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前編

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「婚約、破棄な」

 その日はある日突然やって来た。

 女好きな婚約者アラーフォードは時々私が意見することに苛立ちそれをもう隠せない状態になってしまったようだ。

 といっても、私はべつにそれほど酷いことは言っていないはずなのだが。
 私はただ、婚約者のいる身で好き放題するのはやめてほしいと、常識をもとにお願いしただけなのだが。

「お前みたいな女はトイレに顔突っ込んどけばいいんだよ、俺の行動にあれこれ言う権利はない。なんせごみみたいなものだからな。そんなやつが偉そうに俺に指図するなんて論外。そもそも意味不明だし、そんなことあってはならないことだ」

 アラーフォードは眉間に大量のしわを寄せながらやたらと長い台詞を吐いてくる。

「ごみが人に指図するか? しないだろう。それと同じだ、お前もな。それを理解しろ。あるいは、それすらできないほどの愚か者か? ならお前に生きている価値はない。当然、俺のような男の妻になる資格もない」

 今や彼は私をごみとしてしか見ていないのか……。

 ならばもうこの関係はおしまいだ、続けてゆくのは無理だろう。

「そうですね、分かりました。では……さようなら、アラーフォードさん」

 ここは潔く消えるのがベスト。
 そう判断した私は彼の前から去ることを選んだ。

「な、なぜそんな爽やかな顔をする!?」

 彼は少々戸惑っているようだったけれど、そんなことどうでもいい。

 私は私の道を行くのだ。
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