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『何の生産性もないような穏やかな時間こそ、私が護るべきものです。~お互い苦労してきましたが今は共に幸せに暮らしています~』
「しりとりしないカァ?」
「いいわよ」
「じゃあ、スタートしようゼェ!」
私の夫は個性的な人。
喋り方にもかなりクセがある。
ただ、悪い人ではなくて、一緒にいるととても楽しい人だ。
「まーずーはー……小麦粉ォ!」
「コーラス」
「すみれェ!」
「レモンジュース」
「ま、また、す!? う、ううーん……好きィ!」
「騎士」
「真実ゥ!」
「積み木」
「き、きき、きっきききっきっきィ……黄色ォ!」
かつて私たちはそれぞれ婚約破棄されることを経験した。
それも極めて理不尽なものを。
私は「パッとしない」という雑な理由で切り捨てられ、彼は「キモい」という心ない言葉で切り捨てられた。
そんな私たちが今こうして共にあれているのは、きっと、神の優しさゆえなのだろう。
「ロバ」
「罰ゲームゥ!」
「無視」
「ええェ!? 冷たいワードチョイスゥ!? ……う、んしょ、じゃ……鹿ァ」
「カバ」
「また、ば、なのォ!? えーと……うーん、えーと、えーとえーとと、えっとととっとォ……バクゥ! 動物の、ネ!」
だが、奇跡だろうが同情した神の優しさだろうがなんだっていい。
なんせ今は幸せなのだ。
それだけでいい。
今の状況以上のことなんて何も望まない。
「草むら」
「ラクダァ!」
「だんごむし、で」
「指揮者ァ! 音楽の、ネ」
「シャベル」
「瑠璃色ォ」
「蝋燭」
「くきわかめェ!」
彼が大事。
日常も大事。
だから私は今ここに在る幸せを護って生きてゆく。
「メジロ」
「ろー……ろ、ろー、ろ、ろろ……うーん、えとォ……老人会ィ!」
「インコ」
「鳥多いナァ!?」
「続けてちょうだい」
「……はい。で、では、ではではァ……コルクゥ!」
「組み体操」
「牛ィ」
「至近距離」
「りんごォ!」
「ごますり」
「いやいや、うっそォ、そんなワード来るゥ!? ……では、陸地ィ」
こんな風によく分からないしりとりをする時間だって、私にとってはとても愛おしい時間だ。
「地域」
「菊ゥ」
「栗」
「理不尽な言葉ァ!」
「番組」
「ミミズゥ」
「ずぼら」
「えーっと、ら、ら、ららら……らー……乱暴者ォ!」
第三者から見ればくだらない時間かもしれない。
何も生まれはしないわけだし。
けれど、私としては、無駄なことばかりしているとは思っていない。
穏やかな時間。
平凡な日常。
大げさではないけれど存在する温かな愛。
そういったものこそ、幸福のために護ってゆくべきものだろう。
「野原」
「またァ!? えええーっ。またなのォ!? また、ら、なのカァ!? ……楽な暮らしィ」
「しみじみ」
「民宿ゥ」
「暗闇」
「ミンチィ!」
「ちりめんじゃこ、で」
「恋人ォ! ハッピハッピハッピピハッピィ」
「そういうのいいから……じゃあ、得意分野、で」
「やまびこォ」
「小島」
「松林ィ」
「新規会員募集中」
「う、だナァ? うーん……移ろい、にするゥ!」
「いかだ」
「黙れェ」
「ええ?」
「い、いや、違うよォ。黙れ、って言葉を選んだんだヨォ」
「そういうことね」
「続けようヨォ!」
「ええ。では、歴史、で」
婚約破棄を越えて、幸せにたどり着けた。
こんなに嬉しいことはない。
◆終わり◆
『その時は突然やって来ました。ある春の日の昼下がりでした。~それでも私は生きていきますし幸せになってみせます~』
ある春の日の昼下がり、婚約者ルルードが知らない女性を連れて私の前に現れた。
