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貴方と共に未来へと行く、そう思っていたのは私だけだったのかもしれませんね。どうやら、同じ未来を見つめてはいなかったようです……。
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「君は女としてのクオリティが低くて俺の妻となるには相応しくない。よって、婚約は破棄とするよ」
婚約者オーガンディーはある日突然そんなことを言ってきた。
呼び出されて向かった中央公園での出来事だ。
「え……」
「聞こえなかったのかい?」
「い、いえ。婚約破棄、と。けれど……その、まだ理解が追いついていません。どうしてそのようなことを、急に……?」
私たちは同じ未来を見ていると思っていた。けれどもそれは幻想だったのか。私と彼が見ている未来は同じものではなかったのかもしれない、今になってその現実に気がついてきた。
明るい未来へと共に歩んでゆきたい。
そう思っていたのは私だけだった――?
「いや、だから、理由はもう言っただろう? 君は女としてのクオリティが低くて俺の妻となるには相応しくない、そう言ったじゃないか。それがすべてだよ」
オーガンディーは何事もなかったかのようにそんな心ない言葉を発する。
そんなことを言われたら相手がどう思うか。
心ない言葉をかけられた時、他人の心がどうなるのか。
彼は想像してはみないのだろうか?
……まぁ、想像してみていたならこんな酷いことはしないか。
「じゃあな。さよなら。……永遠に」
こうして関係は強制的に終わらせられた。
そしてそれによって私の心は黒く染め上げられてしまう。
悲しい。
辛い。
胸が痛い。
涙ばかりが溢れて。
彼のことを嫌いだと感じる。
でもまだ嫌いでなかった頃の感情もうっすらとは遺っていて。
だから、なおさら辛い。
大嫌いだと言ってやれればどんなに良かっただろう。そうすればきっとここまでの胸の痛みはなかったはず。嫌い、そう言ってしまえたなら。大嫌い、と叫んでやれたなら。でも私にはそれすらもできず。心は中途半端なところをふわふわと漂うばかり。
好きにはもう戻れない。
けれども嫌いと断言する勇気もない。
……ああ、私はどうすればいいのだろう。
◆
婚約破棄された日からちょうど一週間が経った日の午後、オーガンディーが亡くなったという情報が耳に飛び込んできた。
オーガンディーは今朝もいつものように路上で一人散歩していたそうなのだが、子どもたちが遊んでいた硬いボールが飛んできてそれが額に命中、その衝撃で気を失ったそうで――そのまま後ろ向けに倒れ、その際後頭部を強く打ってしまい死亡したのだそうだ。
あまりにも呆気ない最期である。
彼はきっとこれからも普通に生きてゆくと思っていただろう。死ぬかもしれない、なんて、思ったことはなかったはずだ。けれども彼には確かに死がもたらされた。大災害や馬車による事故などでもない突然の死、なんて、きっと誰だって想像しないだろうけど。まさかボールに殺されるとは、と、今あの世で思っているのではないだろうか。
ただ、それもまた運命である。
他人を傷つけて生きていたらそういうことになるのだ。
そういう意味では自業自得。
◆
あれから数年、もう数えられないくらいいくつも季節が過ぎた。
「今日は何の日か覚えているかい?」
「えーと……結婚記念日!」
「正解!」
「確か、二回目よね」
「うん! あったりー。ちゃんと覚えてくれていたんだね!」
私は今、良き夫に愛され、幸せに暮らしている。
「だからさ、今日は、お祝いの料理を作るよ」
「いいの!?」
「うん! いっつも作ってもらってるからね。たまにはお返ししないと」
「貴方の作る料理、とっても美味しいから好きなの」
「あはは、ちょっと照れるなぁ」
オーガンディーとの道はあそこで途切れてしまった。けれども今はもう後悔はしていない。いや、後悔していないとかそういった次元の話ではない。あの時彼と離れておいて良かった、と、今は迷いなく確かにそう思っている。
彼と離れたからこそ今の夫である彼と巡り会え結婚もできたのだ。
あの日の絶望、悲しみ、痛みも。
すべて無駄ではなかった。
◆終わり◆
婚約者オーガンディーはある日突然そんなことを言ってきた。
呼び出されて向かった中央公園での出来事だ。
「え……」
「聞こえなかったのかい?」
「い、いえ。婚約破棄、と。けれど……その、まだ理解が追いついていません。どうしてそのようなことを、急に……?」
私たちは同じ未来を見ていると思っていた。けれどもそれは幻想だったのか。私と彼が見ている未来は同じものではなかったのかもしれない、今になってその現実に気がついてきた。
明るい未来へと共に歩んでゆきたい。
そう思っていたのは私だけだった――?
