マリエ・ルルーナはめげない! 〜想いの終わりと始まり〜

四季

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九話「歩み寄る心」

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 それから、私は、時折ジェネに会うようになった。

 生活や他の用事も皆無ではないため、毎日会いにいくことはできない。だが、時間がある時や気が向いた時には、あの崖へ行った。

 そしてそこで彼の名を呼ぶのだ。

 すると、十秒ほど後には、必ずと言っていいほどあの場所にいる。そう、崖から落ちた時に気づいたら行っていた、自然に満ちたあの場所に。

 最初の頃は特に何も持たずに会いに行っていた。しかし、段々話題が不足してきたため、いつかからは物を持っていくようになった。

 持っていく物は、私が昔から好きだった魔法関連の本であったり、姉が作ってくれたお菓子であったり、特に統一感はなくて。けれど、そういった物を持っていくことによって、ジェネとの会話が軽やかになった。

 彼はそれほど人間の世に詳しくない。
 しかし、興味がないというわけではないらしく、私が持参した物には、大概興味を示してくれていた。


 ある日は、クッキーを持って、彼に会いに行った。

「見て! 今日はクッキーを持ってきたの!」

 私の姉は料理が得意。大体いつも家族の食事を作ってくれているのも、彼女だ。そして、姉が得意なのは食事を作ることだけではない。彼女はお菓子を作ることも凄く得意なのである。

「甘い食べ物かい?」
「そうよ」
「またお姉さんが作ってくれたのかな?」
「そうなの。食べてみて」

 前は姉が作ったカップケーキを持っていった。その時ジェネは、そのカップケーキを、とても気に入っていた。だから、クッキーもきっと気に入ってくれるはず。そう思いながら、紙袋に入れてきたクッキーを見せる。

「へぇ。いろんな形があるんだね」
「美味しそうでしょ?」
「うん、このよく分からない形のやつなんていいね」

 ジェネが即座に気に入ったのは、特に何の形でもないクッキー。
 歪んだ楕円のような形の物。

「ファヌシーベリーの汁をつけても美味しく食べられそうだね」
「それ! いいかもしれないわね!」


 ある雨の日。

「ごめんなさい、ジェネ。今日は雨が降っていたから、良い物を持ってこられなかったわ」
「いいよ。べつに、何かがないと話せないわけじゃないしね」

 雨降りはあまり好きでない。雲に覆われた、昼間でも薄暗い空を見上げていたら、どうも気が滅入ってしまうから。

 けれど、ジェネといる間は、そんなことは忘れてしまえる。
 彼と過ごしている時は、雨も晴れも関係なく、今を楽しいと思えるのだ。

「じゃあ……今日は何の話をしようか?」

 綺麗なコートを身にまとっているにもかかわらず、ジェネは平気で岩場に座る。腰の辺りが汚れることなど、ちっとも気にならないようだ。

 普通なら、綺麗な服装をしている時ほど、地面には座りたくないと思うはずなのだが。

 種族が違えば感覚も違うのかもしれない。

「ジェネのことを聞きたいわ」
「僕のこと? そんなのを聞いて、どうするんだい」
「貴方をもっと知りたい。それだけの理由じゃ駄目かしら」
「……駄目ではないけど」

 人の心とは不思議で。
 いつも二人で過ごしていると、段々、相手を深く知りたいと思うようになってくるものだ。

「じゃあ質問! ジェネは恋をしたことがある?」
「え。何それ」
「意味なんてないけど……単純に気になったの」

 まぁ、答えてはくれないだろうな。
 私は諦めていた。

 だって、自分の恋の話を簡単に話してくれる人なんて、いるわけがないから。

 ——だが。

「……あるよ」

 ジェネは意外とあっさり答えた。

「あるの!?」
「うん」

 彼は恥ずかしげもなく発する。

 ただ、その表情は、どことなく寂しげに見えた。

「そうだったの!? 意外!!」
「……ただの片思いだけど、ね」

 恋なんて人間的なことには興味がないのだろうと思っていた。
 それだけに、ジェネの口から放たれた答えは衝撃的だった。

 それも片思いだなんて、とても信じられない。

 ジェネの正体は蛇だが、人間の姿になれる。それも、こうしてすぐ近くでじっくり見ていてもおかしいとは思わないくらい、完璧な人間の姿になれるのだ。

 しかも、そこらの青年より、ずっと整った容姿。
 普通の人間とだって、いい勝負ができることだろう。

 それなのに片思いだなんて——理解できない。

「片思いなの?」
「うん。片思いだったよ」

 少し空けて、彼は自ら話し出す。

「当時も僕はここにいたんだけどね。その女性ひとと出会ったのも、彼女が崖から飛び降りたからだったんだ」
「私との出会いと一緒ね」

 その言うと、彼は静かに頷いた。
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