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episode.57 なぜ
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デスタンはあれよあれよという間に、グラネイトを地面へねじ伏せてしまった。
私とて、デスタンの戦闘能力が高いことは知っている。が、グラネイトもそこまで弱いことはないはず。それだけに、この結果は予想外だった。
「く……このグラネイト様をねじ伏せるとは……」
首を掴まれ、さらに体を地面へ押し付けられたグラネイトは、歯軋りしながらそんなことを漏らす。そんな彼を、デスタンは冷ややかに見下ろしている。
「本調子でないことは分かっている。が、だからこそ、今ここで消させてもらう」
ゴミを見るような視線をグラネイトへ向けながら、デスタンは静かに放った。
「ふ、ふはは……。本調子でないとバレていたとは、な……」
あからさまに不利な体勢であるにもかかわらず、グラネイトにはまだ笑う余裕があるらしい。
「だが」
何かがおかしい——そう思った、刹那。
「この時を待っていた!」
グラネイトが、それまでだらりと地面に伸ばしていた片腕を動かし、自身の首を掴んでいるデスタンの腕を乱暴に掴んだ。
直後。
デスタンの腕を掴んだグラネイトの手から、爆発が起こった。
「……っ!」
突然の爆発にデスタンが驚いている内に、グラネイトは体を起こす。デスタンによる拘束から、一瞬にして逃れた。
弱い爆発だったらしく腕が吹き飛ぶようなことにはなっていなかったものの、手を離してしまったデスタン。彼は、悔しげに眉を寄せていた。グラネイトを逃してしまったことを悔やんでいるのかもしれない。
その時、リゴールがデスタンに駆け寄った。
「大丈夫なのですか!?」
「はい。ですから、王子は下がっていて下さい」
リゴールは真剣にデスタンの身を案じているようなのだが、その心配はデスタンには届いていないようである。
「……そうですね。今のわたくしは足手まといでしかありませんものね」
「はい。下がっていて下さい」
いやいや、そのタイミングで「はい」はないでしょ。仮にそれが本心だとしても、少しは気を遣って、「そんなことはない」くらい言ってあげればいいじゃない。
私は密かにそんなことを思った。
だが、少し考えていると、「下がるよう言ったのは彼なりの優しさなのかもしれない」とも思えるような気がしてきた。冷ややかに思える発言だが、それがリゴールを危険に晒さないためのものであるならば、一概に悪であるとは言えない。むしろそれは、彼なりの善であると言えるかもしれない。
「ふはは! びっくりしたか!」
グラネイトは妙なハイテンション。
対するデスタンは、凄く渋い物を間違って食べてしまったような顔。
「……くだらない真似を」
「そうだ! くだらない! だが無意味ではないのだ!」
グラネイトは大声を発しながら、長い両腕を伸ばし開く。
「ではそろそろ! 本気で! 倒しにかかるとしよう!」
彼の胸の前辺りに、球体——橙色の光が小規模に渦巻いているような物体が、いくつも現れる。それは、気味の悪いぼんやりした光を放ちながら、徐々に大きくなってゆく。
その様を目にしたデスタンは、すぐさま視線を私へ向けてきた。
「王子を頼みます!」
「え」
「連れて逃げろと言っているのです!」
いきなり言われ、戸惑い。
すぐには反応できず。
そんな私の振る舞いがデスタンに苛立ちを募らせてしまっていると分かっていても、それでも、速やかに返事することはできなくて。
「けど、デスタンさ——」
「早く!!」
叫ぶデスタン。
グラネイトの胸の前に浮かぶ球体は、個々の大きさが大きくなり、しかも数も増えてきていた。
あれらが降り注いだ日には、負傷することは免れられないだろう。
だから私は頷いた。
「……分かったわ」
すると、険しかったデスタンの表情が、微かに柔らかくなった。
「王子は頼みます!」
剣を握っていない方の手で、リゴールの片手首を掴む。
「エアリ!?」
「逃げるわよ」
「デスタンを置いて逃げると言うのですか? できません!」
リゴールは抗おうとするけれど、今だけは、はっきり言わせてもらう。
「優先すべきは貴方の命よ」
だがそれでもリゴールは頷かなかった。
「嫌です!」
そう言い首を横に振るリゴールを見ていたら、何をしても説得できる気がしなくて。だから私は、強制的に連れて逃げることを決意した。
リゴールの手首を握ったまま、デスタンに背を向けて駆け出す。
回復しつつあるとはいえまだまだ怪我人であるリゴールに全力疾走させるのは酷かもしれない。そう思いもした。が、のんびりしていてはグラネイトの攻撃を受けかねない。最終的には、さらに負傷するよりかは全力疾走しなくてはならない方がましだろう、という結論に至り。だから私は、足の回転を限界まで速めた。
「おいっ! 逃げるな!!」
背後からはグラネイトの叫びが聞こえてくる。
でも、足は止めない。
絶対に止まってはならない。
少しでも動きを止めれば、的にされることは避けられないのだから。
私は振り返らない。
グラネイトの射程から出るまでは、絶対に。
呼吸が荒れて。
胸やら脇腹やらが痛くて。
それでも、リゴールを連れて駆ける。
ただ散歩していただけ。
穏やかな時を過ごしていただけ。
……なのになぜ、こんなことになるの。
そんな思いが胸を満たすけれど、それを口から出すことはできない。
彼の細い手首を握っている感触だけが、彼がついてきている証。
走り続けることに必死で、私には、後ろのリゴールの様子を確認する余裕はなかった。
……だけど、本当は、確認したくなかっただけかもしれない。
リゴールが悲しい顔をしていると分かっていたから。
