40 / 141
episode.39 可憐な花は明るく羽ばたく
しおりを挟む
愛のキャッスルに置かれていたミクニがクイーンズキャッスルへと送られてきた。
リボンで包まれたままの状態だし、特に何かをしなくてはならないということはないのだが、それがこの敷地内に置かれているというだけで、少々緊張感が高まってしまう。
今のところ何も起きていないけれど。
ちなみになぜこんなことになったかというと――愛のキャッスルに敵襲があった時にミクニを拘束したまま敵と戦うのは無理かもしれない、と、愛のプリンセスが言ったからだそうだ。
確かに、両方に気を配るのは難しそうだ。
プリンセスとはいえ、しなくてはならないことが多過ぎるとなると、うっかりやられてしまう可能性もある。どんな強さの敵が来るかも定かではないのだ、油断はできない。
私にできることがあるなら――そう考えたので、私は、ミクニを引き取ることを拒みはしなかった。
もしミクニがリボンを破って出てきたら?
不安がないわけではないけれど。
でも、どうせ戦力にはなれない私なのだから、せめてこれくらいはしようと思う。
『フレイヤちゃん、聞いたわー。敵をクイーンズキャッスルに置いているんですって? 大丈夫なの? 心配だわー』
妙な緊張感に包まれていると、通信が入る。
森のプリンセスだ。
「あ、はい。そうなんです。でも今のところ問題ないです、リボンで包まれているので」
『もしよければわたしが引き取るわよー?』
「いえ、それでは結局同じことになってしまいますので……」
愛のキャッスルに置いていても森のキャッスルに置いていても同じことだ。どちらも敵襲の可能性があるのだから。森のキャッスルなら大丈夫、ということはない。その点ここであれば話は別。ここは基本的に敵が攻めてくることはない場所だから。
『そう? フレイヤちゃんがそれでいいなら構わないけれど……あ! そうだ。じゃあフローラを派遣しようかしらー? 一時的にだけれど。そうすれば、少しは気が楽になるかもしれないわー』
「いつも申し訳ないです」
『遠慮なんてしないで。わたしの勝手よー。ただの自己満足なの。じゃ、そうするわねー。待っていてー』
森のプリンセスはとても優しくいつも良くしてくれるけれど、だからこそ申し訳なさを感じずにはいられない。
それから数時間も経たないうちにフローラは来てくれた。
「来たのよ!」
フローラは元気そうで、私の周りを勢いよく飛んでいる。
「ありがとうございます。お怪我は?」
「もう治ったの!」
「それは良かった」
一時は怪我してどうなることかと思ったけれど……元気になってくれて良かった。
◆
くすみ気味の金色、艶のある素材。刺々しくはなく落ち着いた雰囲気を漂わせつつも豪華さも同時に存在している、そんな座の近くで何やら考えてごとをしているのは杖のプリンセス。他のプリンセスプリンスらよりかは老いたようなその顔面には、時を経てか否かは定かでないものの、人生という深みのあるしわがさりげなく刻まれている。
彼女は座の背もたれ辺りに片手の手のひらを添えつつ、何を見るでもなく正面方向斜め上というような位置をぼんやり眺めている。
そんな最中、杖のプリンセスは背後に何かが出現したのを察知。はっとして振り返る。
「やはり……」
視線の先には漆黒に染まりきった剣のプリンセス。
「プリンセスたるもの、何度も味方に攻撃を仕掛けるなど大問題ですよ! いい加減になさい!」
杖のプリンセスは人の背丈ほどある杖を出現させて握りその先端を剣のプリンセスへと向ける。
しかし返答はなかった。
剣のプリンセスと杖のプリンセスは不仲であったわけではない。それゆえ、本来であれば互いの言葉を無視したりはしないだろう。たとえそれが不満を感じる言葉だったとしても、だ。相手の口から出てくる言葉が嬉しくないものであったとしても、何かしら返しはするはずである。
「我々の使命は悪と戦うこと! そうでしょう!」
「…………」
「何か言いなさい。……いえ、話せないのかもしれませんね。……となると、やはり、操られているのでしょうか」
直後、黒い剣が杖のプリンセスに襲いかかる。