「いや、だから、理由はもう言っただろう? 君は女としてのクオリティが低くて俺の妻となるには相応しくない、そう言ったじゃないか。それがすべてだよ」
オーガンディーは何事もなかったかのようにそんな心ない言葉を発する。
そんなことを言われたら相手がどう思うか。
心ない言葉をかけられた時、他人の心がどうなるのか。
彼は想像してはみないのだろうか?
……まぁ、想像してみていたならこんな酷いことはしないか。
「じゃあな。さよなら。……永遠に」
こうして関係は強制的に終わらせられた。
そしてそれによって私の心は黒く染め上げられてしまう。
悲しい。
辛い。
胸が痛い。
涙ばかりが溢れて。
彼のことを嫌いだと感じる。
でもまだ嫌いでなかった頃の感情もうっすらとは遺っていて。
だから、なおさら辛い。
大嫌いだと言ってやれればどんなに良かっただろう。そうすればきっとここまでの胸の痛みはなかったはず。嫌い、そう言ってしまえたなら。大嫌い、と叫んでやれたなら。でも私にはそれすらもできず。心は中途半端なところをふわふわと漂うばかり。
好きにはもう戻れない。
けれども嫌いと断言する勇気もない。
……ああ、私はどうすればいいのだろう。
◆
婚約破棄された日からちょうど一週間が経った日の午後、オーガンディーが亡くなったという情報が耳に飛び込んできた。
オーガンディーは今朝もいつものように路上で一人散歩していたそうなのだが、子どもたちが遊んでいた硬いボールが飛んできてそれが額に命中、その衝撃で気を失ったそうで――そのまま後ろ向けに倒れ、その際後頭部を強く打ってしまい死亡したのだそうだ。
あまりにも呆気ない最期である。
彼はきっとこれからも普通に生きてゆくと思っていただろう。死ぬかもしれない、なんて、思ったことはなかったはずだ。けれども彼には確かに死がもたらされた。大災害や馬車による事故などでもない突然の死、なんて、きっと誰だって想像しないだろうけど。まさかボールに殺されるとは、と、今あの世で思っているのではないだろうか。
ただ、それもまた運命である。
他人を傷つけて生きていたらそういうことになるのだ。
そういう意味では自業自得。
◆
あれから数年、もう数えられないくらいいくつも季節が過ぎた。
「今日は何の日か覚えているかい?」
「えーと……結婚記念日!」
「正解!」
「確か、二回目よね」
「うん! あったりー。ちゃんと覚えてくれていたんだね!」
私は今、良き夫に愛され、幸せに暮らしている。
「だからさ、今日は、お祝いの料理を作るよ」
「いいの!?」
「うん! いっつも作ってもらってるからね。たまにはお返ししないと」
「貴方の作る料理、とっても美味しいから好きなの」
「あはは、ちょっと照れるなぁ」
オーガンディーとの道はあそこで途切れてしまった。けれども今はもう後悔はしていない。いや、後悔していないとかそういった次元の話ではない。あの時彼と離れておいて良かった、と、今は迷いなく確かにそう思っている。
彼と離れたからこそ今の夫である彼と巡り会え結婚もできたのだ。
あの日の絶望、悲しみ、痛みも。
すべて無駄ではなかった。
◆終わり◆
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