「よっ」
ルルードは何事もなかったかのように軽い挨拶をしてくる。
しかしその様は明らかに不自然だ。
婚約者がいる彼が隣に他の女性を置いているという状況そのものが明らかにおかしい。
「ルルードさん、そちらの女性は?」
「ああ、彼女はリリア。可愛いだろう。実はそのことで話があるんだ」
「お話が?」
「そうそう」
少し間があって。
「お前との婚約、破棄とすることにしたから」
彼ははっきりとそう言った。
ルルードの隣にいるリリアは甘ったるい顔立ちの女性だが、その面に滲んでいる笑みは少々黒ずんでいる。ルルードは気づいていないのだろう。けれども私から見れば明らかだ。リリアの笑みは純粋かつ純真なものではない。その表情と目つきを見ればすぐに分かる、彼女が綺麗な心の持ち主でないということが。
「俺はリリアと結婚することにした」
「本気で……?」
「ああ、もちろん。本気だ。それ以外に何があるというんだ。……ま、なんでもいいか。そういうことだから、お前とはおしまいだ」
ルルードとリリアはその関係性を私に自慢するかのように熱く見つめ合っている。
「じゃあな、さよなら」
彼はあっさりと私たちの関係を叩き壊し捨てた。
◆
数ヶ月後、ルルードはこの世を去った。
やはりリリアは悪人だったようだ。
はじめから騙すつもりで彼に近づいていたようだった。
婚約してからリリアは上手く言ってルルードから資産を引き出し、それが手に入るや否や去っていったそう。
まさかの裏切りに酷くショックを受けたルルードは自ら死を選んだそうだ。
ただ、悪女リリアもまた、幸せにはなれないままその生を終えた。
詐欺的行為を繰り返していた彼女はある時危ない男を騙してしまったらしく。騙せていると思っていたら乗せられていて。痛い反撃を食らうこととなってしまったそうで。
リリアはその危ない男の手で始末されたのだそうだ。
死の間際彼女は「あたしは悪くないの! 騙されただけ! 騙されて、協力されていただけなの!」とか「どうして! こんなのおかしい。あたしはただ好きなように生きてきただけ! 騙してなんてない! 悪いことなんてしてない!」とか騒いでいたそうだが、結局許されることはなく、そのまま落命させられることとなったようである。
……ま、彼女の場合どうなったとしても自業自得だろう。
◆
「おっはよ~」
「おはよう」
あれから数年、私は穏やかな家庭を築くことができた。
「朝早いなぁ~」
「そうかしら」
「ぼく、もう、めっちゃくっちゃ眠くてさ~」
「いつもそうね」
「目覚めのキスとかしてくれない?」
「それは断るわ」
「うわわわぁ~。厳しいなぁ~。悲しいよ~」
「目覚めの紅茶なら淹れるわよ」
夫となってくれた彼は少し個性派な男性だけれど、そういうところも含めて彼のことが好き。
「よっし! よっしよっしよっしゃっしゃしゃっしゃん! よっし! よっしよっしよしよしよっしよっしゃああああああああああああ! 嬉しいぃぃぃぃぃ! 嬉しすぎぃぃぃぃぃ! そりゃ嬉しすぎるよぉぉぉぉぉぉぉ! わっしょいわっしょい」
◆終わり◆
『別れる時まで理解不能なままだった彼は後に痛い目に遭ってしまったようですね。……ま、私には関係のないことですけど。』
「やぁ。久々だな、リリー。会うのはいつ以来だったかな」
「……お久しぶりです、カイルさん」
私リリーと彼カイルは婚約者同士。
しかしたまにしか会わない。
契約上は近しい関係ではあるものの、実際には迷いなく近しい関係と言えるような関係性ではない。
「今日は伝えたいことがあるんだ」
「伝えたいこと、ですか」
「ああ。今から伝えるからな? きちんと聞けよ? オケイ?」
「……どうぞ」