杖のプリンセスは手にしていた杖で咄嗟にそれを防いだ。
「貴女の本性がこれだと思っているわけではありません。しかし、我々に攻撃するというのであれば、我々も敵と見なさざるを得ません」
言いながら、目にも留まらぬ速さで杖を回転させ――正面に向けて構えると、先から白い光線が放たれる。剣のプリンセスは腹を大きくひねって光線をかわした。が、そのタイミングで杖から再び光線が放たれた。今度こそ命中。白色の光線が剣のプリンセスの脇腹をかすめる。
それで終わりではない。
杖のプリンセスは先端を上に向けた状態で杖を掲げる。
白い光線数本が集まったような光の柱が頭上から降り注ぐ――しかし、剣のプリンセスは間一髪のところで回避した。
「なかなかやりますね」
言いつつも、杖のプリンセスはさらなる光線を放つ。
剣のプリンセスは今度は身体は動かさない。しかし何もしなかったのかというとそういうわけでもなく。剣の刃の部分を盾のようにして光線を防いだ。
攻守逆転、そこからは剣のプリンセスの反撃。
剣のプリンセスは黒いもやに包まれた相棒を手に積極的に攻めに出る。
接近戦向きの能力でない杖のプリンセスは、杖を反射的に前へ出し斬撃を防ぐが、それによって杖が遠くへ飛ばされてしまった。
そこへ次の斬撃が迫る。
「……っ!」
――戦いが終わる。
虚ろな目をしたまま棒立ちでいる剣のプリンセスの足下には、一人の女性が力なく倒れ込んでいた。
リボンで包まれたままの状態だし、特に何かをしなくてはならないということはないのだが、それがこの敷地内に置かれているというだけで、少々緊張感が高まってしまう。
今のところ何も起きていないけれど。
ちなみになぜこんなことになったかというと――愛のキャッスルに敵襲があった時にミクニを拘束したまま敵と戦うのは無理かもしれない、と、愛のプリンセスが言ったからだそうだ。
確かに、両方に気を配るのは難しそうだ。
プリンセスとはいえ、しなくてはならないことが多過ぎるとなると、うっかりやられてしまう可能性もある。どんな強さの敵が来るかも定かではないのだ、油断はできない。
私にできることがあるなら――そう考えたので、私は、ミクニを引き取ることを拒みはしなかった。
もしミクニがリボンを破って出てきたら?
不安がないわけではないけれど。
でも、どうせ戦力にはなれない私なのだから、せめてこれくらいはしようと思う。
『フレイヤちゃん、聞いたわー。敵をクイーンズキャッスルに置いているんですって? 大丈夫なの? 心配だわー』
妙な緊張感に包まれていると、通信が入る。
森のプリンセスだ。
「あ、はい。そうなんです。でも今のところ問題ないです、リボンで包まれているので」
『もしよければわたしが引き取るわよー?』
「いえ、それでは結局同じことになってしまいますので……」
愛のキャッスルに置いていても森のキャッスルに置いていても同じことだ。どちらも敵襲の可能性があるのだから。森のキャッスルなら大丈夫、ということはない。その点ここであれば話は別。ここは基本的に敵が攻めてくることはない場所だから。
『そう? フレイヤちゃんがそれでいいなら構わないけれど……あ! そうだ。じゃあフローラを派遣しようかしらー? 一時的にだけれど。そうすれば、少しは気が楽になるかもしれないわー』
「いつも申し訳ないです」
『遠慮なんてしないで。わたしの勝手よー。ただの自己満足なの。じゃ、そうするわねー。待っていてー』
森のプリンセスはとても優しくいつも良くしてくれるけれど、だからこそ申し訳なさを感じずにはいられない。
それから数時間も経たないうちにフローラは来てくれた。
「来たのよ!」
フローラは元気そうで、私の周りを勢いよく飛んでいる。
「ありがとうございます。お怪我は?」
「もう治ったの!」
「それは良かった」
一時は怪我してどうなることかと思ったけれど……元気になってくれて良かった。
◆
くすみ気味の金色、艶のある素材。刺々しくはなく落ち着いた雰囲気を漂わせつつも豪華さも同時に存在している、そんな座の近くで何やら考えてごとをしているのは杖のプリンセス。他のプリンセスプリンスらよりかは老いたようなその顔面には、時を経てか否かは定かでないものの、人生という深みのあるしわがさりげなく刻まれている。
