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前編
しおりを挟むつやつやの赤いまぐろ、つるりとした一見人工物のようにも見えるいか、つぶつぶが木の実のようで愛らしいいくら――私は寿司が昔から大好きなのだけれど。
「お前! なんてものを食べてるんだ! 海のものを食べるなど悪魔か! けがらわしい……もういい! お前との婚約なんぞ、破棄だッ!!」
ある日のこと、普通にいつものように寿司を食べていたら、たまたまやって来た婚約者フェブルイネンから関係の解消を告げられてしまった。
「え……なぜですか? お寿司だけで……?」
「当たり前だろう! 海のものを食べるなど魔女のすることだ! それに、異国の文化を取り入れているというのもまた穢れているとしか思えん。お前は魂が穢れているのだ、だからそのようなおぞましい料理を口にできる」
「それはさすがに言い過ぎじゃないですか?」
「言い過ぎじゃない! 当然のことを言っているだけだ」
「そうでしょうか……」
「ああ! 母もそう言っていた! 海のものを口にする者は魔女、なぜなら海のものを食べると魂が穢れるから、と!」
えええ……。
何その謎理論……。
しかし、どうやら彼とは分かり合えそうにない。
彼が海のものを嫌っている。
私は海のものを愛している。
……これはもうどうしようもないやつだ。
「だから婚約破棄! そういうことだ。分かったか? 分かったな!?」
「……はい」
「よし。では関係は解消だ。さらば」
こうして私は、寿司を食べていただけで婚約破棄されてしまったのだった……何だか切ないなぁ。
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