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9話「良い香りに包まれて」
しおりを挟む「遅くなり失礼いたしました」
あれから半日ほど経って、ローゼリアと再会できた。
彼女はいつもと変わらない冷静さで。
淡々と仕事をこなしてゆく。
「ローゼリアさん、あの……大丈夫でしたか? 怖い思いをされたのではないかと……」
「問題ありません」
「少し……心配で」
「あのようなことはこれまでにもありました。ですから問題ありません。ただ、ご心配をおかけしていたようで、失礼しました」
今はまだ派手に動くことは許されていない。刃物で刺された傷が治りきってはいないから。ただ、それでも、段々今の状態に慣れてきて。最初は少し痛みが気になったりもあったのだが、今では上半身を起こすことくらいは容易いことになってきている。
「アイリスさん、ハーブティーはお好きですか?」
――と、急にそんな質問を放たれる。
「え? あ、はい」
きょとんとしてしまいながらも首を縦に振ると。
「ではこちら、お渡しします」
ローゼリアはティーカップを持ってこちらへと歩いてきた。
その白色の器にはやや黄色がかった液体が入っている。湯気が上へのぼり、それと共に良い匂いが漂ってくる。カモミールとミントを混ぜたようなそんな個性的かつ心地よい香りだ。
「これは……」
「カモミールミントです」
おお……当たっていた……。
「どうぞ」
「あ、はい、ありがとうございます」
ティーカップを顔に近づければ、心をほぐしてくれるような優しく愛おしい香りが顔全体を撫でてゆく。
嬉しくて、つい頬が緩む。
そんな私を傍で見ていたローゼリアは唐突に苦笑。
「そういえば、先ほど、魔神様に少し怒られてしまいました」
「え!? そ、そうなんですか? 大丈夫ですか?」
彼女の口からそんな話が出てくるなんて、少し意外だ。
「今後はアイリスさんを心配させることがないように、と注意を」
「えええ……」
「魔神様は貴女を気に入っているようです」
「そんな。私なんてただの女でしかないのに」
「ですが、貴女に迷惑をお掛けしたことは事実。今後はそういったことがないようにしなくてはと反省していたところです」
そこまで言って――ふふ、と、ローゼリアは笑った。
それからしばらく、私はあの国へ戻るかどうかを考えていた。
どうしよう、戻る方が良いのだろうか。そんなことばかり考えて。どうしよう、どうすればいいのか、そんなワードばかりが脳内を巡る。
ここから離れるのは寂しい。
でも国にいる両親のことも少しは気になっている。
両親は生きているだろうか……。
ただ、彼らのところに戻ったとしても、それで幸せになれると決まっているわけではない。
国の状態も国の状態だ、そこにここでの暮らし以上の幸福があるという保証なんてどこにもないし。
もしかしたら、今さら戻っても嫌な顔をされてしまうかもしれない。
それに、最悪、両親はもうこの世にいないかもしれない。もしそんなことになっていたら、ここを出たが最後、居場所を失うこととなってしまう。
どうしたものか……。
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