彼女は座の背もたれ辺りに片手の手のひらを添えつつ、何を見るでもなく正面方向斜め上というような位置をぼんやり眺めている。
そんな最中、杖のプリンセスは背後に何かが出現したのを察知。はっとして振り返る。
「やはり……」
視線の先には漆黒に染まりきった剣のプリンセス。
「プリンセスたるもの、何度も味方に攻撃を仕掛けるなど大問題ですよ! いい加減になさい!」
杖のプリンセスは人の背丈ほどある杖を出現させて握りその先端を剣のプリンセスへと向ける。
しかし返答はなかった。
剣のプリンセスと杖のプリンセスは不仲であったわけではない。それゆえ、本来であれば互いの言葉を無視したりはしないだろう。たとえそれが不満を感じる言葉だったとしても、だ。相手の口から出てくる言葉が嬉しくないものであったとしても、何かしら返しはするはずである。
「我々の使命は悪と戦うこと! そうでしょう!」
「…………」
「何か言いなさい。……いえ、話せないのかもしれませんね。……となると、やはり、操られているのでしょうか」
直後、黒い剣が杖のプリンセスに襲いかかる。
杖のプリンセスは手にしていた杖で咄嗟にそれを防いだ。
「貴女の本性がこれだと思っているわけではありません。しかし、我々に攻撃するというのであれば、我々も敵と見なさざるを得ません」
言いながら、目にも留まらぬ速さで杖を回転させ――正面に向けて構えると、先から白い光線が放たれる。剣のプリンセスは腹を大きくひねって光線をかわした。が、そのタイミングで杖から再び光線が放たれた。今度こそ命中。白色の光線が剣のプリンセスの脇腹をかすめる。
それで終わりではない。
杖のプリンセスは先端を上に向けた状態で杖を掲げる。
白い光線数本が集まったような光の柱が頭上から降り注ぐ――しかし、剣のプリンセスは間一髪のところで回避した。
「なかなかやりますね」
言いつつも、杖のプリンセスはさらなる光線を放つ。
剣のプリンセスは今度は身体は動かさない。しかし何もしなかったのかというとそういうわけでもなく。剣の刃の部分を盾のようにして光線を防いだ。
攻守逆転、そこからは剣のプリンセスの反撃。
剣のプリンセスは黒いもやに包まれた相棒を手に積極的に攻めに出る。
接近戦向きの能力でない杖のプリンセスは、杖を反射的に前へ出し斬撃を防ぐが、それによって杖が遠くへ飛ばされてしまった。
そこへ次の斬撃が迫る。
「……っ!」
――戦いが終わる。
虚ろな目をしたまま棒立ちでいる剣のプリンセスの足下には、一人の女性が力なく倒れ込んでいた。
0
あなたにおすすめの小説
もう散々泣いて悔やんだから、過去に戻ったら絶対に間違えない
もーりんもも
恋愛
セラフィネは一目惚れで結婚した夫に裏切られ、満足な食事も与えられず自宅に軟禁されていた。
……私が馬鹿だった。それは分かっているけど悔しい。夫と出会う前からやり直したい。 そのチャンスを手に入れたセラフィネは復讐を誓う――。
【完結】灰かぶりの花嫁は、塔の中
白雨 音
恋愛
父親の再婚により、家族から小間使いとして扱われてきた、伯爵令嬢のコレット。
思いがけず結婚が決まるが、義姉クリスティナと偽る様に言われる。
愛を求めるコレットは、結婚に望みを託し、クリスティナとして夫となるアラード卿の館へ
向かうのだが、その先で、この結婚が偽りと知らされる。
アラード卿は、彼女を妻とは見ておらず、曰く付きの塔に閉じ込め、放置した。
そんな彼女を、唯一気遣ってくれたのは、自分よりも年上の義理の息子ランメルトだった___
異世界恋愛 《完結しました》
私の願いは貴方の幸せです
mahiro
恋愛
「君、すごくいいね」
滅多に私のことを褒めることがないその人が初めて会った女の子を褒めている姿に、彼の興味が私から彼女に移ったのだと感じた。
私は2人の邪魔にならないよう出来るだけ早く去ることにしたのだが。
【12月末日公開終了】これは裏切りですか?
たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。
だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。
そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?
タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒―
私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。
「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」
その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています
【完結】断頭台で処刑された悪役王妃の生き直し
有栖多于佳
恋愛
近代ヨーロッパの、ようなある大陸のある帝国王女の物語。
30才で断頭台にかけられた王妃が、次の瞬間3才の自分に戻った。
1度目の世界では盲目的に母を立派な女帝だと思っていたが、よくよく思い起こせば、兄妹間で格差をつけて、お気に入りの子だけ依怙贔屓する毒親だと気づいた。
だいたい帝国は男子継承と決まっていたのをねじ曲げて強欲にも女帝になり、初恋の父との恋も成就させた結果、継承戦争起こし帝国は二つに割ってしまう。王配になった父は人の良いだけで頼りなく、全く人を見る目のないので軍の幹部に登用した者は役に立たない。
そんな両親と早い段階で決別し今度こそ幸せな人生を過ごすのだと、決意を胸に生き直すマリアンナ。
史実に良く似た出来事もあるかもしれませんが、この物語はフィクションです。
世界史の人物と同名が出てきますが、別人です。
全くのフィクションですので、歴史考察はありません。
*あくまでも異世界ヒューマンドラマであり、恋愛あり、残業ありの娯楽小説です。
『龍の生け贄婚』令嬢、夫に溺愛されながら、自分を捨てた家族にざまぁします
卯月八花
恋愛
公爵令嬢ルディーナは、親戚に家を乗っ取られ虐げられていた。
ある日、妹に魔物を統べる龍の皇帝グラルシオから結婚が申し込まれる。
泣いて嫌がる妹の身代わりとして、ルディーナはグラルシオに嫁ぐことになるが――。
「だからお前なのだ、ルディーナ。俺はお前が欲しかった」
グラルシオは実はルディーナの曾祖父が書いたミステリー小説の熱狂的なファンであり、直系の子孫でありながら虐げられる彼女を救い出すために、結婚という名目で呼び寄せたのだ。
敬愛する作家のひ孫に眼を輝かせるグラルシオ。
二人は、強欲な親戚に奪われたフォーコン公爵家を取り戻すため、奇妙な共犯関係を結んで反撃を開始する。
これは不遇な令嬢が最強の龍皇帝に溺愛され、捨てた家族に復讐を果たす大逆転サクセスストーリーです。
(ハッピーエンド確約/ざまぁ要素あり/他サイト様にも掲載中)
もし面白いと思っていただけましたら、お気に入り登録・いいねなどしていただけましたら、作者の大変なモチベーション向上になりますので、ぜひお願いします!
【完結】あなたを忘れたい
やまぐちこはる
恋愛
子爵令嬢ナミリアは愛し合う婚約者ディルーストと結婚する日を待ち侘びていた。
そんな時、不幸が訪れる。
■□■
【毎日更新】毎日8時と18時更新です。
【完結保証】最終話まで書き終えています。
最後までお付き合い頂けたらうれしいです(_ _)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる