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『色々ありましたが、夫との関係は良好なので、これからも楽しくまったり穏やかに生きていきます!』
ある晴れた日のこと。夫である三つ年上の彼ラヴェンスと庭でまったり過ごしていたところ、彼のほうから意外な誘いがあった。それはちょっとした遊びに関する誘いで。何かしらの意味がある誘いというわけでもなくて。ただ、こちらとしては別に断る理由もなかったので深く考えないままに頷いた。で、それによってスムーズにその遊びへと突入していく。
「じゃあ俺からスタートな! りんご」
「ご、ね」
「ああそうだ」
「ええと……では、ゴリラ、で」
「ゴリラ!」
「駄目だったかしら」
ラヴェンスはこちらへ視線を向けて「ゴリラ本物見たことある?」と尋ねてくる。私は控えめに首を横へ振って「ないわね」とだけ返した。その会話はそこで終わる。
「じゃ、俺だな。……落雷!」
「稲妻」
「松林!」
「しらみつぶし」
「また、し、じゃないかっ」
「別にルール違反じゃないでしょう?」
「まぁそうだけど、さ……シミ取り」
「リズム」
「無理矢理!」
「力士」
すると彼はまたこちらへ視線を向けてきて「力士本物見たことある?」と尋ねてきた。またそのパターンの質問かーい、と内心突っ込みつつも、落ち着きを保つよう意識して「ないわ」と答えた。そして「絵本でなら見たことあるけどね」と付け加えておいた。
「私語!」
「ごますり」
「リキッドタイプ!」
「ぷっくり」
「うわあ。また、り、かよ。ひっでぇ……」
「続けましょう」
「えええー……律動!」
「馬」
「漫才師!」
「しじみ」
「民主主義!」
「義母」
「ボート!」
「年女」
「なすび!」
「ええと、そうね……美人のお姉さま」
「マス!」
「すみれ」
するとラヴェンスはふっと笑みをこぼして「可愛いな、すみれ」と呟いた。
「何よ?」
「いやべつに」
「ええ……」
「悪い意味じゃないって」
「そう。なら良かったけれど。変だったらはっきり言ってちょうだい」
「変じゃない!」
そんな風に言葉を交わして、遊びへ戻る。
「レンガ、で!」
「ガイドブック」
「栗!」
「理不尽な責められ方」
「なんだそりゃ……じゃ、たぬき、にする」
「きびだんご」
ラヴェンスは「何だそれ!?」と驚いたような目をした。
私は「東国の伝説に出てくる魔法の食べ物よ」とだけ返しておいた。
きびだんごが出てくる東国の伝説はこの国ではあまり有名でないのでラヴェンスはきっと知らないだろう。
「語彙!」
「石橋」
「指揮者!」
「釈放」
「う、う、う……牛!」
「敷物」
「なら、野原! 野原! で!」
「楽する」
「ルルルと歌う!」
数年前、私は婚約者に突然婚約破棄されてショックを受け、寝込んでしまっていた。
そんな時励ましによく来てくれたのが当時近所の人だったラヴェンスだった。
その時まではそこまで親しくなかった。会えば挨拶をする程度で。嫌いではなかったけれど、好きとか何とかそういう話ですらなくて。当時の私にとって彼はただの知り合いでしかなかったのだ。
けれども、辛い時に支えてくれたことで、私たちの関係は大幅に変化した。
私たちはあっという間に距離を縮めて。
気づけばお互いを大切に想うようになっていた。
――そして今に至っている。
「何それ……まぁいいわ。う、ね。じゃあ……瓜で」
「り、多いな! ……陸地」
「知恵比べ」
「べっこう!」
「浮世絵」
「え、え、ええ……え、だよな……絵師!」
「四季」
「勤勉な人!」
「得意分野」
「休みたい!」
「印字」
「自分中心なやつ!」
「積み木」
「き、き、き……っ、貴公子!」
ラヴェンスと出会えたことは本当に嬉しいことだった。
「真珠」
「じゅ、か……呪文を唱える!」
「ルーツ」
「追伸も読んで!」
