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episode.49 いつでも聞いてあげるけど
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離れていてもこうして皆の顔を見ることができる。それは嬉しいことなのだけれど、だからといって心が晴れやかになるかというと案外そうでもなくて。
「森のプリンセスさん、よければ今度また愛のプリンセスさんとお話させてください」
『えぇ! もちろん!』
「あ……あの、なんというか……ちょっと変なことを言ってしまってすみません」
『え? まさか。そんなことないわよー、変だなんてー』
森のプリンセスは穏やかそのものだった。
ありがたいことだ。
やらかしてしまっていなかったと分かり安堵していた、その時。
『そういえば』
それまで特に何も発していなかった盾のプリンスが口を開いた。
『あれからクイーンズキャッスルは何もないのか?』
変化があったら報告するって……と内心突っ込みを入れつつも口からは出さずにいると。
『何かあったんなら言うだろ、普通』
海のプリンスがさらりと指摘した。
これに関しては同感だ。
『……そういうものか』
『当たり前だろ』
『そうか。……分かった』
結局この件に関して私の出る幕はなかった。海のプリンスが綺麗さっぱり片付けてくれたから。もっとも、私に関係する話題なのにそんな結末になったから、少し不思議な感じはしたけれど。
そうして通信は終了。
コンパクトを両手で上下から押さえるように持ちながらほっとしていると、そこへ、辺りをうろうろしていたミクニが戻ってきた。
「終わったみたいね」
私へ視線を向けるなり彼女はそう言った。
こちらは特に何も言わなかったのだけれど、それでも察してもらえたみたいだ。
「はい」
彼女とこうして二人でいるなんて不思議な感じ。
ついこの前までは敵だったのに。
これもまた運命か。だとしたら、運命とは良くも悪くも不思議なものだ。敵として出会った者とこうして共に暮らし、味方だったはずの者とは今や敵となり会えない。何という奇妙な状況。
「どうだった?」
「皆さん生きていました」
「そう。ま、なら良かったじゃない」
ミクニは大人びた雰囲気と気の強そうな感じが混ざった面に軽く笑みを浮かべる。
「……ミクニさんって」
「何?」
「そんな風に……笑うんですね」
眉間にしわを寄せ怪訝な顔をするミクニ。
「いきなり何なの?」
「あ……いえ。すみません。変ですよね、いきなり」
一旦座に腰を下ろす。
それから改めてミクニの方へ視線を向けた。
「ふと思ったんです」
「思った?」
「ミクニさんが笑うところ、見られて良かったなって」
するとミクニはますますよく分からないとでも言いたげな顔をする。
無理もないか。
よく分からないことを言っているという自覚もまったくないわけではない。
「あたしが笑うところの何がそんなに楽しいのかしら。まったくもって謎だわ」
「嬉しいんです、別ればかりじゃなかったことが」
「言いたいことがあるならはっきり言ってちょうだい。変に曖昧に言わなくていいから」
「そうですね。そうします。……ここ最近、別れがたくさんで」
彼女は座に腰を下ろしている私の真正面に立っているまま。
凝視されると得たいの知れない圧を感じる。
「ざっくり言えば先輩で仲間みたいなものなんですけど……剣のプリンセスさんとか杖のプリンセスさんとか、皆、敵に操られたり色々してしまって一緒にいられなくて、それで……本当は、少し寂しかったのです」
永遠の別れと決まったわけではないけれど、共にいられなくなったことは事実だ。
「このままどんどん別れていくことしかないのかな、って、少し不安になったり……していたんです、実は……」
そこまで言うと、ミクニは渋いものを食べてしまったような顔をする。
「どうしてそれをあたしに言うのよ」
「……え?」
「そういう話なら、記憶がないあたしに言うより、お仲間に言いなさいよ。いるじゃない、何とかのプリンセス、とか。その方が良いのではないの?」
右手で少し邪魔になった髪を掻き上げるミクニ。
「いえ」
「違う?」
「はい。だって……心配させてしまうじゃないですか、そんなことを話したら」
ミクニはぽかんと口を空ける。
「皆さん優しいですから……心配してくれるだろうと思うんです。でも、本当は心配されるべきなのは私じゃないですし……間違いなく迷惑になるだろうな、って……」
言い終えた数秒後、ミクニは高らかに笑った。
「あー、おかし。でも、そういうことなら、確かにあたしが適任かもね!」
一応理解してもらえたようだ。
「あたしって優しくないものね! 確かにそんなに心配はしないわ! あはは笑える」
「あ……あの、べつに、悪口で言ったわけじゃ……」
「何言ってるの? 悪口とか思ってないわよ」
やらかしてしまったかと一瞬焦ったが、ミクニは悪い風には捉えていないようだった。また、気を遣って「気にしていない」というように振る舞っているわけでもなさそう。どうやら本気で気にしていないようだ――彼女の表情や口調からそう感じた。
「ま、できることなら協力するから」
「ありがとうございます」
「だから細かいことは気にしないでちょうだい。湿っぽいのは好きじゃないの」
とても頼もしく思う。
感謝したい。
森のプリンセスや盾のプリンスには心配させてしまいそうで言えないこともミクニになら言えるだろう、きっとこれからも。
「そうですよね……! 弱っている場合じゃないですよね……!」
言いたいことははっきり言って、引きずらない人でありたい。
ちょっとした努力でそんな人になれそうかというと、正直あまり自信がないが。
「そうよ。ま、愚痴ならあたしがいつでも聞いてあげるけど。聞くだけなら、ね」
「何だか元気? になってきた気がします!」
「単純ね」