少し待っていると、彼は。
「リリー、君との婚約は破棄とすることとした!」
そんな言葉を投げつけてきた。
「俺は今まで君に付き合ってやってきた。だがもう限界だ。君は俺に相応しい女ではない。だからもうおしまいにすると決めたんだ」
「そうですか」
「何だその反応は! ……あいっかわらず可愛くないな。女ならもっと媚を売れよ、こういう時は泣いて謝るとかさ。それでこそだろ? なぁ?」
「すみませんが理解できません」
「ほら! そういうとこ! そういう態度が可愛くないんだ。そういうところが君のクソなところだ」
なぜそこまで言われなくてはならないのか。
正直理解不能。
彼のことは理解できない。
私とて彼に歩み寄ろうという心がまったくないわけではない、が、それでも彼を理解し受け入れることは不可能だ。
彼の発言はあまりにも失礼過ぎる。
それに、そもそも。私だって確かに一人の人間なのに、彼はそれをまったくもって理解していない。彼は私を人として見ていないのだ。だからことあるごとにこんなにも大きなずれが発生してしまう。
「ま、なんにせよ、ここでバイバイだ」
「そうですね……」
「じゃあな。せいぜい頑張れよ。構ってくれる男に出会えればいいな! ま、君に構う男なんて変な男ばっかだろうけどな!」
最後の最後まで、彼の発する言葉は非常に失礼なものだった。
◆
あれから数年、私は、心を通い合わせることのできる男性と結婚し穏やかかつ幸せに暮らしている。
ここへたどり着けたのはカイルが私を切り捨ててくれたから。
そう考えると彼への感謝も少しは生まれる。
あの一件があったからこそ今の幸せがあるのだということを私は決して忘れない。
生きていれば色々ある。けれども真っ直ぐに生きていれば救いはあるものだ。時に傷ついても、悲しい出来事に見舞われても、いずれ幸せを掴むことはできる。自分の人生をここまで生きてみてそのことに気づいた。
ちなみにカイルはというと、今はもうこの世界にはいないらしい。
何でも、あの後少しして怪しい女性に惚れてしまったカイルは、高額な物品を多数貢いでいたそう。しかし彼の想いが通じることはなく。女性に利用された彼は資産を搾り取られただけで終わってしまったそうだ。
で、その現実に絶望した彼は、自らこの世を去ることを選んだのだそう。
……彼には明るい未来はなかった。
◆終わり◆
『その婚約破棄、実は嬉しいのですが……それを悟られないよう、今は気をつけています。~ハッピーエンドへ駆け抜ける~』
「なァ、リリア、ちょっといいかァ?」
「何でしょうか」
私の婚約者である彼ダーヴィヴィドゥルは個性ある話し方をする人物だ。
だがそれだけならいい。
ちょっと珍しい喋り方をするなんてことで嫌いにはならない。
けれど彼はそれだけではない。
ことあるごとに絡んでくるし、その絡み方が鬱陶しいし、ということで――彼のことは正直あまり好きではない。
「アンタとの婚約だけどさァ、破棄することにしたァ」
「破棄、ですか?」
「ああそうだァ、そういうことォ、婚約破棄するって言ってるゥ」
胸の奥で何かが湧き上がってくる。
(こ、こ……婚約、破棄……キタアアアァァァァァァァァ! キタキタキタよこれキタキタキタアアアァァァァァァァ! よっしゃァァァァァァァァ! 婚約破棄やァァァァァ! わっしょいわっしょいわっしょいわしょしょいんぐ、わっしょォォォォォォォイ!! ついにこの時が来た!? 現実? これって現実なの? 夢じゃないよね!? 夢じゃ……ない、よね!? うわあああぁぁぁぁぁ嬉しいなこれはさすがにかなり……う、う、うれ、うれ、う、う、う……嬉しすぎる、キタァァァァァァァァァァァァァ!!)
