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episode.22 お世話になります
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デスタンに引っ付いていた女性の視線が、私たちの方へと向く。
リゴールへ視線を向けた時、彼女は、少し驚いた顔をしていた。
一方、私へ視線を向けた時は、渋い物を食べてしまったかのような表情を浮かべていた。
反応に差がありすぎるような気がしてならない。
「問題ありませんか?」
デスタンは柔らかな笑みを浮かべながら、落ち着きのある調子で問う。
すると女性は、甘ったるい声で返す。
「あーらデスタン。女の子が見えるけどぉ?」
もしかしたら、デスタンが女を連れてきたことに腹を立てているのかもしれない。
彼女の声を聞いていたら、ふとそんなことが頭をよぎった。
「はい。一人は女です」
「えぇー? どういう関係なのかしらぁ?」
女性は、厚みのある唇を尖らせながら、デスタンに向かって問いを放つ。
「大切な方の大切な人なのです」
デスタンはさらりと答えた。
「大切な人の、大切な人……ですってぇ?」
「はい。そうです」
「そう……恋愛関係ではないと言うのねぇ」
女性はデスタンへ、じっとりとした視線を送る。しかしデスタンはまったく動じない。
「そんなこと、あるわけがないでしょう。私が愛しく思っているのは貴女一人です」
デスタンの芝居がかった発言に、女性は、ふっくらした頬を赤く染める。
「まぁそこまで言ってくれるなら……いいわ!」
そう言って、女性は私たちの方へと駆けてきた。
「いらっしゃーい!」
女性は、ふっくらした頬を持ち上げて、愛らしく笑う。
「アタシの名前はミセよ! 貴方たち、お名前は?」
両手を大きく広げながら、波打った柔らかそうな赤毛を揺らす彼女を見ていると、「案外悪い人ではないのかも」なんて思えてきた。
「……リゴールと申します」
ミセの華やかな雰囲気に圧倒されている様子のリゴールは、控えめに名乗った。
すると、ミセは突然リゴールを抱き締める。
「そう! よろしく頼むわね!」
「なっ……いきなり何を……」
リゴールは狼狽えている。
「可愛い少年っていうのも好きよー!」
ミセは遠慮などという概念を持たない女性だった。リゴールが狼狽えていることなどまったく気にせず、母親が幼い息子を抱き締めるかのようにがっつりと抱き締めている。
「や、止めて下さい!」
「えぇー? いいじゃなーい、このくらい」
「不躾ですよ! いきなりこんなことをして!」
らしくなく少々攻撃的な言葉を放つリゴール。
「いきなりこのような行為、不快です!」
リゴールがそこまで言うと、ミセはようやく抱き締めることを止めた。
威嚇するように睨むリゴールに対し、彼女は、笑いながら「そんなに怒らないでちょうだいよー」などと言っていた。
「えーと、それでー……」
それからミセは、私の方へと視線を向けてくる。
「貴女、お名前は?」
「……え」
「名前よ、名前!」
やはり私には厳しい。
デスタンはもちろん、リゴールにも優しく接していた。だから、実はそちらが本性なのかもしれないと思いもしたのだが、そんなことはなさそうだ。
「あ、はい。エアリ・フィールドといいます」
するとミセは。
「そ。ま、安心していいわ。泊めてはあげるから」
上から目線の言葉選び。直前までとはまったく異なる声色。そして、暗に「私の方が偉いのよ」と主張しているような目つき。
「ありがとうございます」
「デスタンの頼みだから泊めてあげるだけよ!」
「それでもありがたいです。感謝します」
ひとまず下手に出ておいた。
ミセを怒らせてしまったりしたら、どうなるか分からないからである。
それに、今は泊めてもらえるだけでありがたい。
村から出てきてしまった以上、これまでのように振る舞っている余裕はない——自分の心にそう言い聞かせた。
デスタンが頼んでくれたおかげで、私とリゴールに部屋が与えられた。
……と言っても、私とリゴール、二人で一つの部屋だが。
「なんと! こんな素晴らしい部屋を使わせていただけるのですか!」
デスタンに案内してもらい、私たち用の部屋に入るや否や、リゴールが感嘆の声を漏らした。その瞳は輝いている。
「貴方のおかげです、デスタン! 本当にありがとうございます!」
「いえ。私は何も、たいしたことはしていません」