「え、ええっ……」
さりげなく心ないところが辛いが――逆に少し元気が出てきたような気もするのだった。
「森のプリンセスさん、よければ今度また愛のプリンセスさんとお話させてください」
『えぇ! もちろん!』
「あ……あの、なんというか……ちょっと変なことを言ってしまってすみません」
『え? まさか。そんなことないわよー、変だなんてー』
森のプリンセスは穏やかそのものだった。
ありがたいことだ。
やらかしてしまっていなかったと分かり安堵していた、その時。
『そういえば』
それまで特に何も発していなかった盾のプリンスが口を開いた。
『あれからクイーンズキャッスルは何もないのか?』
変化があったら報告するって……と内心突っ込みを入れつつも口からは出さずにいると。
『何かあったんなら言うだろ、普通』
海のプリンスがさらりと指摘した。
これに関しては同感だ。
『……そういうものか』
『当たり前だろ』
『そうか。……分かった』
結局この件に関して私の出る幕はなかった。海のプリンスが綺麗さっぱり片付けてくれたから。もっとも、私に関係する話題なのにそんな結末になったから、少し不思議な感じはしたけれど。
そうして通信は終了。
コンパクトを両手で上下から押さえるように持ちながらほっとしていると、そこへ、辺りをうろうろしていたミクニが戻ってきた。
「終わったみたいね」
私へ視線を向けるなり彼女はそう言った。
こちらは特に何も言わなかったのだけれど、それでも察してもらえたみたいだ。
「はい」
彼女とこうして二人でいるなんて不思議な感じ。
ついこの前までは敵だったのに。
これもまた運命か。だとしたら、運命とは良くも悪くも不思議なものだ。敵として出会った者とこうして共に暮らし、味方だったはずの者とは今や敵となり会えない。何という奇妙な状況。
「どうだった?」
「皆さん生きていました」
「そう。ま、なら良かったじゃない」
ミクニは大人びた雰囲気と気の強そうな感じが混ざった面に軽く笑みを浮かべる。
「……ミクニさんって」
「何?」
「そんな風に……笑うんですね」
眉間にしわを寄せ怪訝な顔をするミクニ。
「いきなり何なの?」
「あ……いえ。すみません。変ですよね、いきなり」
一旦座に腰を下ろす。
それから改めてミクニの方へ視線を向けた。
「ふと思ったんです」
「思った?」
「ミクニさんが笑うところ、見られて良かったなって」
するとミクニはますますよく分からないとでも言いたげな顔をする。
無理もないか。
よく分からないことを言っているという自覚もまったくないわけではない。
「あたしが笑うところの何がそんなに楽しいのかしら。まったくもって謎だわ」
「嬉しいんです、別ればかりじゃなかったことが」
「言いたいことがあるならはっきり言ってちょうだい。変に曖昧に言わなくていいから」
「そうですね。そうします。……ここ最近、別れがたくさんで」
彼女は座に腰を下ろしている私の真正面に立っているまま。
凝視されると得たいの知れない圧を感じる。
「ざっくり言えば先輩で仲間みたいなものなんですけど……剣のプリンセスさんとか杖のプリンセスさんとか、皆、敵に操られたり色々してしまって一緒にいられなくて、それで……本当は、少し寂しかったのです」
永遠の別れと決まったわけではないけれど、共にいられなくなったことは事実だ。
「このままどんどん別れていくことしかないのかな、って、少し不安になったり……していたんです、実は……」
そこまで言うと、ミクニは渋いものを食べてしまったような顔をする。
「どうしてそれをあたしに言うのよ」
「……え?」
「そういう話なら、記憶がないあたしに言うより、お仲間に言いなさいよ。いるじゃない、何とかのプリンセス、とか。その方が良いのではないの?」
右手で少し邪魔になった髪を掻き上げるミクニ。
「いえ」
「違う?」
「はい。だって……心配させてしまうじゃないですか、そんなことを話したら」
ミクニはぽかんと口を空ける。
「皆さん優しいですから……心配してくれるだろうと思うんです。でも、本当は心配されるべきなのは私じゃないですし……間違いなく迷惑になるだろうな、って……」
言い終えた数秒後、ミクニは高らかに笑った。
「あー、おかし。でも、そういうことなら、確かにあたしが適任かもね!」
一応理解してもらえたようだ。
「あたしって優しくないものね! 確かにそんなに心配はしないわ! あはは笑える」
「あ……あの、べつに、悪口で言ったわけじゃ……」
「何言ってるの? 悪口とか思ってないわよ」
やらかしてしまったかと一瞬焦ったが、ミクニは悪い風には捉えていないようだった。また、気を遣って「気にしていない」というように振る舞っているわけでもなさそう。どうやら本気で気にしていないようだ――彼女の表情や口調からそう感じた。
「ま、できることなら協力するから」
「ありがとうございます」
「だから細かいことは気にしないでちょうだい。湿っぽいのは好きじゃないの」
とても頼もしく思う。
感謝したい。
森のプリンセスや盾のプリンスには心配させてしまいそうで言えないこともミクニになら言えるだろう、きっとこれからも。
「そうですよね……! 弱っている場合じゃないですよね……!」
言いたいことははっきり言って、引きずらない人でありたい。
ちょっとした努力でそんな人になれそうかというと、正直あまり自信がないが。
「そうよ。ま、愚痴ならあたしがいつでも聞いてあげるけど。聞くだけなら、ね」
「何だか元気? になってきた気がします!」
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「え、ええっ……」
さりげなく心ないところが辛いが――逆に少し元気が出てきたような気もするのだった。
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