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7話「いつの間にか帰るのが寂しくなっていて」
しおりを挟む「そうか。やはり……お主は面白い女だ」
ボンボンはそう言ってさりげなく小さな笑い声をこぼした。
それは、温かみのある声。
控えめで、けれども確かな、ほっこりした時に出るような音。
決して他者を馬鹿にしているようなものではない。
「だが、ここを気に入ってもらえたのなら良かった」
「はい。ありがとうございます」
特に深い意味はないが一礼しておく。
「ところで、だ。お主はいつまでここにいる予定だ?」
「え」
「どう思っている?」
意図が読めない問い。
即座には答えを返せない。
「どう、って……それはどういう意味ですか」
出ていってほしい、ということ?
あるいは、別の意味?
何をどう思ってそんな問いを放っているのだろう。
「ここから一刻も早く去りたいかどうか、ということだ」
彼の声はいつも低音で安定している。渋みのある声だ。これまでの私の知り合いにはそういった声の持ち主はあまりいなかったので新鮮さを感じる。
「一刻も、早く……そういうことですか。分かりました。で、答えですが、そうですね……特に早く去りたいとは思ってはいません。といいますのも、ここも好きになってきたんです」
「おお」
「もちろんずっと置いてほしいなんて言いません。そんな勝手を言う気はありません。ただ、あちらの国へ帰ってもどうせややこしいことにしかならないと思うので、帰ったら帰ったでまた面倒なことに巻き込まれるだろうなぁーとは思っているのです」
この際隠すことはしないでおこう。
そう思い、私は、あそこまで至った過程をボンボンに話しておくことにした。
「そんな事情があったのだな」
ボンボンは私が予想していたより真面目に話を聞いてくれた。
くだらない、とか。
もう飽きた、とか。
そんなことは言わず、最後まで聞いてくれた。
「では、あちらへはあまり戻りたくない感じか?」
「ええと、まぁ……そんなところもあります。ただ、残してきた親のことだけは気になりますけど」
きっと今頃私がいなくなって心配していることだろう。
「そうか。では、親御さんのところへ帰らせねばな」
少し何やら考えるような顔をしていたと思ったら、彼は急にそんな風に口を動かした。
「急ぎではないですけど……できれば、いつかは」
「明後日くらいにするか? 部下に家付近まで送らせよう」
「そんな! 大丈夫ですよ。国境の辺りまで連れていってもらえればそこからは帰れます」
「いや、それでは何か事件が起こるやもしれん」
過保護な親か何かか?
彼からすれば私は何の関係もないただの人間、気にすることなんて何もないだろうに。
「心配性ですね……」
「それはそうだろう。物騒な世の中だ」
「なかなか頑固ですね」
「いや、事実だからだ。危険な目に遭わせるわけにはいかん」
「そうですか……」
その後家へ帰る日が決まった。
明後日だ。
その日がくれば、私は、ここから去らなくてはならないことになる。
ボンボンが直々に送り返してくれるらしい。
嬉しいような嬉しくないような、何とも言えない気分だ。
不思議なことだけれど、帰れると知ってもあまり真っ直ぐな嬉しさを感じることはできない。
もう少しここにいたい。
そんなことを思ってしまっている私もいて。
嬉しいはずなのに……。
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