「しかしデスタン! この部屋はかなり立派です!」
リゴールは興奮気味だ。
「ベッドもありますし、テーブルもランプも! こんなのは、ホワイトスターにいた頃以来です!」
謎のステップを踏むリゴールの姿は、珍妙としか言い様がない。
ただ、立派な部屋であることは確かだ。
二人で過ごすとなると若干狭く感じる可能性もある——が、決して狭い部屋ではない。それに、床にはワインカラーの絨毯が敷いてある。見ても華やかだし、歩くたびふかふかという音が聞こえてきそうだ。歩く時に足の裏に伝わる感触が、木の板の床とはまったく違う。
「素敵ですよね! エアリ!」
黙って周囲を見渡していたところ、リゴールに急に話しかけられた。
「え……えぇ、そうね。ゆっくり生活できそうなところだわ」
話しかけられたのが急だったせいで、ぎこちない話し方になってしまった。
それに違和感を抱いたのか、リゴールは首を傾げる。
「どうしました? エアリ。あまり元気がなさそうですが……」
「え、あ……そうかしら。そんなことないわよ」
ただ、ぎこちない話し方になってしまっただけだ。
「本当ですか……?」
私を見つめるリゴールの瞳は、まだ不安げに揺れていた。
「えぇ、本当よ」
「……なら良いのですが」
「気にかけてくれてありがとう、リゴール」
その時、少し離れた位置に立っていたデスタンが口を挟んできた。
「王子を心配させないで下さいよ」
冷たい言葉を投げかけられ、「何よその言い方!」と返したい衝動に駆られる。
だが、彼のおかげでこの部屋を借りることができたということがあるから、あまり攻撃的には返せない。
「分かったわよ。心配させないよう気をつけるわ」
「あまり心配させるようなら、消しますから」
「しつこいわね!」
「……念のため言っておいただけです」
数秒空けて、デスタンは続ける。
「それでは、どうぞ、ゆっくりお休みになって下さい」
自分は休めないけれど、という言葉が後ろにくっついていそうな言い方だった。
「え。貴方は?」
「私はあの女の機嫌取りです」
ちょ、言い方。
「機嫌取りって……その表現はまずくない?」
「まずくなどありません、事実ですから」
「いや、だとしてももう少しましな言い方が……」
デスタンは最後まで聞かず返してくる。
「慕っているわけではなく、愛しているわけでもなく、しかしそれらしいことを言う。機嫌取りとしか言い様がないと思うのですが」
堂々と言うことだろうか、それは。
リゴールへ視線を向けた時、彼女は、少し驚いた顔をしていた。
一方、私へ視線を向けた時は、渋い物を食べてしまったかのような表情を浮かべていた。
反応に差がありすぎるような気がしてならない。
「問題ありませんか?」
デスタンは柔らかな笑みを浮かべながら、落ち着きのある調子で問う。
すると女性は、甘ったるい声で返す。
「あーらデスタン。女の子が見えるけどぉ?」
もしかしたら、デスタンが女を連れてきたことに腹を立てているのかもしれない。
彼女の声を聞いていたら、ふとそんなことが頭をよぎった。
「はい。一人は女です」
「えぇー? どういう関係なのかしらぁ?」
女性は、厚みのある唇を尖らせながら、デスタンに向かって問いを放つ。
「大切な方の大切な人なのです」
デスタンはさらりと答えた。
「大切な人の、大切な人……ですってぇ?」
「はい。そうです」
「そう……恋愛関係ではないと言うのねぇ」
女性はデスタンへ、じっとりとした視線を送る。しかしデスタンはまったく動じない。
「そんなこと、あるわけがないでしょう。私が愛しく思っているのは貴女一人です」
デスタンの芝居がかった発言に、女性は、ふっくらした頬を赤く染める。
「まぁそこまで言ってくれるなら……いいわ!」
そう言って、女性は私たちの方へと駆けてきた。
「いらっしゃーい!」
女性は、ふっくらした頬を持ち上げて、愛らしく笑う。
「アタシの名前はミセよ! 貴方たち、お名前は?」
両手を大きく広げながら、波打った柔らかそうな赤毛を揺らす彼女を見ていると、「案外悪い人ではないのかも」なんて思えてきた。
「……リゴールと申します」
ミセの華やかな雰囲気に圧倒されている様子のリゴールは、控えめに名乗った。
すると、ミセは突然リゴールを抱き締める。
「そう! よろしく頼むわね!」
「なっ……いきなり何を……」
リゴールは狼狽えている。
「可愛い少年っていうのも好きよー!」