それは喜びの色。
しかもかなり強くて大きなもの。
……だがそれを顔に出してはならない。
ここで本心を露出させてしまってはすべてが台無しだ。
婚約破棄されて喜んでいる、なんて思われたら、また次の嫌がらせをされるかもしれない。そういう新しいややこしさに巻き込まれることだけは避けたい。なのでここでは残念に思っているふりをしておこうと思う。彼のような厄介な人に本心を悟らせはしない。
「そうですか……分かりました、では、そういうことで」
「受け入れるんだなァ?」
「ダーヴィヴィドゥルさんがそう決められたのであれば、私はそれに従います」
「おっし!! じゃ、そういうことでェ! バイバァイ! バイバイバァインバァイバァインバァバァバァバァバァバァイバァイ!」
こうして私はダーヴィヴィドゥルから解放された。
……その数日後、彼は亡くなった。
◆
ダーヴィヴィドゥルとの婚約が破棄になった日から数週間が経った頃、昔近所に住んでいてよく遊んでいた異性の幼馴染みローロと再会した。
それは奇跡の再会で。
そこから私の人生はまた新たな段階へと進み始める。
思わぬ形で始まったローロとの関係だったけれど、それは意外にもスムーズに進展していって――気づけば私たちは婚約するに至っていた。
「結婚式、ドキドキするね……」
「ええ」
「リリアは冷静だね、強くて凄いよ」
「……いいえ、緊張はしているわ」
「本当に?」
「もちろんよ」
「そうは見えないけどなぁ」
「ま、ある意味そうかもね。緊張しているように見えないように気をつけているから。私はどんな時もなるべく冷静な人間でありたいの」
今日は結婚式。
間もなく私たちは皆の前で同じ未来を誓う。
「リリアは強いなぁ」
「そうでもないのよ」
「本当?」
「ええ。……むしろローロの方が強いんじゃない? だって、今も、こうやって話しかけてくれているし。リラックスさせてくれているじゃない」
「そんなつもりはなかったよ」
「じゃ、自然としてくれているのね」
「褒めてくれてありがとう。嬉しいよ。リリアの言葉には大きな力があるね、凄く励まされるよ」
――ここからまた新しい日々が始まってゆく。
◆終わり◆
「しりとりしないカァ?」
「いいわよ」
「じゃあ、スタートしようゼェ!」
私の夫は個性的な人。
喋り方にもかなりクセがある。
ただ、悪い人ではなくて、一緒にいるととても楽しい人だ。
「まーずーはー……小麦粉ォ!」
「コーラス」
「すみれェ!」
「レモンジュース」
「ま、また、す!? う、ううーん……好きィ!」
「騎士」
「真実ゥ!」
「積み木」
「き、きき、きっきききっきっきィ……黄色ォ!」
かつて私たちはそれぞれ婚約破棄されることを経験した。
それも極めて理不尽なものを。
私は「パッとしない」という雑な理由で切り捨てられ、彼は「キモい」という心ない言葉で切り捨てられた。
そんな私たちが今こうして共にあれているのは、きっと、神の優しさゆえなのだろう。
「ロバ」
「罰ゲームゥ!」
「無視」
「ええェ!? 冷たいワードチョイスゥ!? ……う、んしょ、じゃ……鹿ァ」
「カバ」
「また、ば、なのォ!? えーと……うーん、えーと、えーとえーとと、えっとととっとォ……バクゥ! 動物の、ネ!」
だが、奇跡だろうが同情した神の優しさだろうがなんだっていい。
なんせ今は幸せなのだ。
それだけでいい。
今の状況以上のことなんて何も望まない。
「草むら」
「ラクダァ!」
「だんごむし、で」
「指揮者ァ! 音楽の、ネ」
「シャベル」
「瑠璃色ォ」
「蝋燭」
「くきわかめェ!」
彼が大事。
日常も大事。
だから私は今ここに在る幸せを護って生きてゆく。
「メジロ」
「ろー……ろ、ろー、ろ、ろろ……うーん、えとォ……老人会ィ!」
「インコ」
「鳥多いナァ!?」