「デマ」
「ますのすし!」
「珍しい単語が出てきたわね……。じゃ、幸せ、で」
だから私はこれからも日々を大切にして生きていく。
「セミ!」
「魅惑」
「茎わかめ!」
「迷宮」
「虚ろな瞳!」
「密接な関わり」
「隣人が鬱陶しい!」
「今それ言う? で」
「うろつく!」
「食いしばり」
「また、り、かよー! 勘弁してくれよー!」
――そう、人生はまだ、終わりはしない。
この先の道は長く続いていくもの。
だから私は彼と手を取り合って歩んでゆく。
いつまでも穏やかに生きよう――そう思う。
◆終わり◆
『婚約者を妹に奪われるなんて思いませんでした。が、こうなってはもう仕方がないので、私は退くことにします。』
「お姉さま! アンドーンズさまはわたくしがいただきますわ!」
妹ララからそんなことを言われたのは、とある夏の平凡な昼下がりであった。
「ララ、一体何を言っているの?」
「アンドーンズさまはお姉さまではなくわたくしを愛していますの!」
「ちょっと待って。彼は私の婚約者よ。そんな勝手なことを言い出すのはやめてちょうだい」
アンドーンズというのは私と婚約している男性の名前だ。それなのにララは『彼は自分を愛している』と主張する。まったくもって理解できない。話についていけない。
「ば、か、ね! お姉さま、遅いっ。アンドーンズさまの心はもうわたくしに向いているの。あの方はお姉さまを愛してはいない、ってこと! なぜ分からないのかが分かりませんわ」
それから少ししてアンドーンズから連絡があり「会って話したい」とのことだったので受け入れたのだが。
「ごめん、僕はララさんと生きるよ」
「え……」
「君との婚約は破棄する」
「本気なの?」
問うと、彼は。
「だって! 僕は君のことそんなに好きじゃないんだもん! ただの形だけの婚約!! だもん!! そういうくだらない関係だもん!! 僕だって僕だって僕だって僕だって……好きになった人と結婚したいよ! 好きな人と! 結婚! したいんだよ!!」
急に騒ぎ始める。
「ララさんが好きなんだもん! 好き! なんだ! もん! ララさんが! ララさんが愛おしいんだもん! ララさんがララさんがララさんがララさんがララさんが……好きなんだよぉぉぉ! 僕は! 僕はああぁぁぁぁぁぁ! ララさんが好きなんだよぉぉぉ! ララさんが愛おしいんだよぉぉぉ! 好きで好きで好きで好きで仕方ないんだもぉぉぉぉぉん!! だから僕は! ララさんだけを! 愛して生きるんだ! 生きる生きる生きる生きる生きる生きる生きるぅぅぅ!! ララさんと一緒に生きるんだぁぁぁぁぁぁっ!!」
その時の彼は、まるで、精神的に未熟な子どもであるかのようだった。
「僕はぁぁぁ! ララさんとぉぉぉ! 生きていくんだぁぁぁ! 生きていく生きていく生きていくよぉぉぉぉ! 愛する人とぉぉぉ! 一緒に生きていくぅぅぅ! ララさんだけがぁぁぁぁ! 僕は好きなんだぁぁぁぁぁっ! ララさんラブぅぅぅぅ! ラブぅぅぅぅ! ララさんラブラブラブラブラブラブラブラブぅぅぅぅ!」
もうこの人とはやっていけない。
心からそう思った。
それに、だ。
肝心なところでこんな幼稚なやり方をする人と結婚しようとしていただなんて、考えれば考えるほど恐ろしい。
……そういう意味では婚約破棄されたことはラッキーだったのかも。
「分かりました。……では、さようなら」
「理解してくれてありがとう!」
◆
婚約破棄後間もなく、アンドーンズはララと婚約した。
しかし婚約後二人の関係は一気に崩れたようだった。というのも、ララが猛烈にわがままを言うようになったようなのだ。
その結果、喧嘩が多発するようになり。
そんなある日の晩、言い合いの激しい喧嘩をしていた二人は酷く感情的になり、殴り合いにまで発展してしまう。
そしてその中でアンドーンズがララを押し倒した際、打ち所が悪く、ララは意識を失いそのまま落命してしまった。