ミセは遠慮などという概念を持たない女性だった。リゴールが狼狽えていることなどまったく気にせず、母親が幼い息子を抱き締めるかのようにがっつりと抱き締めている。
「や、止めて下さい!」
「えぇー? いいじゃなーい、このくらい」
「不躾ですよ! いきなりこんなことをして!」
らしくなく少々攻撃的な言葉を放つリゴール。
「いきなりこのような行為、不快です!」
リゴールがそこまで言うと、ミセはようやく抱き締めることを止めた。
威嚇するように睨むリゴールに対し、彼女は、笑いながら「そんなに怒らないでちょうだいよー」などと言っていた。
「えーと、それでー……」
それからミセは、私の方へと視線を向けてくる。
「貴女、お名前は?」
「……え」
「名前よ、名前!」
やはり私には厳しい。
デスタンはもちろん、リゴールにも優しく接していた。だから、実はそちらが本性なのかもしれないと思いもしたのだが、そんなことはなさそうだ。
「あ、はい。エアリ・フィールドといいます」
するとミセは。
「そ。ま、安心していいわ。泊めてはあげるから」
上から目線の言葉選び。直前までとはまったく異なる声色。そして、暗に「私の方が偉いのよ」と主張しているような目つき。
「ありがとうございます」
「デスタンの頼みだから泊めてあげるだけよ!」
「それでもありがたいです。感謝します」
ひとまず下手に出ておいた。
ミセを怒らせてしまったりしたら、どうなるか分からないからである。
それに、今は泊めてもらえるだけでありがたい。
村から出てきてしまった以上、これまでのように振る舞っている余裕はない——自分の心にそう言い聞かせた。
デスタンが頼んでくれたおかげで、私とリゴールに部屋が与えられた。
……と言っても、私とリゴール、二人で一つの部屋だが。
「なんと! こんな素晴らしい部屋を使わせていただけるのですか!」
デスタンに案内してもらい、私たち用の部屋に入るや否や、リゴールが感嘆の声を漏らした。その瞳は輝いている。
「貴方のおかげです、デスタン! 本当にありがとうございます!」
「いえ。私は何も、たいしたことはしていません」
「しかしデスタン! この部屋はかなり立派です!」
リゴールは興奮気味だ。
「ベッドもありますし、テーブルもランプも! こんなのは、ホワイトスターにいた頃以来です!」
謎のステップを踏むリゴールの姿は、珍妙としか言い様がない。
ただ、立派な部屋であることは確かだ。
二人で過ごすとなると若干狭く感じる可能性もある——が、決して狭い部屋ではない。それに、床にはワインカラーの絨毯が敷いてある。見ても華やかだし、歩くたびふかふかという音が聞こえてきそうだ。歩く時に足の裏に伝わる感触が、木の板の床とはまったく違う。
「素敵ですよね! エアリ!」
黙って周囲を見渡していたところ、リゴールに急に話しかけられた。
「え……えぇ、そうね。ゆっくり生活できそうなところだわ」
話しかけられたのが急だったせいで、ぎこちない話し方になってしまった。
それに違和感を抱いたのか、リゴールは首を傾げる。
「どうしました? エアリ。あまり元気がなさそうですが……」
「え、あ……そうかしら。そんなことないわよ」
ただ、ぎこちない話し方になってしまっただけだ。
「本当ですか……?」
私を見つめるリゴールの瞳は、まだ不安げに揺れていた。
「えぇ、本当よ」
「……なら良いのですが」
「気にかけてくれてありがとう、リゴール」
その時、少し離れた位置に立っていたデスタンが口を挟んできた。
「王子を心配させないで下さいよ」
冷たい言葉を投げかけられ、「何よその言い方!」と返したい衝動に駆られる。
だが、彼のおかげでこの部屋を借りることができたということがあるから、あまり攻撃的には返せない。
「分かったわよ。心配させないよう気をつけるわ」
「あまり心配させるようなら、消しますから」
「しつこいわね!」
「……念のため言っておいただけです」
数秒空けて、デスタンは続ける。
「それでは、どうぞ、ゆっくりお休みになって下さい」
自分は休めないけれど、という言葉が後ろにくっついていそうな言い方だった。
「え。貴方は?」
「私はあの女の機嫌取りです」
ちょ、言い方。
「機嫌取りって……その表現はまずくない?」
「まずくなどありません、事実ですから」
「いや、だとしてももう少しましな言い方が……」
デスタンは最後まで聞かず返してくる。
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