プリンセス・プリンス 〜名もなき者たちの戦い〜

四季

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episode.39 可憐な花は明るく羽ばたく

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 愛のキャッスルに置かれていたミクニがクイーンズキャッスルへと送られてきた。

 リボンで包まれたままの状態だし、特に何かをしなくてはならないということはないのだが、それがこの敷地内に置かれているというだけで、少々緊張感が高まってしまう。

 今のところ何も起きていないけれど。

 ちなみになぜこんなことになったかというと――愛のキャッスルに敵襲があった時にミクニを拘束したまま敵と戦うのは無理かもしれない、と、愛のプリンセスが言ったからだそうだ。
 確かに、両方に気を配るのは難しそうだ。
 プリンセスとはいえ、しなくてはならないことが多過ぎるとなると、うっかりやられてしまう可能性もある。どんな強さの敵が来るかも定かではないのだ、油断はできない。

 私にできることがあるなら――そう考えたので、私は、ミクニを引き取ることを拒みはしなかった。

 もしミクニがリボンを破って出てきたら?
 不安がないわけではないけれど。
 でも、どうせ戦力にはなれない私なのだから、せめてこれくらいはしようと思う。

『フレイヤちゃん、聞いたわー。敵をクイーンズキャッスルに置いているんですって? 大丈夫なの? 心配だわー』

 妙な緊張感に包まれていると、通信が入る。
 森のプリンセスだ。

「あ、はい。そうなんです。でも今のところ問題ないです、リボンで包まれているので」
『もしよければわたしが引き取るわよー?』
「いえ、それでは結局同じことになってしまいますので……」

 愛のキャッスルに置いていても森のキャッスルに置いていても同じことだ。どちらも敵襲の可能性があるのだから。森のキャッスルなら大丈夫、ということはない。その点ここであれば話は別。ここは基本的に敵が攻めてくることはない場所だから。

『そう? フレイヤちゃんがそれでいいなら構わないけれど……あ! そうだ。じゃあフローラを派遣しようかしらー? 一時的にだけれど。そうすれば、少しは気が楽になるかもしれないわー』
「いつも申し訳ないです」
『遠慮なんてしないで。わたしの勝手よー。ただの自己満足なの。じゃ、そうするわねー。待っていてー』

 森のプリンセスはとても優しくいつも良くしてくれるけれど、だからこそ申し訳なさを感じずにはいられない。

 それから数時間も経たないうちにフローラは来てくれた。

「来たのよ!」

 フローラは元気そうで、私の周りを勢いよく飛んでいる。

「ありがとうございます。お怪我は?」
「もう治ったの!」
「それは良かった」

 一時は怪我してどうなることかと思ったけれど……元気になってくれて良かった。


 ◆


 くすみ気味の金色、艶のある素材。刺々しくはなく落ち着いた雰囲気を漂わせつつも豪華さも同時に存在している、そんな座の近くで何やら考えてごとをしているのは杖のプリンセス。他のプリンセスプリンスらよりかは老いたようなその顔面には、時を経てか否かは定かでないものの、人生という深みのあるしわがさりげなく刻まれている。

 彼女は座の背もたれ辺りに片手の手のひらを添えつつ、何を見るでもなく正面方向斜め上というような位置をぼんやり眺めている。

 そんな最中、杖のプリンセスは背後に何かが出現したのを察知。はっとして振り返る。

「やはり……」

 視線の先には漆黒に染まりきった剣のプリンセス。

「プリンセスたるもの、何度も味方に攻撃を仕掛けるなど大問題ですよ! いい加減になさい!」

 杖のプリンセスは人の背丈ほどある杖を出現させて握りその先端を剣のプリンセスへと向ける。
 しかし返答はなかった。
 剣のプリンセスと杖のプリンセスは不仲であったわけではない。それゆえ、本来であれば互いの言葉を無視したりはしないだろう。たとえそれが不満を感じる言葉だったとしても、だ。相手の口から出てくる言葉が嬉しくないものであったとしても、何かしら返しはするはずである。

「我々の使命は悪と戦うこと! そうでしょう!」
「…………」
「何か言いなさい。……いえ、話せないのかもしれませんね。……となると、やはり、操られているのでしょうか」

 直後、黒い剣が杖のプリンセスに襲いかかる。
 杖のプリンセスは手にしていた杖で咄嗟にそれを防いだ。

「貴女の本性がこれだと思っているわけではありません。しかし、我々に攻撃するというのであれば、我々も敵と見なさざるを得ません」

 言いながら、目にも留まらぬ速さで杖を回転させ――正面に向けて構えると、先から白い光線が放たれる。剣のプリンセスは腹を大きくひねって光線をかわした。が、そのタイミングで杖から再び光線が放たれた。今度こそ命中。白色の光線が剣のプリンセスの脇腹をかすめる。

 それで終わりではない。
 杖のプリンセスは先端を上に向けた状態で杖を掲げる。
 白い光線数本が集まったような光の柱が頭上から降り注ぐ――しかし、剣のプリンセスは間一髪のところで回避した。

「なかなかやりますね」

 言いつつも、杖のプリンセスはさらなる光線を放つ。

 剣のプリンセスは今度は身体は動かさない。しかし何もしなかったのかというとそういうわけでもなく。剣の刃の部分を盾のようにして光線を防いだ。

 攻守逆転、そこからは剣のプリンセスの反撃。
 剣のプリンセスは黒いもやに包まれた相棒を手に積極的に攻めに出る。
 接近戦向きの能力でない杖のプリンセスは、杖を反射的に前へ出し斬撃を防ぐが、それによって杖が遠くへ飛ばされてしまった。

 そこへ次の斬撃が迫る。

「……っ!」

 ――戦いが終わる。

 虚ろな目をしたまま棒立ちでいる剣のプリンセスの足下には、一人の女性が力なく倒れ込んでいた。
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