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前編

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「愛してます!」

 ある日突然告げられたのは――流行りの婚約破棄ではなく、愛の告白だった。

「え……何ですか、急に……」
「言葉のままの意味です! 伝えたくて!」

 目の前で笑みを浮かべつつはきはき返答してくるのは学園時代皆からプリンスと呼ばれていた今は坊主頭のウィッウィだ。

「あ、愛してます、を……?」
「そうです!」
「でも、ええと……あの、急過ぎて理解できないのですが」
「だとしても! 愛していることに変わりはありません! 事実です!」

 大丈夫かなぁ、この人……。

「それで、それを告げてどうしたいのですか? ウィッウィさん」
「結婚してください!!」

 ――飛び過ぎィッ!!

「ええと……せめて、その一歩前を考えてみてはくださらないでしょうか」
「それなら許されますか!?」
「それと、いちいち大声で言わなくていいですよ」
「承知しました!」

 いやいや、承知してない、それ。

「やはりまだ声が大きいですね」

 すると彼は眉間にしわを寄せて、小動物のような口の形を作って「しょ、しょふぅてぃしまてぃた」と同じことを言った――ただし今度は本当に小さな声だった。

 思えばこの時が初めての会話だったのだ。
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