マリエ・ルルーナはめげない! 〜想いの終わりと始まり〜

四季

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八話「傑作……なの?」

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 目の前に立つ、人の形をしたジェネ。
 美しくもどこか儚げな青年。

 私は胸の高鳴りを押さえ込みつつ、彼の姿を眺める。

「本当に……貴方は蛇になれるのね」
「そうだよ」
「じゃあ、カイの結婚相手に絡んでいったのは、本当に貴方なのね」

 ジェネはそれまでとは違って少し間を空けたが、やがて静かに頷いて「そうだよ」と述べた。

「この前の話だと、君があまりに気の毒だったからね」

 私がカイに理不尽な婚約取り消しをされた話をした時、ジェネは、あまり関心がないような態度をとっていた。だから私は、どうでもいいと思われているのだと考えていた。だが、案外そんなことはなかったようだ。ジェネは、一緒になって悪口を言うようなことはなかったが、同情してくれてはいたようである。

「あ!」

 その時ふと、今朝聞いた噂話を思い出す。

「じゃあジェネが足を怪我したのって、石に当たったせい!?」

 ミジーズ村のいつも噂話をしている女性たちが、今朝話していたこと。それを思い出したのだ。
 蛇は、観客の一人が投げた石に当たり逃げていったと、噂好きな彼女たちは話していた。

「……どうしてそれを?」

 怪訝な顔をするジェネ。

「今朝聞いたの。村の噂好きな人たちが、そんなことを話しているところをね」

 するとジェネは「噂は早いね」とさりげなく苦笑した。

「それでマリエがそのことを知っていたんだね」
「えぇ、そうなの。でも……申し訳ないわ。私のせいで貴方を怪我させてしまって」

 私のために行動したことで、彼は怪我をした。

 そう思うと、胸が苦しくなってしまう。

 彼は何も悪くないのに。気の毒な状況の私に同情して、そのために少し行動してくれただけなのに。それなのに傷を負ったのが彼だなんて、そんなのはおかしい。

「いや、君は何も気にしなくていいよ。僕が気まぐれでやっただけだし」

 ジェネは白銀の髪を片手で整えながら言った。
 だが私には、気にしないなんてことはできなくて。

「気にしないわけにはいかないわ! 私が原因だもの!」
「いや、いいって」
「私があんなことを話したから……!」
「いや、いいんだって」
「けど……」

 言い返しかけた——その時。

 ジェネは両手を私の肩に乗せた。

「いいんだよ、マリエ」

 彼の燃えるような瞳から放たれる視線は、いつになく鋭かった。真剣を通り越し、痛みさえ感じさせるような視線だ。

「僕がいいって言っているんだから、君が勝手に罪悪感を抱くことはない。そんなのは無意味なことだよ」

 ジェネはきっぱり言い放ち、身をくるりと返す。私から数歩離れ、彼は話題を変えてくる。

「そういうことだから。で、今度はこっちから質問なんだけど」
「質問?」
「どうしてまた飛び降りたのかな」

 そういえばそうだった。
 またしても助けてもらったのだから、転落した理由を言わねばなるまい。

 今日は飛び降りる気はなかったが、風に煽られ崖から落ちたのだ。

 ……少し恥ずかしい。

「えっと……飛び降りる気はなかったのよ」
「そうなのかい?」
「カイのことを貴方に伝えたくて、崖を訪ねたの。そうしたら、風が吹いて、バランスを崩してしまったのよ」

 するとジェネは、ぷっ、と吹き出す。

 本当の理由を明かせば、笑われてしまうことは分かっていた。それでも本当のことを話したのは、二度も命を助けてくれた彼に嘘をつく気にはなれなかったからだ。

「そんなことだったのかい」
「えぇ」
「面白いね、君。なかなか気に入ったよ」

 ジェネは珍しく笑っていた。
 それも、とても楽しそうに。

「あの崖から飛び降りる人はまぁいなくはないけど、『風に煽られて』なんていう理由は初めてだよ! 傑作!」

 馬鹿にされているのかもしれない、と多少は思いもするが、笑っている彼を見ていたら「少しくらい馬鹿にされてもいいか」という気分になった。

「そんなに面白かったかしら」
「面白いよ! 傑作!」

 ツボに入っているようだ。

 彼はそれからも、しばらく笑い続けた。

 ケラケラと笑う彼からは、日頃まとっているガラス細工のような繊細な雰囲気は消えていて。逆に、子どものような純真さが、全面に溢れ出ている。

 今のジェネには、『美しい』というより『可愛らしい』といった表現の方が、しっくりくる。

「まぁでも、何度も飛び降りるのは危険だよね。だから、次からは崖で僕の名を呼ぶだけでいいよ。そうしたら、君をここへ案内するから」

 ジェネの発言は、私の心を温かくする。なぜなら、また来てもいいという意味をはらんだ言葉だと感じさせてくれるから。

「またお話しに来てもいいかしら」

 私が問うと。

「いいよ。僕はどうせここにいるし、基本的に退屈だからね」

 そう言って、ジェネは微笑むのだった。
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