「続けてちょうだい」
「……はい。で、では、ではではァ……コルクゥ!」
「組み体操」
「牛ィ」
「至近距離」
「りんごォ!」
「ごますり」
「いやいや、うっそォ、そんなワード来るゥ!? ……では、陸地ィ」
こんな風によく分からないしりとりをする時間だって、私にとってはとても愛おしい時間だ。
「地域」
「菊ゥ」
「栗」
「理不尽な言葉ァ!」
「番組」
「ミミズゥ」
「ずぼら」
「えーっと、ら、ら、ららら……らー……乱暴者ォ!」
第三者から見ればくだらない時間かもしれない。
何も生まれはしないわけだし。
けれど、私としては、無駄なことばかりしているとは思っていない。
穏やかな時間。
平凡な日常。
大げさではないけれど存在する温かな愛。
そういったものこそ、幸福のために護ってゆくべきものだろう。
「野原」
「またァ!? えええーっ。またなのォ!? また、ら、なのカァ!? ……楽な暮らしィ」
「しみじみ」
「民宿ゥ」
「暗闇」
「ミンチィ!」
「ちりめんじゃこ、で」
「恋人ォ! ハッピハッピハッピピハッピィ」
「そういうのいいから……じゃあ、得意分野、で」
「やまびこォ」
「小島」
「松林ィ」
「新規会員募集中」
「う、だナァ? うーん……移ろい、にするゥ!」
「いかだ」
「黙れェ」
「ええ?」
「い、いや、違うよォ。黙れ、って言葉を選んだんだヨォ」
「そういうことね」
「続けようヨォ!」
「ええ。では、歴史、で」
婚約破棄を越えて、幸せにたどり着けた。
こんなに嬉しいことはない。
◆終わり◆
『その時は突然やって来ました。ある春の日の昼下がりでした。~それでも私は生きていきますし幸せになってみせます~』
ある春の日の昼下がり、婚約者ルルードが知らない女性を連れて私の前に現れた。
「よっ」
ルルードは何事もなかったかのように軽い挨拶をしてくる。
しかしその様は明らかに不自然だ。
婚約者がいる彼が隣に他の女性を置いているという状況そのものが明らかにおかしい。
「ルルードさん、そちらの女性は?」
「ああ、彼女はリリア。可愛いだろう。実はそのことで話があるんだ」
「お話が?」
「そうそう」
少し間があって。
「お前との婚約、破棄とすることにしたから」
彼ははっきりとそう言った。
ルルードの隣にいるリリアは甘ったるい顔立ちの女性だが、その面に滲んでいる笑みは少々黒ずんでいる。ルルードは気づいていないのだろう。けれども私から見れば明らかだ。リリアの笑みは純粋かつ純真なものではない。その表情と目つきを見ればすぐに分かる、彼女が綺麗な心の持ち主でないということが。
「俺はリリアと結婚することにした」
「本気で……?」
「ああ、もちろん。本気だ。それ以外に何があるというんだ。……ま、なんでもいいか。そういうことだから、お前とはおしまいだ」
ルルードとリリアはその関係性を私に自慢するかのように熱く見つめ合っている。
「じゃあな、さよなら」
彼はあっさりと私たちの関係を叩き壊し捨てた。
◆
数ヶ月後、ルルードはこの世を去った。
やはりリリアは悪人だったようだ。
はじめから騙すつもりで彼に近づいていたようだった。
婚約してからリリアは上手く言ってルルードから資産を引き出し、それが手に入るや否や去っていったそう。
まさかの裏切りに酷くショックを受けたルルードは自ら死を選んだそうだ。
ただ、悪女リリアもまた、幸せにはなれないままその生を終えた。
詐欺的行為を繰り返していた彼女はある時危ない男を騙してしまったらしく。騙せていると思っていたら乗せられていて。痛い反撃を食らうこととなってしまったそうで。
リリアはその危ない男の手で始末されたのだそうだ。
