29 / 30
22話「光」
しおりを挟む
なぜだろう、トウロウに物凄く驚いたような顔をされてしまった。
素直にお礼を言ったから? ……いや、その程度のことでここまで驚いたりはしないはず。だとしたら、彼が驚きを露わにしたのは別の理由? けれど、それ以外にあり得そうな理由なんて思いつかない。……でも、もしその理由が、彼にしか分からないようなことであったとしたら?それならば、私が想像できなくともおかしくはない。
「意外です。そんな風に言って下さるなんて」
驚かれているのは、やはりそこだったのか。
それなら理解できないでもない。
「……意外でした?」
私は苦笑しつつそんな風に言葉を発する。
「はい。あーいや、べつに、マコトさんのことを悪く言っているわけじゃないんですけどね」
そう述べるトウロウは、僅かに気を遣っているようにも見えた。もしかしたら、私が怒り出すことを警戒していたのかもしれない。それを想像すると、心なしか申し訳ない気持ちにもなる。気を遣わせてしまって、と。だが、腹が立つものは腹が立つので、仕方ない。いや、もちろん、心が乱れないに越したことはないのだが。
「確かに、これを貰えるとは思っていなかったので、意外さと嬉しさが混じってます」
「良かった。今日は失礼だなんだと怒らないんですねー」
「いつもすぐ怒る人みたいに思われているんですか!?」
「え。あ、いや、べつにそういうわけじゃないです。僕が失礼なことをしてしまうタイプなので、マコトさんをよく怒らせてしまうだけで」
直後、トウロウは私を真っ直ぐに見てきた。見られていることに気づいた私は彼の方へと視線を向ける。結果、互いの視線が絡み合うこととなった。偶然に限りなく近い状態で視線が重なって、私の心臓は大きく跳ねる。
恋人なわけじゃない。
片想いしているわけでもない。
それなのに、なぜか、こうして目が合うたびに心臓がおかしな動きをする。
「マコトさん。一緒に生きて下さい」
トウロウはいきなりそんなことを言った。
決意はしたけれど、こうして改めて言われると心穏やかなままではいられない。
「……いきなり!?」
「そうです。僕を人間にしてくれると言っていましたよね?」
「そ……それはそう、ですけど……」
するとトウロウは顔面をずいと近づけてくる。
「本気じゃなかったんですか?」
フクロウ似の顔面を一メートルも離れていないところまで近づけられると、かなりの迫力で、どうしても怯まずにはいられない。
無論、彼が悪いわけではないのだが。
「贈り物はそれです。僕を人間にして下さい。お願いします」
「は、はい……その……もちろん、です……」
刹那、羽毛に包まれたトウロウの体から白い光が溢れ出した。
私は信じられない思いでその姿を見つめる。だがそれは私だけのことではなかった。付近にいたアカリやマッチャもまた、私と同じように驚愕の色を顔に滲ませていた。
白い光は物凄い強さ。快晴の日に太陽を直視するのと同じくらいの眩しさだ。そちらへ視線を向けているだけで、眼球の表面がヒリヒリする。発光し始めてしばらくはそちらを見つめていたのだが、やがて限界が来て、私はもう目を開けていられなくなった。
私は目を閉じたまま、この謎の現象が過ぎ去るのを待つ。
そして数分後。
恐る恐る目を開けると、目の前に一人の男性がへたり込んでいた。
「え……っと、貴方は?」
男性は見知らぬ人だった。
このような知らない人が、なぜここにいるのだろう。
「僕ですよ! トウロウです!」
焦げ茶のショートヘア、心なしかひねくれた感じがする神経質そうな顔立ち、そんな男性だ。
「え……ええぇぇぇっ!?」
私は思わず叫んでしまった。
トウロウが人間になることは知っていたはずだったのに。
「はぁ。何を騒いでるんですか……」
もしかしたらトウロウは自身の変化に気づいていないのかもしれない。そう思い、私は、彼の肉体が変化していることを伝えることにした。
「トウロウさん! 人間になってますよ!」
私が言った直後はきょとんとしていたトウロウ。しかし、数秒が経過してから、自身の変化に気づいたようで「うわぁぁぁっ!」と驚きながら叫んだ。
「人間……これが人間なんですかっ……!?」
珍しくトウロウは動揺しているようだった。
だがそれも無理はあるまい。生まれて今までずっとフクロウのような容姿だったのに突然人間の姿になったのだから、落ち着いていられる方が不思議なくらいだ。今のトウロウのように驚き慌ててしまう方がありふれた反応とも言える。
「マコトさん! 何か言って下さい! これが人間なんですよねっ……!?」
「はい。そうです」
「何というか……すべてが今までと違うような気がします! いろんな意味で!」
いろんな意味で、とは、どういう意味なのだろう。
どうでもいいことだが少々気になったりもする。
「アンタ……人間になれたんだね……」
アカリが目を開きつつトウロウに歩み寄る。
その足取りは、心なしか恐ろしさを感じているような雰囲気をまとっていた。
「そうみたいです」
