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後編

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「取り敢えずこれがあれば濡れませんし!」
「あの……それは、結構です」
「ええ!?」
「私のことは気にしないでください。それに、失礼ですけど、色々あって今は他者と話したくない気分なんです」

 そう返すと、彼は一瞬戸惑ったような顔をしたけれど。

「駄目ですよ! 風邪をひいたら大変ですから!」

 傘を無理矢理押し付けてきた。

「ほら! 何でもいいから、取り敢えずこれをっ」
「えええ……」
「遠慮とかいいですから! 話さなくてもいいので、取り敢えず傘をさしてくださいっ、濡れないように!」

 彼の圧は凄まじいものだった。

 でもこの時はまだ知らなかった――彼が私の未来に大きな影響を与える人であることなんて。


 ◆


 あれから五年。

 驚いたことに、私は、あの日雨の中で出会った彼と結ばれ、今も彼と夫婦として生きている。

「うわー、今日は雨ですか」
「そうみたいね」

 彼と過ごす日々は楽しい。
 穏やかな幸福がそこにはある。

「やだなぁ……あっ!」
「どうしたの」
「でも! 雨の日って、貴女と出会った日を思い出します!」
「ああ……確かにそうね、あの日も雨の日だった……」
「やったー、少し得した気分ですっ」

 ちなみにボーデンはというと、私と別れた後一人の金髪美女と交際していたそうだ。
 しかし、その中で女性に乗せられて全財産を注ぎ込んで事業を起こし、事業の失敗によって一文無しになってしまったらしい。
 しかも、絶望していた最中、女性から「お疲れ。調子に乗ってる男が堕ちて絶望するところが見れて楽しかったわ」と言われ離れられてしまったそうで。
 それによってボーデンの精神は崩壊、彼は完全に壊れてしまったそうだ。

「これからも雨のたびにあの日を思い出すことにしますねっ」
「それはやり過ぎじゃない?」
「いやいや! 初心って大事ですから! そのくらいしておかないとっ」
「まぁそれはそうかもしれないわね……言われてみれば」


◆終わり◆
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