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2話

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「僕からヴィーダーンに言ってみようか?」
「いえ、それは……ややこしいことになってしまいそうなので、やめてください」
「でも! 誰かが言わないと、いつまでもあんなことが続くよ!」
「……ですが」
「大丈夫、もし何かあったら僕が君に手を貸すよ」

 カイールの存在、それは、絶望の中に降り注いだ一筋の希望の光。

「本当、ですか……?」
「もちろん!」
「……ありがとうございます、カイールさん」

 その後カイールはヴィーダーンに意見を述べてくれた。

 しかしそれによってヴィーダーンは激怒。
 他人を巻き込むなんて悪女だな、などと言われ、さらにあれこれ暴言を並べられてしまった。

 ――だがそれによって婚約破棄宣言をしてもらうことに成功した。

「お前みたいなやつ、どーせ誰にも愛されねーんだよ。一人になって思い知れ! お前には俺しかいなかったってことを知ればいいんだ。で、一生後悔しやがれ!」

 彼は別れしなそんなことを吐き捨てていた。
 でも私には負け惜しみといった類としか思えなかった。

 誰にも愛されない? よくそんなことが言えたものだ。ヴィーダーンだって私をずっといじめていたくせに。自分は私を大事にしていた、そう思っているのか? だとしたらあまりにもおかしな話。

 それに、そもそも、いじめてくるばかりの婚約者なんていない方がいいに決まっているではないか。

 たとえ一人でも。
 それによって変わり者と思われても。

 傷つけられて生きてゆくよりはずっと幸せだろう。

「おかげで解放されました。カイールさん、ありがとうございました」
「いえいえ」
「本当に……勇気を出して良かったです」
「力になれたなら光栄だよ」
「お礼を言うべきこちらです。貴方に声をかけていただいていなかったとしたら、私は、多分今もあのままでした」

 婚約破棄後、私は、カイールのところへ行ってお礼を述べた。
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