その頃にはトウロウは落ち着いてきていた。自分が人間になったと悟った直後のような慌て方はもうしていない。今や彼は冷静だ。
「何度見ても信じられない……けど、やっぱり、アンタなんだね」
アカリは固い表情をしながらそんなことを述べる。
その声は僅かに震えていた。
「僕としても、嘘みたいです」
「だろうねぇ。見ているアタシらでさえ信じられないんだから」
「……もしかして、トウロウじゃないかもしれないって、まだ疑ってます?」
怪訝な顔をする、人間になったトウロウ。
「まさか。それはないよ。いつかも見たからね」
「そうですか。なら良いですけど……」
その時、人間になったトウロウと私の足下がほぼ同時に輝き始めた。
今度は私まで謎の光に包まれる。
「これは……!?」
突然の出来事に困惑していると、少し離れたところにいたアカリが大きめの声で教えてくれる。
「マコト! そりゃ向こうに返される合図だよ!」
「えっ」
「多分、人の世へ戻ることになるよ!」
「ええっ! ……嘘ですよね!?」
「嘘なんかじゃない! 本当のことさ!」
まさか、本当に人の世へと戻らされるの?
素直にお礼を言ったから? ……いや、その程度のことでここまで驚いたりはしないはず。だとしたら、彼が驚きを露わにしたのは別の理由? けれど、それ以外にあり得そうな理由なんて思いつかない。……でも、もしその理由が、彼にしか分からないようなことであったとしたら?それならば、私が想像できなくともおかしくはない。
「意外です。そんな風に言って下さるなんて」
驚かれているのは、やはりそこだったのか。
それなら理解できないでもない。
「……意外でした?」
私は苦笑しつつそんな風に言葉を発する。
「はい。あーいや、べつに、マコトさんのことを悪く言っているわけじゃないんですけどね」
そう述べるトウロウは、僅かに気を遣っているようにも見えた。もしかしたら、私が怒り出すことを警戒していたのかもしれない。それを想像すると、心なしか申し訳ない気持ちにもなる。気を遣わせてしまって、と。だが、腹が立つものは腹が立つので、仕方ない。いや、もちろん、心が乱れないに越したことはないのだが。
「確かに、これを貰えるとは思っていなかったので、意外さと嬉しさが混じってます」
「良かった。今日は失礼だなんだと怒らないんですねー」
「いつもすぐ怒る人みたいに思われているんですか!?」
「え。あ、いや、べつにそういうわけじゃないです。僕が失礼なことをしてしまうタイプなので、マコトさんをよく怒らせてしまうだけで」
直後、トウロウは私を真っ直ぐに見てきた。見られていることに気づいた私は彼の方へと視線を向ける。結果、互いの視線が絡み合うこととなった。偶然に限りなく近い状態で視線が重なって、私の心臓は大きく跳ねる。
恋人なわけじゃない。
片想いしているわけでもない。
それなのに、なぜか、こうして目が合うたびに心臓がおかしな動きをする。
「マコトさん。一緒に生きて下さい」
トウロウはいきなりそんなことを言った。
決意はしたけれど、こうして改めて言われると心穏やかなままではいられない。
「……いきなり!?」
「そうです。僕を人間にしてくれると言っていましたよね?」
「そ……それはそう、ですけど……」
するとトウロウは顔面をずいと近づけてくる。
「本気じゃなかったんですか?」
フクロウ似の顔面を一メートルも離れていないところまで近づけられると、かなりの迫力で、どうしても怯まずにはいられない。
無論、彼が悪いわけではないのだが。
「贈り物はそれです。僕を人間にして下さい。お願いします」
「は、はい……その……もちろん、です……」
刹那、羽毛に包まれたトウロウの体から白い光が溢れ出した。
私は信じられない思いでその姿を見つめる。だがそれは私だけのことではなかった。付近にいたアカリやマッチャもまた、私と同じように驚愕の色を顔に滲ませていた。
白い光は物凄い強さ。快晴の日に太陽を直視するのと同じくらいの眩しさだ。そちらへ視線を向けているだけで、眼球の表面がヒリヒリする。発光し始めてしばらくはそちらを見つめていたのだが、やがて限界が来て、私はもう目を開けていられなくなった。
私は目を閉じたまま、この謎の現象が過ぎ去るのを待つ。
そして数分後。
恐る恐る目を開けると、目の前に一人の男性がへたり込んでいた。
「え……っと、貴方は?」
男性は見知らぬ人だった。
このような知らない人が、なぜここにいるのだろう。
「僕ですよ! トウロウです!」
焦げ茶のショートヘア、心なしかひねくれた感じがする神経質そうな顔立ち、そんな男性だ。
「え……ええぇぇぇっ!?」
私は思わず叫んでしまった。
トウロウが人間になることは知っていたはずだったのに。
「はぁ。何を騒いでるんですか……」
もしかしたらトウロウは自身の変化に気づいていないのかもしれない。そう思い、私は、彼の肉体が変化していることを伝えることにした。
「トウロウさん! 人間になってますよ!」
