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前編

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「君との婚約は本日をもって破棄とする!」

 婚約者ウルフ・ガーランドにそう宣言されたのは、ある日の昼下がりであった。

「地味な女と結婚したら不幸が移る」

 当たり前に訪れると思っていた結婚式の日。
 でもその日は訪れず。
 いずれ来るものと思っていた瞬間は来ないまま彼に切り捨てられてしまったのだった。

 でも、婚約破棄されたことで逆に開き直ることはできて。

 その日私は「これからは自分のために生きていこう」と思うことができた。


 ◆


 ウルフに婚約破棄を告げられた日から一週間。
 今日は生まれ育った村の酒場で初めてのコンサートだ。

「みなさん! ありがとうございます!」

 私は昔から歌うことが好きだった。
 小さい頃は歌手になりたかった。
 叶うはずのない夢だと思い一度は諦めたけれど。

 私は、これから、改めてその道へ進むことにしたのだ。

「おーっ、元気でいいねー」
「かわいいよ」
「どんな歌ー?」

 今日がその第一歩。

「はぁ~、はいはい、よっとれほい~。あ~、どっこら、しょうしょいしょ~。はぁ~、はいはい、よっとれほい~。あ~、どっこら、しょうしょいしょ~。は~いいほ~いいへいほ~ほ~い。はぁ~、ああほれよっこいしょ~。あ~あ~ほいとらよっこいしょ~。はぁ~、はいはい、よっとれ~ほい~。あ~、どっこら、せい、しょうしょいしょ~。ほい! とら! どっせい! はぁ~、いぃ~、とれとれよっこら」

 その日の歌は大人気だった。
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