プリンセス・プリンス 〜名もなき者たちの戦い〜

四季

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episode.38 その先では

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 杖のプリンセスから連絡があった。
 そして私は知った。
 時のプリンス、彼が行方不明になったということを。

「そんなことって……」

 私は自然とそんな言葉を漏らしていた。

 彼のことは詳しくは知らない。クイーンうんぬんで関わったことはあるけれど、それも皆で会話する時だけ。二人で喋ったことはないし、直接会ったこともない。

 だがそれでも、どうでもいい、とは思えない。
 一応仲間なのだから。

 どうなってもいい、などと考えることはできない。

「あの……少し質問が」
『何でしょうか』
「プリンセスやプリンスが皆倒されてしまったら、世界はどうなってしまうのですか?」
『そうですね。考えたくはありませんが……恐らく、クイーンズキャッスルにも敵が行くでしょう。それと同時に、人間界にも影響が及ぶでしょう。もっとも、そのような状況を迎えた経験はありませんので、実際にどうなるのかまでは分かりませんが』

 聞くだけでも恐ろしい。
 でも、今感じている恐ろしさなんて想像できる範囲でしかなくて――きっと、本当の恐ろしさは想像以上なのだろう。

『いずれにせよ、より一層身を引き締めて警戒しなくてはなりません』
「そうですね」
『引き続き、待機よろしくお願いします』
「あ、はい。ありがとうございます」

 この感じだとしばらくはここから離れられそうにない。幸いここでは物資の不足などは起きないので、ここに留まり続けても生命維持が困難になるということはないだろうが。

 だが、前に自宅へ戻った際に色々持ってきておいて良かった。
 危うく退屈過ぎて弱るところだった。


 ◆


 時のプリンスが意識を取り戻した時、彼の周囲は見慣れた風景ではなかった。

 天井も壁も床もすべてが黒。箱のような真四角の部屋の各隅からは青緑系の色みの柔らかな光だけが弱々しくこぼれている。

 意識が戻って一分経つか経たないかくらいの時間で時のプリンスは周囲の状況を把握する。

 目もとを隠す仮面はあっても、彼は周囲のものを見ることができる。

 そして彼は知った、自身が壁に貼りつけるように拘束されていることを。背中が壁に貼りつくように立たされているのだが、その手首足首には黒く艶のある拘束具のようなものがつけられており、その拘束具のようなものは壁にしっかりとめり込んでいるのだ。

 彼は、どう足掻いても自力で自由の身にはなれないような状況に置かれていた。

 その時、壁の一部分が動いて開き、メイドをモチーフにしたような衣装の女性が現れる。青い髪に青い瞳、人の姿をしていながらも無機質な雰囲気を漂わせてくる人物。

「目覚められたようですね」

 彼女はそれだけ発し、軽く一礼して、広くはない室内へと入ってくる。

「……ここは」
「ご安心を。殺めたりは致しませんので」

 女性の冷ややかな声と視線に、時のプリンスは不愉快そうな表情を滲ませる。

「お主、一体何を企んでいる」

 不愉快を顔に塗りたくった時のプリンスはいつも以上に低い声で問いを放った。
 それに対し、女性は顔色を一切変えない。

「お答えする必要はありません」
「……生意気な」
「それでは確認を開始します。貴方は時のプリンス、間違いありませんか」

 女性は淡々と話を進めようとする。

「先にこちらの問いに答えよ」
「そちらの質問には回答許可が出ていません」

 時のプリンスはもやもやしているようだった。

「再び確認します。貴方は時のプリンス、間違いありませんか」
「……そうだ」
「確認しました。それでは次の質問事項へ移ります」
「次から、次へと……っ!?」

 時のプリンスが不快感を前面に出した声を発した――刹那、女性の右手の人差し指が長く伸び、その先端が彼の眉間に触れた。
 青に近い色の電撃が宙を踊る。
 眉間に衝撃を受けた時のプリンスは息を詰まらせた。

「ぐ……」
「抵抗することはおすすめしません。反抗的な態度を取ることも、同様です。そして、念のためお伝えしておきますが、この部屋の中では貴方がたの力は使えませんので」

 女性は冷ややかな視線を時のプリンスへ向ける。

「プリンセスとプリンスに関する情報を提供していただきます」
「拒否する」
「そうですか。ではこちらで」

 女性は再び人差し指を伸ばす。
 時のプリンスに命中させるつもりだったのだろうが、彼はそれを読んでいて、素早く首を横に動かしてかわした。
 しかしそれで終わりではない。
 無機質な女性は、既に長く伸びた指を動かし、目の前の彼の首もとに指先を当てた。

「……く」
「貴方に拒否権はありません」

 少し間を空け、女性は続ける。

「それでもなお拒否されるのであれば、強制的に吐かせるという形になってしまいます。ただ、速やかに話してくだされば、こちらも乱暴なことは致しません」

 女性が入ってきた際に開いた扉は今も開いたまま。

「何をしようが、答えは変わらぬ……!」
「強がりはおやめください」
「……これ以上話すことはない」
「まだ拒否するというのですか。それは愚かな考えです。死にたいのですか」
「皆を売ることはできぬ」

 薄暗い室内に女性の「プリンセスとプリンスに関する情報を提供してください」という声だけが控えめに響いた。
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