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かつて、婚約者から酷い言葉をいくつも投げつけられたうえ婚約破棄された私は、一度絶望の海に沈んだ。
しおりを挟むかつて、婚約者から酷い言葉をいくつも投げつけられたうえ婚約破棄された私は、一度絶望の海に沈んだ。
その頃は本当に何もできなかった。身体は動かず、息をすることすらきつく、食事をとることすら苦痛で。身体に何かが起きたわけではなく、にもかかわらずまるでそうであるかのような状態となって。肉体が活動を停止しかけてしまっているかのようであった。
けれど、そんな時に、今の夫に出会って。
彼は献身的に私を支えてくれた――そうして絆が生まれ、結婚するにまで至った。
「モモモの世話終わった?」
「ええ! さっき終わったわ。毛が伸びてる子がいたから少し刈っておいたわよ」
「ほんと!? ありがとう、助かった!!」
そして今、私たち夫婦は、田舎で家畜化されたモンスターのお世話をして生きている。
毛がどんどん伸びる四足歩行のモモモや腹から出す汁の美味しさに定評のあるムムムなどを飼育している。
「そういえば、ムムムから採れたやつってどうなったんだったかしら」
「売ってきたよ」
「え! はやっ」
「よく売れたよ。前買ってくれた人がまた買ってくれてさ~」
「本当! 良かった、気に入ってくれたのね」
ちなみに、かつて私を酷い切り捨て方で切り捨てた彼は、その後王家を過剰に批判する組織に加入して問題行動を繰り返すようになった果てに――拘束され、処刑された。
「うん、美味しかったーって言ってくれてさ」
「なら良かったわ」
「ありがとうございますって何度も言っておいたよ」
「そうね。でも実際……ムムムの汁は美味しいのよね、採れたてなんて最高」
「この良さをもっと多くの人に知ってもらいたいな」
私はもう、絶望の海には沈まない。
今在るものを大切にしながら歩んでゆく、ただそれだけだ。
◆終わり◆
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