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前編
しおりを挟む婚約破棄されたので海に来てみた。
夏の海は暑いけれど心地よい。
だってここには他にはない晴れやかさがある。
散々悪口を言われたうえ婚約破棄宣言をされた――そんなもやもやする日には、もはやここに来るしかない。
発散、と言うと少々おかしいかもしれないけれど。
でもこういうことも必要だ。
うじうじし続けてしまわないためにも。
――と言っても、夏場この海岸には結構人が集まるので、私が行ったのは夕暮れが近めとなった午後である。
「ああ、やっぱり夏の海はいいなぁ」
思わずそんなことを呟いてしまうほど。
「さて、これからどうしよっか……」
空を見上げて、眩しくて、手で強い太陽光を軽く遮る。
――その時。
「え! もしかして!」
背後から声が聞こえてきた。
振り返るとそこには一人の青年が立っていた。
しかし私服だ。
海で遊ぶためにやって来たような服装ではない。
「ルーナか!?」
さらに想定外の言葉が飛んでくる。
「え……?」
「俺、俺だよ! ルクク!」
「あっ」
「覚えてるか!?」
目の前にいる整った容姿の青年は一気に距離を詰めてくる。
私は戸惑いながらも思い出した――そう、彼は、子どもの頃よく遊んでいた男の子ルククだったのだ。
「ルクク、どうして!?」
ただ、少々謎な部分もある。
ルククは数年前家庭の事情でこの地域から出ていったはず。
「いや、実はさ、先日この町に戻ってきたんだ」
「そうだったの!?」
「うん、やっと帰ってこられたんだ」
「そ、そう……」
「ルーナは元気にしてたか?」
「ええ……」
嬉しい、とても。
彼のことなんて忘れていた。
でもこうしてまた会えたらとても嬉しいと純粋に思った。
想定外の幸運が降ってきた。
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