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5話「体調不良は種族共通の災難」

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 その日、半透明なカーテンつきベッドの上で目を覚ますと、何やら部屋の外が騒々しかった。

「お目覚めですか」
「はい」

 今日の担当メイドは小さな突起のような角が二本生えている種族の若い女の子だ。

「あの……何だか外が騒がしくないですか?」
「そうですね」
「何か事件でもあったのですか?」
「昨夜魔王様が体調不良になられたようで」
「ええっ」

 あんながっしりしていていかつい人でも体調不良になんてなるのか……、と驚いてしまった。

 いや、生き物であれば何者であっても、たまには体調不良にもなるものだろうが――でも彼に関しては勇ましそうな見た目なのでそんなことがあるとは思っていなかったのだ。

「風邪か何かですか?」
「恐らくそうではないかと。ただ、万が一毒を盛られたなどであったら大変なので、念のため調査は行われているようです」
「毒……」

 その発想は私の脳内にはなかった。

 でも、もし、すべてを統べる彼の存在を良く思わない人がいたとしたら――そういうことだってあり得ないことはないかもしれない。

「心配ですね。大丈夫でしょうか」
「ご心配なく」

 彼女はどこか淡々としている。
 若い人なのにそこまで若い感じがしない。

「そうですよね、私、余所者ですし」
「……気になりますか?」
「ごめんなさいでしゃばったことを。ただ、でも、気になることは気になります」
「そうですか」

 少し間を空け、彼女は口を開く。

「様子を見に行ってみますか?」

 意外な言葉が出てきて驚いたけれど。

「……はい!」

 そう答えた。

 私なんかが会いに行っても何の意味もないだろう。
 ほぼ赤の他人なのだから。
 彼だって嬉しくも何ともないだろう。

 でも、気になってしまう。

 その後私は淡白メイドに連れられながらボンボンがいるところにまで行ってみることとなった。


 ◆


「ボンボンさん、体調いかがですか?」

 メイドに連れられ彼のところへ行ってみた。

「ふぬっ!?」

 私が現れたことに驚いてか、彼は変な声をこぼしていた。

 彼は今ベッドに横たわっている。
 容姿そのものに大きな変化はないが、顔周辺がほんのり赤らんでいるようにも見える。
 それに、目つきの鋭さが日頃と少し異なっていて、凛々しさがあまりなくとろんとしている。

「体調不良と聞きまして」
「なぜお主が……」

 ボンボンは戸惑っているようだった。
 先ほどから眼球があちこちいろんな方向を向いている。

 こちらを真っ直ぐ見ることすら辛いのかもしれない。

 だとしたら気の毒だ。
 しんどい思いをすることになるなんて。

「大丈夫かなと思いまして。そうしたらメイドさんが様子を見に行くかどうか聞いてくださって。その流れで来てしまいました」

 出会って間もない、種族も違う、そんな彼にこんな思いを抱くなんておかしなことだろうか?

 いや、そんなことはないはずだ。

 苦しんでいる人を見たら心配する。
 それは普遍的な心の動きだ。

「ふぬ……」

 ベッドの周りでは複数のメイドが忙しく動き回っている。
 騒々しさはこのせいだったのかもしれない。

「ごめんなさい、迷惑でしたよね」
「い、いや……そんなことは……」
「熱がありますか?」
「ああ」
「そうですか、それは大変ですね……何か、力になれることがあれば仰ってくださいね」
「手を煩わせる気はない」
「そうですか……分かりました。話し相手くらいならできますので、もし必要であれば呼んでくださいね」

 帰りしな、ボンボンのところへ戻ろうと歩いているモッツァレに廊下で遭遇。

「アイリーン様! コンニチハ! アレ、ドウシテココニ?」

 ボンボンの体調不良を知って様子を見に来た、その帰り――そう伝えると。

「ゴ心配オカケシテ! 申シ訳アリマセン!」
「そんな。謝らないでください」
「シ、シカシ……連絡ガデキテオラズ」
「いえ、本当に、気になさらないでください」
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