どんな嵐も乗り越えて幸せになってみせます、それが私の人生ですから!~聖女を傷つけた者には天罰が下るようです~

四季

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11話「空白の中で」

「アズリーさんの悪口を言いたいだけの方と話すことは何もありません」

 ヴェガウンディは真っ直ぐに立ったままの状態で告げる。

「貴女にはここにいる資格はありませんのでお帰りください」

 そこまで言われてしまったリシリーは動きを止めた。一瞬思考停止した、というような様子で。顔の筋肉も、身体の動きも、ありとあらゆる部分が固まっているようだった。

 だが次の瞬間。

「なんでアズリーなのよ!!」

 急に叫び、革製ベルトの背中側の隙間から小型のナイフを取り出す。

「おねーさまなんてリシリーよりずっとずっとダサいのに!!」

 怒りに支配された彼女に躊躇いはない。
 鈍く光るものを握り締めたまま目の前の貴い人へ向かっていく。

「頭悪すぎ!!」

 ナイフの先がヴェガウンディを狙う。

「駄目!!」

 考えるより早く、身体が動いていた。

 咄嗟に二人の間に入った私の右肩に小型ナイフの刃が刺さる。
 棘に触れた時よりも鋭い痛みが勢いよく走った。
 苦痛は瞬間的に頭のてっぺんを突き抜けてゆくようでクラクラしてしまう。

「なんということを!」

 ヴェガウンディの鋭い叫びが聞こえる。

「わ、悪いのは……悪いのはその女なの! おねーさまが、一人で勝手に成功したりするから……! そう、リシリーは悪くない……何も間違っていないの……リシリーは正しいことをしたんだもん、間違ってないもん、リシリーは悪いやつを倒しただけ……!」

 どうやらリシリーは刃物から手を離したようだ。
 さすがに一度刺したところからさらに斬ってやろうとまでは考えていなかったらしい。

 そこまでの怨みはなかった、ということか……。

 唯一の救いはそこだった。受けるのが一撃だけで済んだということ、それは大きな幸運だった。一撃でもこの痛み、追い打ちをかけるように何度も攻撃されていたら耐えられなかっただろう。

「その女を捕らえなさい!!」

 気づけば騒ぎを聞きつけた者たちが部屋に入ってきていて。

「「「はい!!」」」

 ヴェガウンディからの指示を受け、リシリーを拘束しようと動いていた。

「救護を、早く」
「承知しました」

 さすがは王子といったところか。
 この混乱した状況でも周囲に対して的確な指示を出せている。

「アズリーさん、そのまま横になっていてください。すぐに手当てしますから。なるべく冷静でいてください、必ず助けますから」
「はい……」
「死んではいけません」
「もちろんです……」
「気を、しっかり」
「まだ……死に、たく……ありません……ので……」

 ようやく幸せになれそうな未来が見えてきたところで死んでたまるか。

 大切なもの。
 幸せな明日。
 誰にも奪わせはしない。

「いやっ、離して! 離してよ! リシリーは! ただ! 罪深い女の行いを正そうと! 来ただけ! それをこんなっ……おかしい! おかしいよ! リシリーは悪くないもんっ、絶対、絶対に……悪いことしてないもんっ! 悪いのはおねーさま! 全部全部! おねーさまが仕組んだことだもん! 信じて、信じて、リシリーの言うこと信じてよおおぉぉぉぉぉ!!」

 警備員に捕らえられたリシリーは騒いでいたけれど、その言葉にまともに耳を貸す者はいなかった。

 そうしているうちに救護の者が来てくれて、私の身体はヴェガウンディの傍から担架の上へ。

「運びます」
「はい、お願いします」
「そっち持って」
「分かった」
「ゆっくりね、持ち上げるから」
「「せーの」」
「気をつけて運ぼう」
「行けそう?」
「行ける行ける」
「じゃあなるべく早く」
「よいしょっと」

 複数の声が耳の中で混ざる。

 混じり合って、溶けて、消えて――。


 ◆


 暗闇に浮かんでいる。
 たった一人で。
 自分の身体が重力に逆らっている様を目にすると心なしか気味が悪い。

『恐れることはありません。私は女神。貴女を護っています』

 目の前に現れたのは半透明の女性。

『貴女を傷つける者を私は許しません。ですから安心して。貴女を傷つけた者たちにはやがて天罰が下るでしょう』

 女性は静かに言葉を紡ぐ。

「あ、あの! ……できれば聞かせてください」
『何か?』
「私に嫌な思いをさせた人が命を落とすのは、貴女の、女神様の力ゆえなのですか!?」

 すると女性は控えめに笑みを滲ませ。

『気がついているようですね。……ええ、そうです、正解ですよ。女神は無礼者には厳しいものなのです』

 そう答えた。

「やっぱり……」

 思わずそんな風にこぼしてしまう。

『貴女は安心して進んでください。大丈夫、今は辛くとも、必ず希望に巡り会う日が訪れますから』

 女性はそっと抱き締めるような声色で言い残し、消えた。

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