死の間際彼女は「あたしは悪くないの! 騙されただけ! 騙されて、協力されていただけなの!」とか「どうして! こんなのおかしい。あたしはただ好きなように生きてきただけ! 騙してなんてない! 悪いことなんてしてない!」とか騒いでいたそうだが、結局許されることはなく、そのまま落命させられることとなったようである。
……ま、彼女の場合どうなったとしても自業自得だろう。
◆
「おっはよ~」
「おはよう」
あれから数年、私は穏やかな家庭を築くことができた。
「朝早いなぁ~」
「そうかしら」
「ぼく、もう、めっちゃくっちゃ眠くてさ~」
「いつもそうね」
「目覚めのキスとかしてくれない?」
「それは断るわ」
「うわわわぁ~。厳しいなぁ~。悲しいよ~」
「目覚めの紅茶なら淹れるわよ」
夫となってくれた彼は少し個性派な男性だけれど、そういうところも含めて彼のことが好き。
「よっし! よっしよっしよっしゃっしゃしゃっしゃん! よっし! よっしよっしよしよしよっしよっしゃああああああああああああ! 嬉しいぃぃぃぃぃ! 嬉しすぎぃぃぃぃぃ! そりゃ嬉しすぎるよぉぉぉぉぉぉぉ! わっしょいわっしょい」
◆終わり◆
『別れる時まで理解不能なままだった彼は後に痛い目に遭ってしまったようですね。……ま、私には関係のないことですけど。』
「やぁ。久々だな、リリー。会うのはいつ以来だったかな」
「……お久しぶりです、カイルさん」
私リリーと彼カイルは婚約者同士。
しかしたまにしか会わない。
契約上は近しい関係ではあるものの、実際には迷いなく近しい関係と言えるような関係性ではない。
「今日は伝えたいことがあるんだ」
「伝えたいこと、ですか」
「ああ。今から伝えるからな? きちんと聞けよ? オケイ?」
「……どうぞ」
少し待っていると、彼は。
「リリー、君との婚約は破棄とすることとした!」
そんな言葉を投げつけてきた。
「俺は今まで君に付き合ってやってきた。だがもう限界だ。君は俺に相応しい女ではない。だからもうおしまいにすると決めたんだ」
「そうですか」
「何だその反応は! ……あいっかわらず可愛くないな。女ならもっと媚を売れよ、こういう時は泣いて謝るとかさ。それでこそだろ? なぁ?」
「すみませんが理解できません」
「ほら! そういうとこ! そういう態度が可愛くないんだ。そういうところが君のクソなところだ」
なぜそこまで言われなくてはならないのか。
正直理解不能。
彼のことは理解できない。
私とて彼に歩み寄ろうという心がまったくないわけではない、が、それでも彼を理解し受け入れることは不可能だ。
彼の発言はあまりにも失礼過ぎる。
それに、そもそも。私だって確かに一人の人間なのに、彼はそれをまったくもって理解していない。彼は私を人として見ていないのだ。だからことあるごとにこんなにも大きなずれが発生してしまう。
「ま、なんにせよ、ここでバイバイだ」
「そうですね……」
「じゃあな。せいぜい頑張れよ。構ってくれる男に出会えればいいな! ま、君に構う男なんて変な男ばっかだろうけどな!」
最後の最後まで、彼の発する言葉は非常に失礼なものだった。
◆
あれから数年、私は、心を通い合わせることのできる男性と結婚し穏やかかつ幸せに暮らしている。
ここへたどり着けたのはカイルが私を切り捨ててくれたから。
そう考えると彼への感謝も少しは生まれる。
あの一件があったからこそ今の幸せがあるのだということを私は決して忘れない。
生きていれば色々ある。けれども真っ直ぐに生きていれば救いはあるものだ。時に傷ついても、悲しい出来事に見舞われても、いずれ幸せを掴むことはできる。自分の人生をここまで生きてみてそのことに気づいた。
ちなみにカイルはというと、今はもうこの世界にはいないらしい。
何でも、あの後少しして怪しい女性に惚れてしまったカイルは、高額な物品を多数貢いでいたそう。しかし彼の想いが通じることはなく。女性に利用された彼は資産を搾り取られただけで終わってしまったそうだ。