ララはこの世を去り。
アンドーンズは人殺しとなる。
私を傷つけた二人は幸せにはなれずあっという間に破滅した。
◆
アンドーンズに婚約破棄を告げられた日からちょうど二年が経った今日、私は式を挙げる。
夫となる彼は八つ年上。
少し年の差がある。
けれどもお互いを大切に想い合えているから関係は良好そのもの。
私たちは明るい未来を信じている。
◆終わり◆
『それはやたらと頭痛がする夕暮れ時の出来事でした。~結果的に幸せになれたので良かったです~』
なぜか不自然なほどに頭痛がする夕暮れ時。
自室のベッドに横になっていたところ、婚約者である彼ゾージゾーンが訪問してきた。
彼が自らうちへやって来るなんて珍しいことなので「何があったのかな?」と不思議に思っていたのだけれど。
「やあ、頭痛らしいね」
「ええ……」
「ダイジョウブかい?」
「一応安静にしておこうと思って」
「そうか」
彼が私の調子に目を向けることなんてこれまではあまりなかったので内心驚いていたところ。
「実は、伝えなくてはならないことがあるんだ」
そんな風に前振りをされて、嫌な予感。
「君との婚約なんだけどさ、破棄とすることにしたんだ」
脳裏に過った嫌な予感は的中してしまった。
「それを伝えに来た、ってこと。オケイ?」
「……また急ね」
「ま、そーかもね? ケド本気だから。決めたことは絶対的なことだから。じゃあな! バイバイ!」
こうして私は頭痛の中ほぼ強制的に婚約破棄されてしまったのだった。
◆
私との婚約を破棄した後、間もなく、ゾージゾーンは別の女性と婚約した。
それが目的だったということか……。
そう思うと何とも言えない気分になって。
けれども私がどんな心でいても時は戻らないし彼を変えることはできないのだからと考え放っておくことにした。
私は私の道を歩もうと思う。
今は頭痛が酷いけれど。
落ち着いたならまた歩き出そう。
希望ある未来はいつからだって掴めるのだから、諦めるにはまだ早い。
◆
「ぼ、ぼっ……僕と、結婚! して! ください!」
あれから数年。
私は今まさに運命的な地点に立っている。
想っている人から想いを告げられる――その瞬間は他のどんなものよりも尊いものだ。
「ありがとう。……とても、嬉しいです」
過去などすべて捨てても構わない。
そう思えるほどに。
今は大きな幸せを感じている。
「私も貴方が好きです」
共に生きよう。
その言葉に偽りはない。
「あ、あっ……あり、ありがとうございますっ。嬉しいです! これから、よろしくお願いします!」
目の前にいる彼は私の大切な人。
そしてこれから共に歩んでゆく存在。
「これからもよろしくね」
……もう頭痛はしない。
ちなみにゾージゾーンはというと、私ではない女性と婚約したものの婚約期間中に浮気したために婚約破棄され高額な慰謝料を払わされたために破滅したそうだ。
◆終わり◆
『意地悪な母の嫌がらせには負けません! 私は彼と共に生きていくのです! それだけは譲れないのです!』
意地悪な母は私ミレと婚約者ダオンの関係を壊そうとあれこれ仕掛けてくる。
「ごめんね、いつも……母が嫌がらせしてきて」
「大丈夫だよ気にしないで」
「ありがとうダオン。私は絶対に貴方を選ぶから。あんな性格の悪い母、必ず痛い目に遭わせるから」
ダオンはとても優しい人だ。
だから私は彼が好き。
母がどれだけ邪魔してきたとしても私はダオンから離れはしない。
――そんなある日の夕暮れ時。
「ダオン! あんたね! あたしの可愛い可愛い娘に手を出してるんじゃないわよ!」
彼と一緒にいたところ母が現れて。
「死ねぇ!!」
刃物を取り出し、彼に襲いかかろうとした。
「母さん、やめてッ!!」
私は咄嗟に両者の間に入る。
迫りくる刃が鈍く光る。
