あなたの剣になりたい

四季

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episode.107 煽る

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 煽り過ぎるのはどうか、と、思わないこともない。だが、今はそれしかないから、仕方がないのだ。

「かっこつけてるのがダサいならね! 弱い者虐めをするのは、その百倍ダサいのよ!」
「……ウッザ」

 少女は不快そうに顔をしかめながら漏らす。
 どうやら彼女は、挑発に乗ってきてくれるタイプのようだ。それならまだ、やりようはある。

「分かったなら離しなさい!」
「離せ? バーカ。言われて離すわけないカラ!」

 少女は舌をべーっと伸ばしてくる。だが、そのような態度を取られることは想像の範囲内。むしろ、乗ってきてくれてありがとう、という感じだ。

「残念だけど、馬鹿はそっちよ。他人のことを簡単に馬鹿呼ばわりするんだもの」

 少女の意識が私へ向いている隙に、リゴールは後ろへ飛ばされた本を拾っていた。
 ただ、意外なことに、少女はリゴールを攻撃しなかった。小型の銃はまだ構えている。だから、すぐにでも攻撃できそうなものなのに。

「私や彼を見下したいなら、せめて、名乗ることくらい覚えたら?」
「うっさい、黙レ!」

 少女は叫び、リゴールに向けていた小型銃の先端をこちらへ向け直す。

「魔弾銃の餌食になレ!」

 小型の銃——魔弾銃より、灰色の弾丸——厳密にはエネルギー弾が、飛ぶ。風を切り、飛ぶ。その速度は、目に留まらぬほど。

 魔弾銃の先端から飛び出したエネルギー弾は、動けない私に命中。
 ただ、包帯のようなものがあったおかげで、エネルギー弾の直撃を受けることは免れた。

 破裂音と衝撃は確かにあったけれど、ダメージ自体はあまりない。多少驚いた程度である。少女も愚かだ。包帯を外していれば、私へダメージを与えることだってできただろうに。

 ……もっとも、私からすればラッキーだったのだが。

「エアリ! すぐ助けます!」

 リゴールが言い放つ。

 私はこんな時に限って、「それを言ったら、敵にバレてしまうのではないか」などという冷めたことを考えてしまった。

 助けると言ってくれたこと自体はありがたいことなのに。

「プププ! そんなこと言うとカ、馬鹿っみたイ!」

 やはり予想通りの展開。
 案の定、少女の意識がリゴールの方へ向いてしまった。

 少女は一瞬にして、魔弾銃の銃口をリゴールの方へ戻す。そして、引き金を引いた。灰色のエネルギー弾が宙を駆ける。

 が、リゴールはそれを防御膜で防ぐ。

 そして、少女に向かって直進する。

「直進!?」

 リゴールが真っ直ぐ突っ込んでくることに動揺しつつも、少女は弾丸を放つ。
 しかしリゴールには防御膜がある。だから、少女の放つ弾丸は効かない。命中はしても、黄金に輝く膜が威力を殺してしまうのだ。

 みるみるうちに距離が詰まる。

「……参ります!」

 本を開く。

 溢れるは、黄金の輝き。

 目を傷めそうなほど目映い光に、少女の顔がひきつる。

 ほんの一瞬だけ、青い双眸が煌めいて見え。数秒経つと、放たれる輝きは増す。光の洪水は、やがて、剣のようにも槍のようにも見える形を作り出す。

「覚悟を」

 リゴールの唇が微かに動く。
 それを合図にしたかのように、剣と槍を混ぜたような姿の光は少女に向かう。

「チョ……!?」

 生意気だった少女も、リゴールの想像を軽く越える攻撃には、さすがに怯んでいるようで。顔は強張っているし、発する声も上ずっていた。少し可哀想に思えてくるくらいに。

 ——そして、突き刺さる。

 少女に、リゴールの生み出した輝きが。

 武器のような形となった光が、少女に、包み込むように命中する。ただそれだけのことで、血の一滴も流れないというのに、凄まじい熱量。

 信じられない。
 理解できない。

 私はただただ、呆然とする外なかった。

 しかし、そのような状態になっているのは私だけではなく。ベッドの脇に移動しているミセも、同じように、呆然としていた。

 空気の流れが乱れ、熱いものが迫り来る。
 自分が攻撃されていると錯覚してしまうほどのエネルギー。

 ——気づいた時には、少女の姿は消えていた。

 もちろん、少女だけではない。私に巻き付いていた包帯のようなものも、すべて消滅していた。

「エアリに意地悪なことをする人は嫌いです!」

 リゴールは唇を尖らせつつ、吐き捨てるように言い放っていた。
 晴れて自由の身となった私は、リゴールに駆け寄る。

「ありがとう、リゴール」
「お怪我はありませんか?」
「大丈夫よ」
「良かったです」

 リゴールは笑みを浮かべる。
 どことなく切なげな雰囲気のある笑みを。

「また役に立てなかった……ごめんなさい」
「いえ。怪我がないようで安心しました」

 すべてが終わった証拠もないのに気を抜くのは、良くないかもしれない。けれど、今だけはどうか、ホッとさせてほしい。

「リゴールくんって……案外凄いのねぇ……」

 デスタンの傍で待機していたミセが、感心したように漏らした。
 それに言葉を返すのは、デスタン。

「王子は本当はお強いのです」
「あーら、そうなのぉ? さすがアタシのデスタン! 詳しいのねぇ!」

 ミセは相変わらず、粘り気のある甘い声を出している。デスタンの方は少しずつ素を出していっているようだが、ミセは今でも最初と変わらない振る舞いだ。

「リゴールくんが超能力者だったなんてぇ、アタシ、知らなかったわぁ!」
「王子が本気を出した際の力。それは、どんな者でも倒せてしまうようなお力なのです」

 デスタンは淡々と、リゴールの強さについて語る。それを聞いたリゴールは、恥ずかしいからなのか、頬を赤らめていた。

「デスタンったら、知り合いが凄ぉい!」

 知り合いが凄い、て。

 少しばかり突っ込みを入れたくなってしまった。
 無論、実際に入れることはしなかったが。

「さすがねぇ! デースタン!」

 ミセは、両手でデスタンの片手を包むように握ると、自分の胸元まで引き寄せる。

「どうしたのです、ミセさん」
「いやね、デスタン! どうもしてないわぁー。アタシはデスタンのことが好き! それだけよぅ」

 この期に及んで、まだいちゃつくか。
 思わずそう言いそうになったくらい、ミセはデスタンに擦り寄っている。

 平常運転というか何というか。

「失礼かもしれませんが、少し鬱陶しいと思ってしまいます」
「あぁん、冷たいー!」

 ミセはデスタンを二人の世界に引き込もうと必死だ。だが、デスタンはさすがにデスタン。そう易々と乗せられはしない。

 そんな二人を見ていたところ、リゴールが声をかけてきた。

「そろそろ帰りましょうか、エアリ」
「もういいの?」
「ミセさんの交流を邪魔するわけには参りませんから……」

 空気を読んで、ということだったようだ。
 そういうことなら、と、私は頷いた。
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