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2話

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 だが婚約者生活もスムーズには進まない。

 カルペンの妹リリエンナが非常に厄介な存在だったのだ。

 リリエンナは兄であるカルペンのことがとにかく大好き。愛しの兄に婚約者ができたと聞いて、鬼のような顔になって怒っていた。また、彼女はその怒りを隠そうとはせず。遠慮なく私に攻撃を仕掛けてきたのだ。

 彼女の私への嫌がらせには凄まじいものがあった。

 最初は小さな嫌がらせだった。すれ違いざまに嫌みを言ってきたり、持参物の本に落書きをしたり。子どもがするイタズラ、というような内容が主であった。

 しかし段々エスカレートしてくる。

 リリエンナは私の事実でない悪口を積極的に口にするようになった。カルペン、両親、それに知人や友人。彼女は、誰に対しても、平然と作り話を口にする。その話を信じた人たちから、私は、冷ややかな視線を向けられるようになってしまった。

 また、酷い時には、悪行を押し付けられたりもする。
 リリエンナがうっかりカルペンの私物を壊してしまった時などは、私が犯人なことにされてしまった。

「他人の大切なものを壊して否定するなんて最低!」

 大事にしていたものが壊れたことにショックを受けたカルペンからは、心ないことを言われた。

「ベリルさん、あなた、うちの息子のお嫁さんになるのにそれじゃあ……駄目よ? しっかりしてちょうだい。他人の大切なものに手を出す女性なんて、お嫁さんとして最悪よ?」
「リリエンナが証言しているのだ、諦めろ。罪は潔く認めてくれ」

 カルペンの母親と父親からも失礼なことを言われてしまった。

 私は真実を伝えようと努力したのだけれど、分かってもらえるはずもなく。リリエンナの罪はいつの間にか私の罪に変わっていた。悔しかったけれど、黙って叱られるしかなかった。

 それからもリリエンナの嫌がらせは続いて……。

 さすがに耐えられない、と、心の中の何かが壊れた夜。

 私はカルペンの家を飛び出した。

 あそこにいたら、何もしていないのに叱られるばかり。悪者にされるばかり。誰も真実を見ようとはしてくれない。たとえ私が説明したとしても、すべて無意味だ。

 もういっそ誰もいないところへ行きたい。
 誰にも会わないところへ行って、たとえ寂しくても、静かに暮らしたい。

 そう考えて、私は森へと駆け出した。
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