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前編
しおりを挟む雪が静かに降る、ある冬の日のこと。
「エンディリア、君との関係はもうおしまいにしようと思っている」
婚約者カットレスから急にそんなことを告げられてしまった。
最初は何が起きたのか分からなくて、きょとんとしてしまう。まるで言語がまだ分からない子どもであるかのように。しかし彼はそこに「実は前から愛している人がいて、君より彼女を選びたくなったんだ」と追い打ちをかけるように説明してきた。で、そんな話を聞いているうちに段々理解できてきた。
――捨てられるということか、私は。
それにしても心ない人だ。前から愛している人がいた、だなんて。そんなことこれまで一度も聞かされていなかった、なのに、今になってそんなことを言い出すとは狡い。
もし婚約破棄を望むところまで至らなければ、彼はずっと裏でその人を愛していたのだろうか。
「そうですか……」
「いいだろう? 婚約破棄で」
「そうですね……仕方ない、ですよね……」
言えば、彼は少し苛立ったような目つきになる。
「はぁ? 君は一体何が言いたい? ……本音では許せない、とでも言いたいのか」
少々被害妄想の気がある彼はそんなことを言ってきた。
これは厄介なやつだ。
上手くやらないと長時間絡まれることになりかねない。
「……いえ。では、私はこれで」
取り敢えずこれ以上ややこしい話にならないようそう言えば。
「ふん、それでいいなら最初から潔くそう言えばいいのに」
少し安堵したような、どこか勝ち誇ったような、そんな表情で彼は返してきた。
「さようなら、カットレスさん」
「ああ! さよなら、エンディリア」
こうして私たちの関係は終わるのだった。
……ただし、向こうの都合での身勝手な婚約破棄だったので慰謝料は可能な範囲でしっかり取ったけれど。
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