刺される――そう思いはしたけれど、私が一番恐れていることはダオンを失うことなので、それに比べれば自分が刺されるほうがマシだった。
「ミレ!」
母に刺され、意識が遠のいていく。
「なんだ!? 何が起きた!?」
「い、いやあああ! 救急隊呼んで! 早く、早くしてえええええ!」
「うわあああ」
「はあ!? はああ!? なんだこれ、女が刺したのか!?」
「殺人よ! こんなのっ……取り押さえて!」
騒ぎが広がっていることを肌で感じながら――私は意識を暗闇に落とした。
◆
「……レ、ミレ!」
次に気がついた時、目の前にはダオンの顔面があった。
「わた、し……」
「良かった! 意識が戻って!」
徐々に思い出してくる。
あの時何があったのか。
「そっか、私……刺されて、それで……」
「う、うわああああああああ!」
「ダオン!?」
「死んじゃうかと思ったよおおおおおお! ミレええええええええ! 生き延びてくれて、ほんと、本当、に、良かったああああああああ!」
その後私はしばらく入院することとなった。その間ダオンは常に傍にいてくれた。傍にいて、色々お世話もしてくれて、おかげで暮らしていく中で困ることはほとんどなく。無事退院の日を迎えることができた。
「ごめんねダオン、色々、なんというか」
「いいんだ、もう。ただ生きていてくれればそれでいい。それだけでいい」
「迷惑かけてごめんなさい」
「謝らないで! ミレは悪くないんだから!」
「……ありがとね」
こうして私たちは無事結婚することができたのだった。
ちなみに、ダオンを刺そうとして私を刺してしまった母はというと、あの時現場で拘束されたそうだ。で、牢屋送りに。しばらくは劣悪な環境で過ごすことを求められ、やがて、娘を殺したという罪で処刑されたらしい。
◆終わり◆
ある晴れた日のこと。夫である三つ年上の彼ラヴェンスと庭でまったり過ごしていたところ、彼のほうから意外な誘いがあった。それはちょっとした遊びに関する誘いで。何かしらの意味がある誘いというわけでもなくて。ただ、こちらとしては別に断る理由もなかったので深く考えないままに頷いた。で、それによってスムーズにその遊びへと突入していく。
「じゃあ俺からスタートな! りんご」
「ご、ね」
「ああそうだ」
「ええと……では、ゴリラ、で」
「ゴリラ!」
「駄目だったかしら」
ラヴェンスはこちらへ視線を向けて「ゴリラ本物見たことある?」と尋ねてくる。私は控えめに首を横へ振って「ないわね」とだけ返した。その会話はそこで終わる。
「じゃ、俺だな。……落雷!」
「稲妻」
「松林!」
「しらみつぶし」
「また、し、じゃないかっ」
「別にルール違反じゃないでしょう?」
「まぁそうだけど、さ……シミ取り」
「リズム」
「無理矢理!」
「力士」
すると彼はまたこちらへ視線を向けてきて「力士本物見たことある?」と尋ねてきた。またそのパターンの質問かーい、と内心突っ込みつつも、落ち着きを保つよう意識して「ないわ」と答えた。そして「絵本でなら見たことあるけどね」と付け加えておいた。
「私語!」
「ごますり」
「リキッドタイプ!」
「ぷっくり」
「うわあ。また、り、かよ。ひっでぇ……」
「続けましょう」
「えええー……律動!」
「馬」
「漫才師!」
「しじみ」
「民主主義!」
「義母」
「ボート!」
「年女」
「なすび!」
「ええと、そうね……美人のお姉さま」
「マス!」
「すみれ」
するとラヴェンスはふっと笑みをこぼして「可愛いな、すみれ」と呟いた。
「何よ?」
「いやべつに」
「ええ……」
「悪い意味じゃないって」
「そう。なら良かったけれど。変だったらはっきり言ってちょうだい」
「変じゃない!」
そんな風に言葉を交わして、遊びへ戻る。
「レンガ、で!」
「ガイドブック」
「栗!」
「理不尽な責められ方」
「なんだそりゃ……じゃ、たぬき、にする」
「きびだんご」
ラヴェンスは「何だそれ!?」と驚いたような目をした。