だからこそ、私は彼の様子を見なかったのだろう。
——それからしばらくして、背後から大きな爆発音が響いた。
私とて、デスタンの戦闘能力が高いことは知っている。が、グラネイトもそこまで弱いことはないはず。それだけに、この結果は予想外だった。
「く……このグラネイト様をねじ伏せるとは……」
首を掴まれ、さらに体を地面へ押し付けられたグラネイトは、歯軋りしながらそんなことを漏らす。そんな彼を、デスタンは冷ややかに見下ろしている。
「本調子でないことは分かっている。が、だからこそ、今ここで消させてもらう」
ゴミを見るような視線をグラネイトへ向けながら、デスタンは静かに放った。
「ふ、ふはは……。本調子でないとバレていたとは、な……」
あからさまに不利な体勢であるにもかかわらず、グラネイトにはまだ笑う余裕があるらしい。
「だが」
何かがおかしい——そう思った、刹那。
「この時を待っていた!」
グラネイトが、それまでだらりと地面に伸ばしていた片腕を動かし、自身の首を掴んでいるデスタンの腕を乱暴に掴んだ。
直後。
デスタンの腕を掴んだグラネイトの手から、爆発が起こった。
「……っ!」
突然の爆発にデスタンが驚いている内に、グラネイトは体を起こす。デスタンによる拘束から、一瞬にして逃れた。
弱い爆発だったらしく腕が吹き飛ぶようなことにはなっていなかったものの、手を離してしまったデスタン。彼は、悔しげに眉を寄せていた。グラネイトを逃してしまったことを悔やんでいるのかもしれない。
その時、リゴールがデスタンに駆け寄った。
「大丈夫なのですか!?」
「はい。ですから、王子は下がっていて下さい」
リゴールは真剣にデスタンの身を案じているようなのだが、その心配はデスタンには届いていないようである。
「……そうですね。今のわたくしは足手まといでしかありませんものね」
「はい。下がっていて下さい」
いやいや、そのタイミングで「はい」はないでしょ。仮にそれが本心だとしても、少しは気を遣って、「そんなことはない」くらい言ってあげればいいじゃない。
私は密かにそんなことを思った。
だが、少し考えていると、「下がるよう言ったのは彼なりの優しさなのかもしれない」とも思えるような気がしてきた。冷ややかに思える発言だが、それがリゴールを危険に晒さないためのものであるならば、一概に悪であるとは言えない。むしろそれは、彼なりの善であると言えるかもしれない。
「ふはは! びっくりしたか!」
グラネイトは妙なハイテンション。
対するデスタンは、凄く渋い物を間違って食べてしまったような顔。
「……くだらない真似を」
「そうだ! くだらない! だが無意味ではないのだ!」
グラネイトは大声を発しながら、長い両腕を伸ばし開く。
「ではそろそろ! 本気で! 倒しにかかるとしよう!」
彼の胸の前辺りに、球体——橙色の光が小規模に渦巻いているような物体が、いくつも現れる。それは、気味の悪いぼんやりした光を放ちながら、徐々に大きくなってゆく。
その様を目にしたデスタンは、すぐさま視線を私へ向けてきた。
「王子を頼みます!」
「え」
「連れて逃げろと言っているのです!」
いきなり言われ、戸惑い。
すぐには反応できず。
そんな私の振る舞いがデスタンに苛立ちを募らせてしまっていると分かっていても、それでも、速やかに返事することはできなくて。
「けど、デスタンさ——」
「早く!!」
叫ぶデスタン。
グラネイトの胸の前に浮かぶ球体は、個々の大きさが大きくなり、しかも数も増えてきていた。
あれらが降り注いだ日には、負傷することは免れられないだろう。
だから私は頷いた。
「……分かったわ」
すると、険しかったデスタンの表情が、微かに柔らかくなった。
「王子は頼みます!」
剣を握っていない方の手で、リゴールの片手首を掴む。
「エアリ!?」
「逃げるわよ」
「デスタンを置いて逃げると言うのですか? できません!」
リゴールは抗おうとするけれど、今だけは、はっきり言わせてもらう。
「優先すべきは貴方の命よ」
だがそれでもリゴールは頷かなかった。
「嫌です!」
そう言い首を横に振るリゴールを見ていたら、何をしても説得できる気がしなくて。だから私は、強制的に連れて逃げることを決意した。
リゴールの手首を握ったまま、デスタンに背を向けて駆け出す。
回復しつつあるとはいえまだまだ怪我人であるリゴールに全力疾走させるのは酷かもしれない。そう思いもした。が、のんびりしていてはグラネイトの攻撃を受けかねない。最終的には、さらに負傷するよりかは全力疾走しなくてはならない方がましだろう、という結論に至り。だから私は、足の回転を限界まで速めた。
「おいっ! 逃げるな!!」
背後からはグラネイトの叫びが聞こえてくる。
でも、足は止めない。
絶対に止まってはならない。
少しでも動きを止めれば、的にされることは避けられないのだから。
私は振り返らない。
グラネイトの射程から出るまでは、絶対に。
呼吸が荒れて。
胸やら脇腹やらが痛くて。
それでも、リゴールを連れて駆ける。
ただ散歩していただけ。
穏やかな時を過ごしていただけ。
……なのになぜ、こんなことになるの。
そんな思いが胸を満たすけれど、それを口から出すことはできない。
彼の細い手首を握っている感触だけが、彼がついてきている証。
走り続けることに必死で、私には、後ろのリゴールの様子を確認する余裕はなかった。
……だけど、本当は、確認したくなかっただけかもしれない。
リゴールが悲しい顔をしていると分かっていたから。
だからこそ、私は彼の様子を見なかったのだろう。
——それからしばらくして、背後から大きな爆発音が響いた。
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