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前編
しおりを挟む大切に育てていた花。
数年かけて成長させてきたそれがもうじき開くものと思われていた、そんな日。
「お前との婚約なんだけどさぁ」
「はい……?」
「破棄、することにしたから」
「えっ」
婚約者オーボデンに呼び出されて近所の川へ向かった。するとオーボデンは婚約の破棄を告げてきた。それも、さらりと。重大なことを言うのではないかのような雰囲気で。
「本気で言って……いますか?」
「ああそうだ」
「婚約破棄、ですよね……どうして?」
「どうして? 簡単なことだ。わざわざ言うこともないと思っていたが、言った方が良いのなら言う。もっと好きな人ができたから、だ」
オーボデンが言うには、すべてにおいて私よりも素晴らしく好みにぴったりな女性に出会ってしまったそうだ。で、その女性をどうしても離せなくなってしまったので、私とは離れたいということだそう。
まぁ、分からないではないが……。
正直あまり良い気はしない。
でも中途半端に関係を継続され続けるよりかは良いとは思う。
はっきり切り落としてから次へ行ってもらう方がありがたい。
「そうですか……分かりました。では、そういうことですね」
「何も言うなよ?」
「はい」
「絶対に、金とか求めてくるなよ? いいな?」
「……分かりました」
どのみち実る関係でないなら終わってしまう方が潔い。
――その日の晩、ずっと育ててきた花が咲いた。
「さ……咲いてる……!」
何年も咲かなかった。
けれどもいつか花開く日が来ると信じて待っていた。
そしてついにその日が訪れた。
水色の美しい花――あぁここまで育ててきて良かった、と、心から思う。
その日は心地よく眠れた。
花が咲いたからだ。
婚約破棄は切なかったし何とも言えない気分だったけれど、花のおかげで悪い夜にはならなかった。
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