私は「東国の伝説に出てくる魔法の食べ物よ」とだけ返しておいた。
きびだんごが出てくる東国の伝説はこの国ではあまり有名でないのでラヴェンスはきっと知らないだろう。
「語彙!」
「石橋」
「指揮者!」
「釈放」
「う、う、う……牛!」
「敷物」
「なら、野原! 野原! で!」
「楽する」
「ルルルと歌う!」
数年前、私は婚約者に突然婚約破棄されてショックを受け、寝込んでしまっていた。
そんな時励ましによく来てくれたのが当時近所の人だったラヴェンスだった。
その時まではそこまで親しくなかった。会えば挨拶をする程度で。嫌いではなかったけれど、好きとか何とかそういう話ですらなくて。当時の私にとって彼はただの知り合いでしかなかったのだ。
けれども、辛い時に支えてくれたことで、私たちの関係は大幅に変化した。
私たちはあっという間に距離を縮めて。
気づけばお互いを大切に想うようになっていた。
――そして今に至っている。
「何それ……まぁいいわ。う、ね。じゃあ……瓜で」
「り、多いな! ……陸地」
「知恵比べ」
「べっこう!」
「浮世絵」
「え、え、ええ……え、だよな……絵師!」
「四季」
「勤勉な人!」
「得意分野」
「休みたい!」
「印字」
「自分中心なやつ!」
「積み木」
「き、き、き……っ、貴公子!」
ラヴェンスと出会えたことは本当に嬉しいことだった。
「真珠」
「じゅ、か……呪文を唱える!」
「ルーツ」
「追伸も読んで!」
「デマ」
「ますのすし!」
「珍しい単語が出てきたわね……。じゃ、幸せ、で」
だから私はこれからも日々を大切にして生きていく。
「セミ!」
「魅惑」
「茎わかめ!」
「迷宮」
「虚ろな瞳!」
「密接な関わり」
「隣人が鬱陶しい!」
「今それ言う? で」
「うろつく!」
「食いしばり」
「また、り、かよー! 勘弁してくれよー!」
――そう、人生はまだ、終わりはしない。
この先の道は長く続いていくもの。
だから私は彼と手を取り合って歩んでゆく。
いつまでも穏やかに生きよう――そう思う。
◆終わり◆
『婚約者を妹に奪われるなんて思いませんでした。が、こうなってはもう仕方がないので、私は退くことにします。』
「お姉さま! アンドーンズさまはわたくしがいただきますわ!」
妹ララからそんなことを言われたのは、とある夏の平凡な昼下がりであった。
「ララ、一体何を言っているの?」
「アンドーンズさまはお姉さまではなくわたくしを愛していますの!」
「ちょっと待って。彼は私の婚約者よ。そんな勝手なことを言い出すのはやめてちょうだい」
アンドーンズというのは私と婚約している男性の名前だ。それなのにララは『彼は自分を愛している』と主張する。まったくもって理解できない。話についていけない。
「ば、か、ね! お姉さま、遅いっ。アンドーンズさまの心はもうわたくしに向いているの。あの方はお姉さまを愛してはいない、ってこと! なぜ分からないのかが分かりませんわ」
それから少ししてアンドーンズから連絡があり「会って話したい」とのことだったので受け入れたのだが。
「ごめん、僕はララさんと生きるよ」
「え……」
「君との婚約は破棄する」
「本気なの?」
問うと、彼は。
「だって! 僕は君のことそんなに好きじゃないんだもん! ただの形だけの婚約!! だもん!! そういうくだらない関係だもん!! 僕だって僕だって僕だって僕だって……好きになった人と結婚したいよ! 好きな人と! 結婚! したいんだよ!!」
急に騒ぎ始める。
「ララさんが好きなんだもん! 好き! なんだ! もん! ララさんが! ララさんが愛おしいんだもん! ララさんがララさんがララさんがララさんがララさんが……好きなんだよぉぉぉ! 僕は! 僕はああぁぁぁぁぁぁ! ララさんが好きなんだよぉぉぉ! ララさんが愛おしいんだよぉぉぉ! 好きで好きで好きで好きで仕方ないんだもぉぉぉぉぉん!! だから僕は! ララさんだけを! 愛して生きるんだ! 生きる生きる生きる生きる生きる生きる生きるぅぅぅ!! ララさんと一緒に生きるんだぁぁぁぁぁぁっ!!」
