、部屋へ戻るべく歩き出す。
「また座ってたん?」
「……うん」
「それであのお姉さんと喋ってたん?」
「……やさ、しいの」
◆
アオイとの話を終えて戻ってきたら、客室の扉の前で同じように帰ってきた様子のルナとばったり出くわした。
「あれ? ルナさん、どこか行っていたのですか」
「ええ、ちょっとね」
ほぼ同時に部屋へ入る。
「……ああ、戻ったんだ」
ノワールは一人床に座っていた。
「ああ~っ、ノワ様! 床に座っていらっしゃる~!? ベッドにお座りください~っ!」
「騒がしいよ、ルナ」
「へ?」
「……静かにして」
「ええ! もちろん! ノワ様の命令であれば従いますわ~っ!」
抱きつこうとしてかわされるルナだった。
「ノワールさん、何も床に座らなくてもと思うのだけど」
「……慣れてるんだ、この方が」
「けど、せっかく良いベッドがあるのに……惜しいわ」
「どこに座ろうが勝手でしょ」
「ま、そうですね。ノワールさん、元々床好きですしね」
思えば、彼は避難所でもあの家でもよく床に座っていた。
彼にとってはそれが自然なことなのだろう。
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