私が言った直後はきょとんとしていたトウロウ。しかし、数秒が経過してから、自身の変化に気づいたようで「うわぁぁぁっ!」と驚きながら叫んだ。
「人間……これが人間なんですかっ……!?」
珍しくトウロウは動揺しているようだった。
だがそれも無理はあるまい。生まれて今までずっとフクロウのような容姿だったのに突然人間の姿になったのだから、落ち着いていられる方が不思議なくらいだ。今のトウロウのように驚き慌ててしまう方がありふれた反応とも言える。
「マコトさん! 何か言って下さい! これが人間なんですよねっ……!?」
「はい。そうです」
「何というか……すべてが今までと違うような気がします! いろんな意味で!」
いろんな意味で、とは、どういう意味なのだろう。
どうでもいいことだが少々気になったりもする。
「アンタ……人間になれたんだね……」
アカリが目を開きつつトウロウに歩み寄る。
その足取りは、心なしか恐ろしさを感じているような雰囲気をまとっていた。
「そうみたいです」
その頃にはトウロウは落ち着いてきていた。自分が人間になったと悟った直後のような慌て方はもうしていない。今や彼は冷静だ。
「何度見ても信じられない……けど、やっぱり、アンタなんだね」
アカリは固い表情をしながらそんなことを述べる。
その声は僅かに震えていた。
「僕としても、嘘みたいです」
「だろうねぇ。見ているアタシらでさえ信じられないんだから」
「……もしかして、トウロウじゃないかもしれないって、まだ疑ってます?」
怪訝な顔をする、人間になったトウロウ。
「まさか。それはないよ。いつかも見たからね」
「そうですか。なら良いですけど……」
その時、人間になったトウロウと私の足下がほぼ同時に輝き始めた。
今度は私まで謎の光に包まれる。
「これは……!?」
突然の出来事に困惑していると、少し離れたところにいたアカリが大きめの声で教えてくれる。
「マコト! そりゃ向こうに返される合図だよ!」
「えっ」
「多分、人の世へ戻ることになるよ!」
「ええっ! ……嘘ですよね!?」
「嘘なんかじゃない! 本当のことさ!」
まさか、本当に人の世へと戻らされるの?
0
あなたにおすすめの小説
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
急に王妃って言われても…。オジサマが好きなだけだったのに…
satomi
恋愛
オジサマが好きな令嬢、私ミシェル=オートロックスと申します。侯爵家長女です。今回の夜会を逃すと、どこの馬の骨ともわからない男に私の純潔を捧げることに!ならばこの夜会で出会った素敵なオジサマに何としてでも純潔を捧げましょう!…と生まれたのが三つ子。子どもは予定外だったけど、可愛いから良し!
異世界に行った、そのあとで。
神宮寺 あおい
恋愛
新海なつめ三十五歳。
ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。
当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。
おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。
いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。
『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』
そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。
そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?
浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。
「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」
ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。
婚約者を譲れと姉に「お願い」されました。代わりに軍人侯爵との結婚を押し付けられましたが、私は形だけの妻のようです。
ナナカ
恋愛
メリオス伯爵の次女エレナは、幼い頃から姉アルチーナに振り回されてきた。そんな姉に婚約者ロエルを譲れと言われる。さらに自分の代わりに結婚しろとまで言い出した。結婚相手は貴族たちが成り上がりと侮蔑する軍人侯爵。伯爵家との縁組が目的だからか、エレナに入れ替わった結婚も承諾する。
こうして、ほとんど顔を合わせることない別居生活が始まった。冷め切った関係になるかと思われたが、年の離れた侯爵はエレナに丁寧に接してくれるし、意外に優しい人。エレナも数少ない会話の機会が楽しみになっていく。
(本編、番外編、完結しました)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる