異世界恋愛短編集 ~婚約破棄されても前を向いて生きてゆくのです~

四季

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意外なものに負けて婚約破棄されました!? えええー……という感じです。

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「俺もう栗しか見えねえんだ」

 その日は突然やって来た。

「てことで、あんたとの婚約は破棄することにしたから」

 婚約者である彼ヴォヴォラスから関係の終焉を告げられるその時は何の前触れもなく訪れる。

「栗、って……どういうこと?」
「そのまんまの意味だよ」
「ええ……」
「だ! か! ら! 栗!」
「本当に、栗、なの? あの栗? 木から落ちてくる栗?」
「ああそうだ」
「それが婚約破棄の理由なのね……」
「もちろん!」
「それを理由に婚約破棄する必要があるのかしら」
「ある!」
「そうなの?」
「だって! 俺は! 栗ラブだから! 栗しか見えねえ!」

 こうして私は彼に切り捨てられてしまったのだった。


 ◆


 あれから数年、私は、庭に栗の木がたくさん植わっている屋敷で暮らす男性と結婚した。

 はじめてその庭を見た時は驚いた。
 婚約破棄の際に出てきた栗というワードにまたここで出会うなんて思わなかったのだ。

 でも、それでも、私はその人と結婚した。

 なぜなら愛しているから。
 純粋な想いの前では過去の傷など何の意味も持たない。

 あの時私は栗に負けた。
 でも今はそうじゃない。
 むしろ栗など呑み込んでいくくらい勢いで愛されている。

 だから私はもう迷わない。

 愛する人と生きる、たまには栗も収穫する――そうやって生きていく。

 ちなみにヴォヴォラスはというと。
 あの後少しして熱心に育てていた栗の木が枯れてしまったことにショックを受けて自ら死を選んでしまったそうだ。

 栗を愛していきたいなら、なおさら、死んでしまってはいけないはずなのに……。

 なぜ彼は生きることを選べなかったのだろう。

 悲しくても。
 辛くても。
 泣いても。
 深く傷ついたとしても。

 歩み続けていればどこかで救いに出会えたはずなのに。

 ……とはいえ、私が何か言ったところで手遅れだ。

 彼は彼の選んだ道へ進んだ。
 ただそれだけのこと。
 彼が選んだものに他者があれこれ言う権利はない。


◆終わり◆
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