あなたの剣になりたい

四季

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episode.139 操っちゃってもいいかなぁ

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 デスタンを指差し、トランは話し出す。

「本当はさ、先に裏切りたての裏切り者たちを先に仕留めようと思っていたんだよねー。けど、それより良い作戦を思いついてしまった。そこで、先にこっちへ来たんだよー」

 トランは機嫌良さげに話している。また、漂わせている空気も平和的だ。
 だが、それはあくまで現時点のこと。
 悪い企みを抱いていることは確かだし、いつ本性を露わにするか分からないから、油断はできない。

「そしたらびっくり。彼が女の人に支えられてるなんて、想定外だったよー。そういう交流は嫌いなんだろうなって思っていたからさぁ」

 デスタンは警戒心剥き出しの表情でトランを睨んでいる。
 ミセは彼を支えたまま、怖れたような眼差しをトランへ向けている。

 二人とも、戦える状態の人物ではない。それを知っているから、私は、二人の前へと歩み出る。

 しかしトランは、うっすらと笑みを浮かべるのみ。
 まだ、特に変化は感じられない。

「でも、むしろラッキーだったよ」
「……どういうこと?」
「察しが悪いね。言うまでもないくらい、簡単なことだよ」

 言って、トランは上着の内側から短剣を取り出した。

「大切な人の命を奪って絶望している彼を、ボクが殺る。そしてその亡骸を妹の前に晒す。……どうかなー?」

 物騒なことを言い出すトラン。
 発言の内容自体もそこそこ恐ろしいものだが、一番恐ろしく感じるのはそこではなく、怖いことを笑顔で平然と言ってのけているところである。

「そんなことはさせないわ」
「できれば邪魔しないでほしいなぁ」

 私とトランが言葉を交わしている隙に、ミセとデスタンは、トランがいるのとは反対の方に向かって歩き出す。

 だがトランは見逃さない。
 彼は突如動いた。

 私を軽くかわし、デスタンらの進行方向へ立ち塞がる。

「待ってよ」

 トランの冷ややかな声。
 空気が急激に冷える。

「……退け」
「嫌だね。逃がさないよー」

 デスタンの低い声にも一切怯まないトランを目にして、ミセは顔全体を強張らせる。目の前の少年が普通でないということは、彼女も感じているようだ。

「デスタン……これは一体、何なの……?」

 そう発するミセの唇は震えていた。

 デスタンを支えていたミセだが、今は逆に、彼女がデスタンにすがり付いているかのよう。
 そんなミセに、デスタンは告げる。

「ミセさん。離れて下さい」
「な……何を言っているの? デスタンはまだ一人で立てないじゃなぁい……」

 不安げに瞳を潤ませるミセ。

「構いません」
「そんな……わけが分からないわよぅ……」

 トランが漂わせるただならぬ恐ろしさに恐怖心を抱きながらも、ミセはデスタンから離れない。いや、正しくは「離れられない」なのかもしれないが。

 そんな彼女を、デスタンは刺々しく睨む。

「死にたくなければ、速やかに去って下さい」
「で、でも、一人じゃまともに立てないじゃないの……」
「早く!」

 鋭く発され、ミセは体を震わせる。

 だがそれも無理はない。
 いきなり叫ばれたりなんかすれば、誰だって驚くはずだ。

 それから数秒、ミセは進行方向を反転させる。そして、そそくさと歩いていった。

 私は咄嗟に彼に駆け寄る。

「デスタンさん!」
「……何です」
「大丈夫なの!?」
「……はい」

 デスタンは一応自力で立てているようだ。
 だが、つい先ほどまでミセに力を借りて立っているところを見ていたから、どうしても不安を感じずにはいられない。

「その体の状態で、女の人を逃がすとはねー」

 口を挟んできたのはトラン。
 短剣を手で回している彼は、少しばかり不機嫌そう。

「逃がすってことは、本命なのかなぁ?」
「……まさか」

 デスタンは氷剣のような視線をトランへ突きつける。

「関係ない者を巻き込めないだけだ」

 対するトランは、冗談めかした言葉を放つ。

「ホントにそうー?」
「嘘をつく理由がない」
「ふーん」

 直後、トランが動く。
 彼は短剣をデスタンに向かって振った。

 私はデスタンの服を掴み、後ろへ引っ張る。

「やるね」

 短剣による攻撃をかわされながらも、トランはまだ余裕の笑みを浮かべている。手はいくらでもある、というような顔つきだ。

「……すみません」
「気にしないで。それより、彼は危険だわ。デスタンさんは下がっていて」

 そう告げると、デスタンは怪訝な顔をする。

「貴女が一人で相手をする、と?」
「できるかどうか分からない……けどやるわ。デスタンさんはあまり前に出ない方が良いと思うの」

 デスタンの体は、回復してきつつあるとはいえ、一人で日常生活をできるくらいまでは治っていない。そんな状態でトランと向き合うなど、危険以外の何物でもない。

 だから私は彼に下がるよう言ったのだ。
 けれど、その気持ちは彼には届いていないみたいで。

「……偉そうですね」

 むしろ不快感を覚えられてしまっている様子だ。

「違うの! 心配しているだけよ。だから下がっていて!」
「嫌です」

 今だってデスタンは、私が軽く手を握り、それで立っているような状態だ。トランの相手なんてできるわけがない。トランが本気で動き出せば、切り刻まれてすぐに終わるだろう。

「どうして。戦えもしないのに」
「戦えもしない? ……馬鹿にしているのですか」

 デスタンの整った面に、怒りの色が微かに滲む。

「馬鹿になんてしてない! けど、事実でしょ!」
「今に始まったことではありませんが、貴女は失礼です」
「ちょっと、何よその言い方! 失礼はそっちじゃない!」

 ——刹那。

 銀の刃が視界の端に入った。

「後ろ!」

 半ば無意識のうちに叫ぶ。
 反射的に振り返ったデスタンは、トランの手首を掴み、その手から短剣をもぎ取った。

 デスタンの手の動きは乱雑な動きに見える。が、短剣を上手く奪い取っているところから考えると、それなりに複雑な動きをしているのかもしれないと思えてきた。

 不思議だ。私にはよく分からない。

「……やっぱり、やるね」

 薄い笑みを浮かべたトランは、そこからさらに片足を振り上げる。トランが放った蹴りは、短剣を奪い取ったばかりのデスタンの手に命中。短剣はデスタンの手の内から離れ、床に落下する。その床に落ちた短剣を、トランは、一秒もかからぬうちに拾い上げる。

 ——そして、その刃をデスタンの喉元へ突きつけた。

「惜しかったね。ボクもさすがに、今の君に負けるほど弱くはないんだ」

 トランは片側の口角を僅かに持ち上げる。

「前みたいにさ、また操っちゃってもいいかなぁ?」
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