――今はただ、この手の内にある幸福を抱いていたい。~ある冬の婚約破棄、それは、私に光ある未来をもたらしてくれました~

四季

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後編

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 ◆


 あれから数年。

「エンディリア! 今日はガーデンでお茶なんてどうだい?」
「良いですね」
「いや、君、いつもそんな感じだなぁ……本当に大丈夫? 実は嫌だとか思っていない?」
「まさか。思っていないですよ、むしろ嬉しいです。お茶は好きですし」
「そうか! なら良かった」

 私は今、王子アーデルハッターの妻となっている。

 彼との出会いはあるティーパーティー。
 妻候補を見つけるべく参加していた彼がたまたま参加していた私に目を向けてくれ声をかけてくれたことがすべての始まりとなった。

 そして今に至っている。

「ではすぐに用意させよう!」
「あまり無理を言っては駄目ですよ、ゆっくりで良いですから」
「そうか! よし、では無理のない範囲で!」
「そうですね、それが良いと思います」

 私たちは既に夫婦となっているが、それでも、今もちょこちょこ二人きりの時間を楽しんでいる。
 少し変と思われるかもしれないけれど。
 ただ、夫が王子であるということもあって私たちが二人だけになれる時間というのは限られているので、だからこそたまには二人きりを楽しみたいという思いもあるのである。

「そういえば、君が前に言っていたカットレスという男についてなのだが」
「ええ、何か?」
「彼、先日、不法営業していた店でサービスを受けていて捕まったそうだ」
「……そうなのですか?」

 カットレスはというと、あの後、愛していた女性には振られたようだった。わざわざ私を切り捨ててまで彼女を選んだのにその彼女に捨てられることとなったのだから可哀想というか何というか。

 でも、その後は知らなかった。

「彼、結構そういうグレーな店に出入りしていたみたいだからね」
「そう……」
「捨てられて荒れていたのだろうね」
「これからどうなるのでしょう」
「そうだね、まぁ、痛い目に遭うだろうね。……気になるかい?」

 彼の問いに、首を小さく横に振る。

「いえ、彼がどうなっていようと私には関係ないことですから」

 あの時二人の道はすれ違った。

 そこからは遠ざかってゆくのみ。

 もう私たちに繋がりはない。
 だからお互いのことなんて視界に入りはしないだろう。

 それに、彼がどうなったって、気にするようなことではない。

 なんせ今の私にはアーデルハッターという夫がいるのだから。

「私は貴方がいればそれで良いのです」

 ――今はただ、この手の内にある幸福を抱いていたい。


◆終わり◆
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