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4話「中庭を歩けば」
しおりを挟む「お主、少し良いか?」
唐突に訪ねてきたのは魔王ボンボンだ。
「え、あ、はい。何でしょうか」
「詫び、と言うのが相応しいかどうかは分からぬのだが……これを渡しに来た」
ボンボンはそう言って一つプレゼントボックスを差し出してくる。
白い箱に青いリボンがかけられたものだ。
「謝罪の品だ。受け取ってくれ」
「結構ですよそんなの」
「いや、しかし、受け取ってほしいのだ」
「あ……はい分かりました。では、いただきます。お気遣い、ありがとうございます」
彼からの圧が凄くて受け取らない選択はできなかった。
◆
ある昼下がり。
許可が得られたので少し中庭を散歩していると偶然ボンボンが通りかかった。
「あ。ボンボンさん、こんにちは」
「おお。……そんなところで何をしている?」
「少し散歩を」
「散歩、か」
「でも……とても綺麗ですね、この中庭。見ていて飽きません。きちんと手入れされているのがよく分かります」
中庭の感想を述べると、ボンボンは拍子抜けしたような顔をしていたけれど。
「そうか」
短いながらも言葉を返してはくれた。
しかし――何だろうこの感じ、話が上手く続かない。
そんなことを思いもやもやしているうちに彼は行ってしまった。
ここに置いてもらっているお礼くらい言うべきだった? ありがとう、それだけでも言えたなら、少しは良い印象を持ってもらえたかもしれないのに。いや、でも、良く思われるためにここにいるわけではない。ならこれで良かったのかもしれない。これで良かった? その可能性だってないことはないけれど。
もやもやしながら花壇に植えられた花を眺める。
やはりとても美しい。
花々はどんな時も活き活きと咲いている。
――今度会ったら少しはお礼でも言ってみようかな。
そんなことを思った昼下がりだった。
◆
「アイリーン様、中庭はどうでした?」
部屋へ戻った私に話しかけてくるのは今日この部屋の担当になっているメイドだ。
「とても美しかったです」
「ふふ、それは良かった」
「どういうことです?」
「魔王様ね、貴女がここに滞在することが決まってから、城内のあちこちを綺麗にするよう指示を出していたんですよ」
青っぽい肌を持つ種族である四十代くらいのメイドはそう言って柔らかく温かな笑みをこぼす。
「ええっ。そうだったんですか」
「そうなんですよ、ふふ、気合い入っちゃって。何だか少し可愛いですよね」
「私もそう思います」
「アイリーン様の良く思われたいのかもしれませんね」
意外なことを言われて。
「いや、それはないと思います」
即座に返してしまう。
「あら」
「私はただの人間の女ですから」
「ふふ」
「え?」
「そう、でしょうかね」
メイドは意味ありげににやりと笑みを浮かべる。
言いたいことがあるの?
そう聞きたかったけれど。
彼女に呼び出しがかかったので会話は途中で終わってしまった。
結局彼女が言おうとしていることのすべてを聞くことはできないままだった。
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