異世界恋愛短編集 ～婚約破棄されても幸せになることはできます～

心ない婚約破棄を選んだ彼は呪いによってこの世を去りました。一方、私は穏やかな幸せを掴みました。

「君と共に生きてゆくことはできない。よって、婚約は破棄とする」

　そんな言葉を告げられたのはある雨の日の夕暮れ時で。

「これまで色々見逃してあげてきた。が、もうこれ以上は無理だ。これ以上君の愚かさや無能さを見逃すことはできない。愚か者は僕の視界から今すぐ消えるべきだ」

　婚約者なのに。
　特別な関係なのに。

　彼は平然とそんな心ない言葉を吐き、私との関係を一方的に叩き壊した。

「さよなら」

　……こうして私たちの関係は終わりを迎えたのだった。


　◆


　あの後、身勝手過ぎる婚約破棄に激怒した私の父は、知り合いの知り合いに頼んで元婚約者である彼を呪ってもらうことを決めた。

　私は正直呪いなんて信じていなかった。
　けれどもそれは偽りのものではなくて。
　呪いをかけてもらった翌日、元婚約者の彼はこの世を去った――しかも、カラスの群れに襲われて、などというまったくもって理解不能な理由で。

　カラスの群れに襲われて亡くなった人なんて見たことがない。それを思えば、彼の死はきっと現実的なことではなかったのだろう。きっと何かしらの目に見えない力が働いてそうなったに違いない。


　◆


　理不尽を絵に描いたような婚約破棄から数年が経った夏、私は、両親同士が知り合いであったことから顔を合わせるようになった男性からプロポーズされた。

　私はそれを受け入れた。
　彼と生きる道を選ぶことにした。

　そうして夫婦となった私たちだが、今はとても幸せに暮らしている。

　毎日楽しいことばかりだ。


◆終わり◆