その時の彼は、まるで、精神的に未熟な子どもであるかのようだった。
「僕はぁぁぁ! ララさんとぉぉぉ! 生きていくんだぁぁぁ! 生きていく生きていく生きていくよぉぉぉぉ! 愛する人とぉぉぉ! 一緒に生きていくぅぅぅ! ララさんだけがぁぁぁぁ! 僕は好きなんだぁぁぁぁぁっ! ララさんラブぅぅぅぅ! ラブぅぅぅぅ! ララさんラブラブラブラブラブラブラブラブぅぅぅぅ!」
もうこの人とはやっていけない。
心からそう思った。
それに、だ。
肝心なところでこんな幼稚なやり方をする人と結婚しようとしていただなんて、考えれば考えるほど恐ろしい。
……そういう意味では婚約破棄されたことはラッキーだったのかも。
「分かりました。……では、さようなら」
「理解してくれてありがとう!」
◆
婚約破棄後間もなく、アンドーンズはララと婚約した。
しかし婚約後二人の関係は一気に崩れたようだった。というのも、ララが猛烈にわがままを言うようになったようなのだ。
その結果、喧嘩が多発するようになり。
そんなある日の晩、言い合いの激しい喧嘩をしていた二人は酷く感情的になり、殴り合いにまで発展してしまう。
そしてその中でアンドーンズがララを押し倒した際、打ち所が悪く、ララは意識を失いそのまま落命してしまった。
ララはこの世を去り。
アンドーンズは人殺しとなる。
私を傷つけた二人は幸せにはなれずあっという間に破滅した。
◆
アンドーンズに婚約破棄を告げられた日からちょうど二年が経った今日、私は式を挙げる。
夫となる彼は八つ年上。
少し年の差がある。
けれどもお互いを大切に想い合えているから関係は良好そのもの。
私たちは明るい未来を信じている。
◆終わり◆
『それはやたらと頭痛がする夕暮れ時の出来事でした。~結果的に幸せになれたので良かったです~』
なぜか不自然なほどに頭痛がする夕暮れ時。
自室のベッドに横になっていたところ、婚約者である彼ゾージゾーンが訪問してきた。
彼が自らうちへやって来るなんて珍しいことなので「何があったのかな?」と不思議に思っていたのだけれど。
「やあ、頭痛らしいね」
「ええ……」
「ダイジョウブかい?」
「一応安静にしておこうと思って」
「そうか」
彼が私の調子に目を向けることなんてこれまではあまりなかったので内心驚いていたところ。
「実は、伝えなくてはならないことがあるんだ」
そんな風に前振りをされて、嫌な予感。
「君との婚約なんだけどさ、破棄とすることにしたんだ」
脳裏に過った嫌な予感は的中してしまった。
「それを伝えに来た、ってこと。オケイ?」
「……また急ね」
「ま、そーかもね? ケド本気だから。決めたことは絶対的なことだから。じゃあな! バイバイ!」
こうして私は頭痛の中ほぼ強制的に婚約破棄されてしまったのだった。
◆
私との婚約を破棄した後、間もなく、ゾージゾーンは別の女性と婚約した。
それが目的だったということか……。
そう思うと何とも言えない気分になって。
けれども私がどんな心でいても時は戻らないし彼を変えることはできないのだからと考え放っておくことにした。
私は私の道を歩もうと思う。
今は頭痛が酷いけれど。
落ち着いたならまた歩き出そう。
希望ある未来はいつからだって掴めるのだから、諦めるにはまだ早い。
◆
「ぼ、ぼっ……僕と、結婚! して! ください!」
あれから数年。
私は今まさに運命的な地点に立っている。
想っている人から想いを告げられる――その瞬間は他のどんなものよりも尊いものだ。
「ありがとう。……とても、嬉しいです」
過去などすべて捨てても構わない。
そう思えるほどに。
今は大きな幸せを感じている。
