薬屋の娘エルフィネは、ただひたすらに店を守りたい。~婚約者に捨てられたとしても守りたいものがあるのです~

四季

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前編

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 齢十九の娘エルフィネは薬屋の娘。
 親が腰痛を酷くしたために一ヶ月ほど前から薬屋の仕事を一手に引き受けることとなった。

「こちら継続ですね」
「はいそうです、ありがとぉ」

 元より大人気の薬屋、働ける者がエルフィネだけになってしまってもなお大繁盛。

「次の方どうぞ」
「実は湿布が切れててねぇ、欲しいんだよ」
「はいでは用意します」
「あ、あと、身体綺麗茶もいいかねぇ」
「はい用意します。何日分で?」
「半年分」
「承知しました、奥にあるので持ってきますね」
「はぁい」

 エルフィネの日常はとんでもなく忙しい。

 ――そんなこともあって。

「エルフィネ、お前との婚約だが、破棄とすることにした」

 ある日のこと。
 婚約者アダンから急にそう告げられてしまう。

「え……」

 想定外の宣言に戸惑うことしかできないエルフィネ。

「お前はいつもいつも仕事ばかり、薬屋のことばかりで俺なんて放置。最低だ。そもそも薬屋というだけでも汚らわしいというのに……そちらにばかり躊躇くして、最低な女だ」
「家庭の事情なのです。今は両親の調子が悪いですが、回復すればもう少し私にも余裕が生まれます。ですからどうかそれまで待って――」
「うるさい!!」
「あ……」
「そういうとこだよ! お前は俺の婚約者だろ? ならいつでも俺を一番として扱えよ。俺以外のものを優先するな!」

 そんなことを言われても、と思ったエルフィネ。

「分かりました。では、婚約破棄、受け入れます」

 彼との縁は諦めることにした。

「あーあー可愛くねーやつ。泣いて謝れば許してやろうと思ったのによ。やっぱお前はどこまでも薬屋の子だよな! 汚らわしいわ! 魂から穢れてやがる、さっさと縁切りた」

 こうして婚約破棄されてしまったエルフィネだが、仕方ないことだと割り切っていたのでそこまで落ち込まなかった。

 それに、彼女にとっては親の居場所でもある薬屋が一番大事だ。

 だからそのためにならアダン一人くらい捨てられたのである。
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