で、その現実に絶望した彼は、自らこの世を去ることを選んだのだそう。
……彼には明るい未来はなかった。
◆終わり◆
『その婚約破棄、実は嬉しいのですが……それを悟られないよう、今は気をつけています。~ハッピーエンドへ駆け抜ける~』
「なァ、リリア、ちょっといいかァ?」
「何でしょうか」
私の婚約者である彼ダーヴィヴィドゥルは個性ある話し方をする人物だ。
だがそれだけならいい。
ちょっと珍しい喋り方をするなんてことで嫌いにはならない。
けれど彼はそれだけではない。
ことあるごとに絡んでくるし、その絡み方が鬱陶しいし、ということで――彼のことは正直あまり好きではない。
「アンタとの婚約だけどさァ、破棄することにしたァ」
「破棄、ですか?」
「ああそうだァ、そういうことォ、婚約破棄するって言ってるゥ」
胸の奥で何かが湧き上がってくる。
(こ、こ……婚約、破棄……キタアアアァァァァァァァァ! キタキタキタよこれキタキタキタアアアァァァァァァァ! よっしゃァァァァァァァァ! 婚約破棄やァァァァァ! わっしょいわっしょいわっしょいわしょしょいんぐ、わっしょォォォォォォォイ!! ついにこの時が来た!? 現実? これって現実なの? 夢じゃないよね!? 夢じゃ……ない、よね!? うわあああぁぁぁぁぁ嬉しいなこれはさすがにかなり……う、う、うれ、うれ、う、う、う……嬉しすぎる、キタァァァァァァァァァァァァァ!!)
それは喜びの色。
しかもかなり強くて大きなもの。
……だがそれを顔に出してはならない。
ここで本心を露出させてしまってはすべてが台無しだ。
婚約破棄されて喜んでいる、なんて思われたら、また次の嫌がらせをされるかもしれない。そういう新しいややこしさに巻き込まれることだけは避けたい。なのでここでは残念に思っているふりをしておこうと思う。彼のような厄介な人に本心を悟らせはしない。
「そうですか……分かりました、では、そういうことで」
「受け入れるんだなァ?」
「ダーヴィヴィドゥルさんがそう決められたのであれば、私はそれに従います」
「おっし!! じゃ、そういうことでェ! バイバァイ! バイバイバァインバァイバァインバァバァバァバァバァバァイバァイ!」
こうして私はダーヴィヴィドゥルから解放された。
……その数日後、彼は亡くなった。
◆
ダーヴィヴィドゥルとの婚約が破棄になった日から数週間が経った頃、昔近所に住んでいてよく遊んでいた異性の幼馴染みローロと再会した。
それは奇跡の再会で。
そこから私の人生はまた新たな段階へと進み始める。
思わぬ形で始まったローロとの関係だったけれど、それは意外にもスムーズに進展していって――気づけば私たちは婚約するに至っていた。
「結婚式、ドキドキするね……」
「ええ」
「リリアは冷静だね、強くて凄いよ」
「……いいえ、緊張はしているわ」
「本当に?」
「もちろんよ」
「そうは見えないけどなぁ」
「ま、ある意味そうかもね。緊張しているように見えないように気をつけているから。私はどんな時もなるべく冷静な人間でありたいの」
今日は結婚式。
間もなく私たちは皆の前で同じ未来を誓う。
「リリアは強いなぁ」
「そうでもないのよ」
「本当?」
「ええ。……むしろローロの方が強いんじゃない? だって、今も、こうやって話しかけてくれているし。リラックスさせてくれているじゃない」
「そんなつもりはなかったよ」
「じゃ、自然としてくれているのね」
「褒めてくれてありがとう。嬉しいよ。リリアの言葉には大きな力があるね、凄く励まされるよ」
――ここからまた新しい日々が始まってゆく。
◆終わり◆
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