「私も貴方が好きです」
共に生きよう。
その言葉に偽りはない。
「あ、あっ……あり、ありがとうございますっ。嬉しいです! これから、よろしくお願いします!」
目の前にいる彼は私の大切な人。
そしてこれから共に歩んでゆく存在。
「これからもよろしくね」
……もう頭痛はしない。
ちなみにゾージゾーンはというと、私ではない女性と婚約したものの婚約期間中に浮気したために婚約破棄され高額な慰謝料を払わされたために破滅したそうだ。
◆終わり◆
『意地悪な母の嫌がらせには負けません! 私は彼と共に生きていくのです! それだけは譲れないのです!』
意地悪な母は私ミレと婚約者ダオンの関係を壊そうとあれこれ仕掛けてくる。
「ごめんね、いつも……母が嫌がらせしてきて」
「大丈夫だよ気にしないで」
「ありがとうダオン。私は絶対に貴方を選ぶから。あんな性格の悪い母、必ず痛い目に遭わせるから」
ダオンはとても優しい人だ。
だから私は彼が好き。
母がどれだけ邪魔してきたとしても私はダオンから離れはしない。
――そんなある日の夕暮れ時。
「ダオン! あんたね! あたしの可愛い可愛い娘に手を出してるんじゃないわよ!」
彼と一緒にいたところ母が現れて。
「死ねぇ!!」
刃物を取り出し、彼に襲いかかろうとした。
「母さん、やめてッ!!」
私は咄嗟に両者の間に入る。
迫りくる刃が鈍く光る。
刺される――そう思いはしたけれど、私が一番恐れていることはダオンを失うことなので、それに比べれば自分が刺されるほうがマシだった。
「ミレ!」
母に刺され、意識が遠のいていく。
「なんだ!? 何が起きた!?」
「い、いやあああ! 救急隊呼んで! 早く、早くしてえええええ!」
「うわあああ」
「はあ!? はああ!? なんだこれ、女が刺したのか!?」
「殺人よ! こんなのっ……取り押さえて!」
騒ぎが広がっていることを肌で感じながら――私は意識を暗闇に落とした。
◆
「……レ、ミレ!」
次に気がついた時、目の前にはダオンの顔面があった。
「わた、し……」
「良かった! 意識が戻って!」
徐々に思い出してくる。
あの時何があったのか。
「そっか、私……刺されて、それで……」
「う、うわああああああああ!」
「ダオン!?」
「死んじゃうかと思ったよおおおおおお! ミレええええええええ! 生き延びてくれて、ほんと、本当、に、良かったああああああああ!」
その後私はしばらく入院することとなった。その間ダオンは常に傍にいてくれた。傍にいて、色々お世話もしてくれて、おかげで暮らしていく中で困ることはほとんどなく。無事退院の日を迎えることができた。
「ごめんねダオン、色々、なんというか」
「いいんだ、もう。ただ生きていてくれればそれでいい。それだけでいい」
「迷惑かけてごめんなさい」
「謝らないで! ミレは悪くないんだから!」
「……ありがとね」
こうして私たちは無事結婚することができたのだった。
ちなみに、ダオンを刺そうとして私を刺してしまった母はというと、あの時現場で拘束されたそうだ。で、牢屋送りに。しばらくは劣悪な環境で過ごすことを求められ、やがて、娘を殺したという罪で処刑されたらしい。
◆終わり◆
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一方、本物の聖女を追放してしまった祖国では、妹のミナが聖女の力を発揮できず、大地が枯れ、疫病が蔓延し始めていた。 元婚約者や父が慌ててミレイユを連れ戻そうとするが、時すでに遅し。 「私の主人は、この可愛い狼様(皇帝陛下)だけですので」 これは、すべてを奪われた令嬢が、最強のパートナーを得て幸せになり、自分を捨てた者たちを見返す逆転の物語。
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