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後編
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「こんにちは、少し良いですか」
ある朝、王子が部屋へやって来た。
「え……」
「失礼でしたね、申し訳ありません急に」
まさかの展開に驚く。
そして、それと同時に心臓が破裂しそうな感覚に見舞われる。
こんなにも緊張するにはいつ以来だろう……。
「い、いえ」
「お話があるですが」
「あの、えっと……すみません、私、何かやらかしていたでしょうか……?」
胸もとから伝わってくるバクバクという深い音はまだやまない。
「そうではなく」
「違いましたか」
「ええ。実は貴女に重要なお話がありまして」
「まさか、クビ!?」
「落ち着いてください違いますよ」
「は、はい……」
ようやく少しばかり落ち着いてきた、というところで。
「実は先日、婚約破棄されまして」
彼はそう明かした。
え――、と、そう思っても口からは出せない。
「それで、相手を改めて探すこととなったのですが」
「そ、そうなのですか……」
「貴女はどうかと、考えておりまして」
彼の口から出てきたのはまさかの言葉。
「えええええ!!」
耐えきれず、大声を出してしまった。
「すみませんね驚かせてしまって」
「い、いえ……」
声を出してしまったことについて責められることはなかった。
でも、どうしても、まだ信じられない。
嘘をつかれているのでは?
騙して遊ぼうとされているのでは?
なんて考えてしまう。
彼がそんな悪質な男性でないことは知っているはずなのに。
「実は以前から貴女に興味があったのです。いつも真面目に真剣に仕事をしていらっしゃる、その姿に密かに惹かれていました」
「冗談……です、よね……?」
「いえ、本気です」
「嘘でしょう……」
「急に伝えて驚かせてしまったことは謝ります、それは事実ですし。ただ、本当に、これは冗談やら嘘やらではないのです」
こうして私の人生は動き出す。
「共に生きてはくださいませんか」
思わぬ方向へと。
「……はい。えっと……まだ少し頭が追いついていません、が……その方向で考えさせてください」
◆
あれから数年、私は王子の妻となり共に王城にて暮らしている。
彼はいつか王となるだろう。
そうすれば私は王妃になる。
私のような人間に務まるのだろうか……。
しかし彼は「大丈夫、できる」と言ってくれているので、今はその言葉を信じて歩もうと思っている。
愛する人からの大丈夫という言葉、それは何よりも強いものだ。
◆終わり◆
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