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前編
しおりを挟む「あたしたち愛し合ってるの」
「だからお前との婚約は破棄とする」
我が婚約者アストリオと私の昔からの友人である女性ルルーナ――二人が腕を絡めるようにして並んで実に仲良さげに現れたのは、ある秋の日だった。
「え……」
思わずこぼれる情けない声。
まともなことなんて何も考えられず、もちろん言葉も紡げずで、ただただ硬直する外ない。
「あたし、アストリオ様を誰よりも愛しているの」
「俺はルルーナを愛している。この愛は真実の愛、海よりも深い」
硬直することしかできない私を放置して二人は話を進めていってしまう。
ちょっと待ってよ! と言うことすらままならない。
「だからさ、ごめんね? でも奪ったとか思わないでよね」
「俺が彼女を愛してしまったんだ、だから彼女に非はない。それゆえ、虐めるようなことだけはしないでくれ。金ならちょっとくらい出してもいいから」
何を言っているのだろう。
二人して。
私を置いてけぼりにして……。
「ああん優しいアストリオ様ぁ」
「いやいや、優しいのはお前だろ? ルルーナ、愛してる」
こうして私はアストリオに捨てられてしまったのだった。
◆
婚約破棄から数日が経ったある日のこと、私は、風船が木に引っかかって困っている男性を助けた――木の幹に絡まってしまった風船を取り、彼の手に返したのである。
するととんでもなく感謝され、大量の高級食材を貰ってしまった。
さらに。
「また会いに来ても良いですか!? 次はもっと良いお礼を!!」
「いえいいんですよこのくらい。たいしたことじゃないですから。お礼なんて……もういただきましたし、十分です」
「いやいや! 駄目です! まだまだ少なすぎる!」
「えええ……」
「なので、後日また伺います!」
気づけば次の約束まで取り付けられてしまっていた。
でもこの時はまだ私は知らなかった――まさかその彼が一国の王子だったなんて。
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